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人口問題を考える―人類生存の条件と人類社会の未来―

 事業名 基盤整備
 団体名 アジア人口・開発協会 注目度注目度5


 農業をやめた農民には政府が、例えば、黄河上流域の場合ですと、1畝(ムー)0.7反歩当たり100kgの穀物を支給するという政策を川の流域別にやっています。
 我々はその現場をずっと調べて歩いているのですが、おそらく半分くらいは失敗しているのではないかと思います。樹木を失った傾斜地ですから保水力が弱く土が乾燥して、苗木がうまく根づいていないのです。
 中国政府はなぜ、こういうことをしたのか。端的に言いますと、6000年間続いてきた中国の黄河流域の農耕文明が、人口の圧力によって大撤退作戦を始めたというのが、私達の印象です。人間の活動と自然の許容力が、こういう形で破綻をきたしていると考えることができます。これはイデオロギーでは、いかんとも克服しがたい事実の問題です。北京大学の人達も同じような観点を持っています。
 このような退耕還林政策という前例もなければ、将来どうなるか、経済学的に予測もつかない大政策を始めざるを得なかったということが、人間の活動、人口の増大と、食料の生産を中心とする生態系の維持が、いかに困難であるかを物語っているのではないかと思います。(写真(5))
 
写真(5)
 
 黄土高原は西安から銀川(ギンセン)というイスラム圏中国のちょうど万里の長城が消えようとしているところへ向かっていくところに広がっています。こういうところでは雨や風によって土が流出していくのですが、それがとみに激しくなりました。斜面の上の方では畑をのせたまま崖が崩れ落ちている中で、耕作が行われています。
 黄土高原の斜面にポツポツと見える洞窟のようなものがヤオトンと言われる伝統的な住居です。横穴を掘り抜いて、そこにまだ多くの人が住んでいて、こういう状態のままに、傾斜地の崩落、大崩落が始まっています。こういうところに木を植えて、退耕還林、封山緑化(山を封じて緑化する)という政策をとらざるを得なくなったわけです。
 一部地域では、政治的植林だろうと思います。こういうところに、日本の林野庁に木を植えろと言っても絶対に断ると思います。こんな急傾斜地で、しかも降水量が200mmとか300mmのところに、苗木が活着するのは難しいのです。しかし、中国は、確かに偉大な一面を持っております。「愚公山を動かす」ということわざがあるように、現代の中国の存念を表す、非常にシビアな風景だろうと思います。とてもじゃないですが、この先、何があるかということは、想定もできないわけです。
 いたる所に「木を植えて山を美しくしよう」、あるいは、「豊かさを木によって招こう」というようなスローガンが、掲げられています。人口と人間の活動、それと自然の持つ許容力、キャリング・キャパシティーが一致しなくなったときに、いったいどういう政策をとらざるを得なくなるのか、退耕還林政策の現場を部分的にですがお伝えしたわけです。
 私は、冒頭にポール・アーリックのI=PATは、先進国工業国においては説得力を持つけれども、途上国においては説得力を持たないだろうと述べました。つまり、前に何人かの講師の方がご指摘になったように、例えば、人口がどのように移行していくかについてヨーロッパの社会を歴史的に分析した結果、人口転換理論がつくられました。その理論に従えば、最初の段階では、たくさん産んでたくさん死ぬ。その次の段階で、例えば、工業化が進んできますと、今度は、たくさん産む事態は続くけれども、それは、予防接種が入ったり、食料援助が入ったり、農業の生産力が高まる、物資が潤沢になることによって、少ししか死ななくなる。多産少死になる。その次の段階になりますと、例えば、女性の社会進出とか、識字率が向上して、それぞれの国民が自己決定権をはっきり持つようになると、やたらに子供は当然つくらなくなる。教育にもお金がかかる。そうしますと、少なく産んで少なく育てる。少産少死というふうに、人口は3つの段階を経て、静止人口に至ると言われています。
 ところが、人口転換の「わな」と言われる言葉があります。これは第2段階、つまり、たくさん産んでいるが、食料とか医療の設備が整ってきて人が死ななくなった段階で、過渡的に人口が増えるのではなくて、工業化に失敗して、人口が増える状態が定着してしまうということです。
 そういう国々がアジアやアフリカにたくさんあります。こうなると、まさに、人口転換の「わな」にはまった状態で、人口は増え続けていかざるを得なくなるということになります。(写真(6))
 
写真(6)
 
 私は長年ジャーナリストをしていたものですから、1972年のスウェーデンに始まり、1982年のケニア、1992年のリオの地球サミットまで3度にわたって環境サミットに参加しました。(写真(7)、(8))
 
写真(7)
 
 現場でさまざまな事態を見てきました。1992年リオデジャネイロの地球サミットで、モーリス・ストロング会議事務局長がその開会演説で環境サミットを開く理由には2つあると述べました。1つは、1日に25万人が途上国で増えている。そういう人口の爆発的な増加の問題。第2点は、人類の75%が日々の糧を得るのに汲々としている、貧富の差の拡大。この2つの問題を解決するために我々は地球サミットを開くのだ、とはっきりと主張しました。
 そして、彼は、さらに、開発途上国における人口の集中・急増と先進国への富の集中は、環境と経済の両面で、持続不可能な不均衡をつくりだしているが、こういう事態は長期間続くものではない。人口増加は緊急に抑制され安定化されなければならない。もし、我々人類が、そうしなければ自然がはるかに残酷な方法で、人口抑制にかかるだろうと続けているのです。
 
写真(8)
 
 これが、国連の環境サミットにおける会議事務局長のブラジルにおける開幕演説でした。人間が何もしなければ自然が残酷な、はるかに残酷な方法で人口の抑制にかかるだろうと述べたのです。これは今までの科学者の先生方が、2、3ご指摘になった通りです。
 この会議では、リオ宣言とか、アジェンダ21が採択され、持続可能な開発のために、各国政府は適切な人口政策を実施せよ、人口動態データベースをきちんと確立して、政策にそれをとりこむべきである、人口と環境と開発の統合を目指すべきである、特に女性の地位の向上・教育の向上が決定的であると主張しました。(写真(9))
 
写真(9)
 
 この会議に先立って、ロンドンで、インナー・パーティ(部内の事前会議)が開かれ、その席でストロング事務局長が私に人口を減らすことを議題とした国際会議でありながら、その発言の多くが会議を破壊するような露骨な反対の意見であった、と大変興味深いことを述べておりました。彼は、誰がどう言ったということは言っておりませんが、一般的には、イスラムのファンダメンタリズム(原理主義)、あるいは、ローマカトリック(ホーリーシー)に代表される人間観の違いがあります。これが例えば人工中絶の問題とか、出生抑制に真っ正面から反対するという動きを生み出したわけです。
 しかしながら、その後1994年にカイロで、国連人口開発会議(ICPD)が開かれ、国際社会は、性と生殖(人口再生産)に関する健康と権利、いわゆるリプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ、あるいは女性の教育の向上、社会参加をバックアップしていこうという女性のエンパワーメントと2つの政策を中心とした行動計画を採択しました。これは、イスラムもバチカンも計画経済も市場経済も全部が一応合意をして採択したものです。これには、2つの大きな柱があります。2014年までに、安全で信頼できる家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルスを享受できるように努力すること。第2点は、中間目標をつくり、2004年と2014年と2つに分け、それぞれの段階で、それぞれに決められた、その平均寿命とか、乳児の死亡率を達成しようということを決めました。現在その達成のための努力が続いているのです。
 いったい、そんなことをして効果があるのか、努力の成果は上がっているのかという、非常に大きな疑問があります。ここにいらっしゃる多くの方が、ご存知だと思いますが、国際家族計画連盟(IPPF)の会長をしておりましたフレッド・サイというガーナ出身の医師がいらっしゃいます。IPPFは今回この講演会を主催されているアジア人口・開発協会(APDA)と似た性格のNGO色の強いものです。そのフレッド・サイさんに、ジュネーブでインタビューをしたことがあります。サイさんによると“20年間で80カ国以上の国で人口、出生率が減ってきている。1960年代、世界の対前年比の人口の出生率は2.1%と非常に高いものだったが、今では1.3%になった”と述べていました。
 どうしてそうなったかと言えば、国際協力と国際援助が開発途上国に行われることで、政策が一層促進され、各国の政治家達を力づけ応援をしたからであり、我々の努力が実っているのだということを、サイさんは強調していました。そして、この環境と人口の関係の質問に対して、サイ氏は、“人口は、開発や発展の担い手であると同時に、開発の成果を消費するものでもある。よい教育を受けた、社会参加の訓練を受けた人口は、産業の技術水準を上げ、国づくりの資源となる。しかし、中央アジア、中央アフリカや西アフリカでは教育も医療も雇用も水準は大変低い。そういう状態のままで、人口の増加率が3%を超えて増え続けている。例えばアフガニスタンも、イスラエルと戦っているアラブも、3%台の人口増加にあるが、そういう事態は、もはや、明らかに破滅的である”とサイさんは主張しておりました。(写真(10))
 
写真(10)
 
 私達は人口問題と取り組みさまざまな努力を重ねて現在に至っていますし、これからも努力を続ける決意を固めています。NGOを核とし、各国のあるいは政府機関がNGOをサポートするという形をとった現場での実践が、日本の至近距離の近未来における国際貢献の第1目標になるべきであろうと考えています。その意味で、こちらのアジア人口・開発協会の活動は大変評価されるべきであろうと、私は考えています。どうもありがとうございました。
 
広瀬:
 原先生、どうもありがとうございました。貴重なお話、感謝いたします。次は、内嶋先生にお願いをいたします。どうぞ。







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