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1. 研究の目的
 本調査研究は、造船・海運がその知見を集め、2010〜2015年の世界市場における優位性を確保することは勿論、地球規模の環境保全、安全運航、経済運航をもたらす舶用推進システムの開発に寄与する重点研究テーマを抽出することを目的とする。
 
2. 研究の目標
 時代の要請に即した舶用推進システムの質的転換を図るとともに、国民生活の向上、地球規模での環境保全等の新たな視点を踏まえ、近未来にブレークスルーを必要とする技術課題を抽出するための調査・研究を平成13年度と14年度の2年間にわたって実施し、2010〜2015年をめどに舶用推進システムの創造的展開を図るための技術課題を環境対応、信頼性および経済性等の視点に立って、以下の対象機種に重点研究テーマを抽出すること。
 
(1)エンジンシステム
・低速ディーゼル機関 ・中速ディーゼル機関
・高速ディーゼル ・ガスタービン機関
・メタノール機関 ・燃料電池
・スターリング機関 ・コンバインドサイクル機関
(2)推進システム
・プロペラ ・ウォータージェット
 
3. 調査研究の内容
3.1 低速ディーゼル機関
3.1.1 重点研究テーマの選択に関して
 今回、検討されたエンジンシステムの中では、現在までほとんどの大型商船に採用されてきており、既に成熟に近い領域に達している機関である。高熱効率、C重油対応、低製造コストを考慮すれば、近い将来も、低速ディーゼルは一般商船の推進システムの中心であると考えられる。市場に出る総数、総出力が圧倒的に多いため、低速ディーゼルの改良、改善による海上輸送におけるトータルメリットは大きい。
 将来更に重要視される環境対応技術と、船舶の陸上支援、管理体制への移行に関連して更なる信頼性、保守性向上のための取り組みが重点研究テーマとして抽出された。
(1)環境対応技術
 IMO(国際海事機関International Maritime Organization)の「船舶からの大気汚染防止に関する規則MARPOL73/78の新付属書VI」で船舶からの大気汚染物質の排出について規制されることになった。規則自体は未だ発効されていないが、ディーゼル機関から排出されるものとしては、排ガス中の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)が規制の対象になる。
 また、北欧を中心に各国、地域がより厳しい水準のローカル規制(税制等で低環境負荷のシステムを優遇)を強化し始めており、これに対応していくことが不可欠になっている。
 ディーゼル機関は、NOx排出率が他機関に比べて多く、環境負荷低減を追及する場合の弱点になっている。
 CO2の排出については、MARPOLでは規制の対象になっていないが、地球温暖化に関連して総排出量の削減の要求が高まっている。将来を考えると舶用ディーゼルにも何らかのCO2低減対策を強いられる可能性が大きい。CO2の削減には、熱効率の向上と炭素分の少ない燃料への転換の2通りの選択肢があるが、低速ディーゼルの熱効率は既に非常に高いレベルにあり、機関単体でのこれ以上の向上は困難である。廃熱回収技術も古くから開発され、実用化されてきたが、極度の廃熱回収は信頼性の低下につながる傾向があり、現在は、大出力機関の一部で信頼性を損なわない程度の廃熱回収をしている。大出力機関のみでなく、中小型機関にも適用できるように低コストで信頼性を確保したシステムの開発が望まれる。
 燃料については、陸上でも、いわゆるクリーン燃料への転換が進められている。舶用の低速ディーゼルにおいてもDME、ガス等の新燃料を使用する技術の開発は必要である。同時に、これらの新燃料に対応した船内の燃料供給システムについても開発が必要である。
(2)信頼性、保守性の向上
 これまでにも研究されてきたが、利用者側は、更なる信頼性、保守性の向上を求めている。例えば、海象、燃料性状等の機関に影響するデータを含む運転状態の陸上でのモニタリング、リアルタイムのデータに基づいた陸上での保守、整備指針の立案、豊富なデータに基づいた故障事例データベースの構築とそれによる故障予知、本体のみならず部品レベルでMTBF(Mean Time Between Failure、平均故障間隔)等の数値で信頼性を把握し、それをベースとした保守、整備間隔延長に向けた開発等が挙げられた。将来には、陸上、航空用ガスタービンで研究されている最新の信頼性管理を舶用ディーゼルに取り込むことを検討していくべきであると考える。
 
3.1.2 重点研究テーマ
 低速ディーゼル機関の重点研究テーマは以下のとおりである。
(1)環境対応技術
(1)研究開発テーマ名
・低質油の使用を考慮した舶用脱硝装置の研究開発
(2)研究範囲
・現在開発されつつある排ガスの脱硝技術の調査、舶用転用・低質油対応への技術問題解決、コンパクト・安価な舶用脱硝装置の開発
(3)研究効果
・大気汚染物資の排出率の削減による排出総量の大幅削減
(2)信頼性、保守性の向上
(1)研究開発テーマ名
・信頼性向上のための船陸一体型管理システムの研究開発
(2)研究の範囲
・運転状態の船上データ蓄積システム開発、運転状態の陸上モニタリングシステム開発、船上保全実績データ蓄積システム開発、平均故障間隔・平均保全間隔データ蓄積システム開発、機関メーカでのデータ利用に関する研究
(3)研究の効果
・機関メーカにおいては機関の信頼性向上のためのデータとなる。船舶ユーザーにおいては整備間隔の延長による乗組員の負担減、信頼性向上による安全運航の確保となる。
 
3.2 中速ディーゼル機関
3.2.1 重点研究テーマの選択に関して
 中速ディーゼル機関は低速ディーゼル機関と共に技術的には成熟した機関と言える。低速ディーゼル機関では満足出来ない特殊船分野では今後共採用されてゆくものと思われる。
 将来中速機関が採用されるためには、低速ディーゼル機関に比較し不利と考えられている燃料消費量の改善、ガス燃料等の新燃料の採用、環境対応技術の開発、さらなる信頼性の向上が重点研究テーマとして抽出された。
(1)燃料消費量の改善
 機関単体の燃料消費率は低速機関に比較し不利であることは否定できないが、排ガス・冷却水の廃熱利用、寸法的に有利である機関室の小型化や配置の自由度、回転数選択の自由度等を考慮しトータル的に燃料消費量の低減をはかることが重要と考えられる。
(2)環境対応技術
 中速ディーゼル機関は用途としてフェリー・RORO船・客船等に多く採用され、国内主要港への出入港が頻繁に行われ、排煙の問題もクローズアップされつつある。また、客船においての黒煙は乗船客にも不快感を与え、フェリー・RORO船では煤が岸壁の貨物に悪影響を与えることもある。未だ、法的規制は無いがディーゼル機関排ガス中の粒子状物質(PM)が人体や環境に与える影響を指摘する声もある。
 MARPOL73/78の新付属書VIの発行以降、機関メーカでは種々のNOx低減技術を開発発表してきたが、粒子状物質(PM)、未燃炭化水素(HC)の排出削減についてもさらなる研究が重要と思われる。
(3)新燃料への転換
 自動車用ディーゼル機関では、既にGTL(Gas to Liquid、天然ガス液体化燃料)、DME(ジメチルエーテル、天然ガスや石炭ガスなどを原料とした合成燃料)等の新燃料への転換が各社で研究されている。船舶用においてはLNG船向けガス焚き機関が開発されてはいるが国内においては未だガス焚きディーゼル機関は搭載されていない。LNG船の場合、運航の安全を考え複数台の中速ディーゼル機関を装備したプラントも候補として挙げられているが、最も有効なシステムはどの様なものなのか、安全なガスの供給システム、その周辺装置等の検討を進めなければならない。
 また、GTL、DME等の新燃料を舶用に使用するためには機関本体の開発が最優先であるが船社・造船所では船での貯蔵方法、ガス供給装置、安全設備等についての研究やその輸送方法についても研究を進める必要がある。
 GTL、DME等新燃料の採用は高速及び中速ディーゼル機関が内航に多く採用されていることより高速及び中速ディーゼル機関での研究が優先されるものと思える。
(4)信頼性・保守性の向上
 フェリー、RORO船等定時運航が原則であり機関故障による遅延は経営をゆるがしかねない。これまでにも機関本体、付属品について継続的に研究されてきたが、更なる信頼性の向上、保守性の向上をユーザーは求めている。運転状態を監視し故障予知、部品交換時期の予告等を行うことにより事前にメンテナンスを実施することが大事故を未然に防ぐことになる。そのためには、信頼性のあるセンサーの開発、部品寿命の把握、故障データの蓄積と分析などが必要との意見が挙げられたが、長い実績のあるディーゼル機関であるが故に可能ではと言う考え方も提案された。
 
3.2.2 重点研究テーマ
 中速ディーゼル機関の重点研究テーマは以下のとおり。
(1)燃料油消費量の低減
(1)研究開発テーマ名
・中速ディーゼル機関を搭載した船舶の燃料消費量の低減化
(2)研究範囲
・代表的な船種において、船型、有効なカーゴスペース、最適な推進システム、排ガス・冷却水等の廃熱利用等のシステムの研究
(3)研究効果
・省エネルギ、環境保全
(2)環境対応技術
 重点研究テーマとして低速ディーゼル機関の分野と同じ、低質油を考慮した舶用脱硝装置の研究開発が挙げられた。
 詳細は低速ディーゼル機関を参照。
(3)LNG船の中速ディーゼル機関の採用
(1)開発テーマ名
・LNG船の中速ディーゼル機関の採用に関する研究
(2)研究の範囲
・LNG船における最適推進装置・ガス供給装置・制御方法・安全装置
(3)研究の効果
・LNG船においては蒸気タービンシステムに比較し燃料消費率の削減が可能となり(省エネルギ、環境保全)、機関室面積も削減可能となる。
(4)新燃料(GTL、DME)の採用
(1)研究開発テーマ名
・新燃料(GTL、DME)の採用に関する研究
(2)研究範囲
・GTL、DME燃焼システムの研究
・GTL、DME燃料の輸送手段、船内貯蔵設備・供給設備・安全装置等
・GTL、DME燃料出現時に対してのFSの実施
(3)研究の効果
・環境保全
(5)信頼性・保守性の向上
 信頼性、保守性の向上が重点研究テーマとして挙げられているが、内容は低速ディーゼル機関の分野と同じである。







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