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人口問題を考える―人類生存の条件と人類社会の未来―

 事業名 基盤整備
 団体名 アジア人口・開発協会 注目度注目度5


第1部
3)食料の視点から
内嶋 善兵衛
(宮崎公立大学学長)
 
プロフィール
内嶋 善兵衛<うちじま・ぜんべえ>
1929年 長崎県生まれ
農学博士(専攻)農業気象学、環境科学
<現職> 宮崎公立大学・学長
<学歴> 宮崎大学宮崎農林専門学校農科卒業
<職歴> 農業技術研究所所員、お茶の水女子大学理学部教授、宮崎公立大学人文学部長
<主な著書> 「21世紀の食料・農業」(共著)1975年東大出版会、「人類と地球環境」(共著)1996年建帛社、ほか多数、訳書多数
<受賞> 1965年日本農業気象学会賞受賞 1986年農水省研究功績賞受賞 2000年日本農業研究所賞受賞、環境庁長官賞受賞
 
 宮崎公立大学の内嶋です。私は長いこと約37年間、農水省の研究所で農業と気象との関係を研究してまいりました。その後いろいろな意味で、地球環境という方向へ少しシフトしてきまして、現在、研究のかなりの部分を食料問題と地球環境にあてています。
 今日は、食料の立場から人口問題へどうアプローチするかということを、もう少し基礎的な面から、お話しさせていただきたいと思っています。
 私達自身も生物ですが、地球上に生きている生物には、大きく分けて植物と動物とがあります。その生物は3つの大きな特徴を持っています(表(1))。すなわち、第1の特徴は、高分子からなる生体膜によって、外界から、隔離、保護されているということ。それから、第2の特徴は、外界から生存エネルギー、すわなち、食物を摂取して、それを代謝して、排泄して生きているということ。第3の特徴は、DNA情報を利用して、自己を複製するという能力を持っているということです。自らの成長の中で、この3つの大きな能力を統一的にコントロールしているのが、生物であるといってよいだろうと思います。
表(1)
 
 個々の生物は、外界から生存エネルギー、すなわち食物を摂取して、それを自分の体の中で代謝、同化して生きていくという大きな特徴を持っています。この機能なしには、私達は生物として存在し得ないということですから、食料問題、すなわち食べ物の問題は、生きていく上において、非常に大切なことだと思っています。
 図(1)は、太陽、地球、生物圏、人間圏でのエネルギーの流れを表したものです。1年にどれくらいのエネルギーが流れているかというと、地球から1.5億kmのかなたに輝いている太陽は、121.8×1029kJ/年という膨大なエネルギーを宇宙空間に出しています。太陽から1.5億km離れた地球表面近くに達する太陽エネルギーは、太陽が1年間に出す量のほぼ20億分の1です。このごくわずかなエネルギーが、水の惑星といわれる地球表面から水を蒸発させるのに45%、それから、目に見えない赤外放射として41%、次に顕熱伝達によって13.7%が放出されています。
 この営みによって、生物が生存できる地球の気侯条件が生み出されていると言ってよいと思います。では、私達61億の世界人口を含め地球上を征服しているかのように見える生物界は、どのようなエネルギーを用いているかと言えば、それは、植物が固定してくれるエネルギーを利用して生存しています。陸上植物および海中の植物が固定してくれる太陽エネルギーは、地球表面に入ってくる28.5×1020kJの0.11%にしかすぎません。また食料に利用している食料エネルギーは地球表面に入ってくる太陽エネルギーのほぼ10万分の1ぐらいだろうと思われます。
 この中で、すべての生物、地球上に生きるすべての生物は生きているのですが、私達、人間は、約1万年前に農耕を発明しました。その農耕の発明によって、現在、たくさんの食料を生産しています。それを1990年代後半のデータで計算してみますと、344×1015kJ(キロジュール)/年の食料エネルギーを私達は獲得しています。
 これで、61億の人類とたくさんのウシ、13億頭ですが、そういうものを含めて生きているのです。これらのエネルギーは私達の知的活動、肉体的活動、その他すべてのさまざまな現象を起こしたあとはまた、すべて目に見えない赤外放射として宇宙へ静かに流れていきます。
 一方、私達人類は、第1次産業革命、だいたい17世紀末からだと思いますけど、化石エネルギーを大量に消費するようになりました。特に1950年以降から始まる第2次産業革命ではこの化石エネルギーと核エネルギーで、人類が食べている食料エネルギーの約10倍のエネルギーを使って、私達は科学技術文明を地球上に展開しています。そして、人間圏という1つの、他の生物とは非常に違った圏を人為的につくり上げているということです。
 一方、人類が現在利用しているエネルギーの中で核エネルギーを別として、この食料エネルギーは、現在、太陽から入ってきている太陽エネルギー、すなわち新鮮な太陽エネルギーです。一方、化石燃料は地質時代に地球に届いた太陽エネルギー、すなわち、化石化した太陽エネルギーと呼ぶことができます。
 ですから、人類と他の生物を分ける根源的なものは何かと言うと、他のすべての生物は、現在、太陽から来る新鮮な太陽エネルギーで生きていると言えます。一方、人類だけが、現在、来ている新鮮太陽エネルギーと、そして過去の太陽エネルギー、すなわち化石化した太陽エネルギーとの2つを利用して生きているということです。私達は、これを利用することによって、すばらしい文明生活を享受していますが、一方では、地球に破局的なインパクトを与えています。
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図(1)
 
 では、私達の食料をつくってくれている農業を見ます。農業をそういう太陽エネルギーのシステムから見ますと、図(1)のような形に表すことができるかと思います。松井先生、星先生のご講演にあったように、地球システムを構成する要素には生物圏、人間圏もありますが、太陽から入ってくるエネルギーは、大気圏、水圏、地圏のような地球気候システムを動かして、地球気候、それからローカルな気候をつくり上げてくれます。このローカルな気候条件、気象条件を背景にして、地球上のいろいろな地域の植物生産力が決まってきています。
 この植物生産力を私達人類は、作物または家畜・家禽などを利用して、食料生産力に転換することに成功したということです。この食料生産力の向上によって、すなわち、食料のゆとり、それに基づいて、人的ゆとり、時間的なゆとり、すなわち余暇が発生することで文明の発達という1つの頂点がつくり上げられたと言えます。
 この文明の発達が何をもたらしたかというと、それは、技術の発達をもたらし、それは食物生産にフィードバックされて、再び食料生産力を向上させていくという形で、過去1万年間、我々は進歩してきたといってよいだろうと思っています。
 それゆえ、私達の生存を支え人類の生存を支えている農業および食料生産は、人類の生存のための最も重要で世界最古の産業であると言えると思います(表(2))。
表(2)
 
 そして、この最古の産業は、文明を生み出し、支えてきた、世界で最も大切な人類の営みであると言ってよいだろうと思います。この営みを支えてくれているのは何かと言うと、これは、地球気候の上に生きる植物群によってつくられている、地域地域の植物生産力そのものと思います。
 ほぼ40億年前に地球上に現れた光合成を行う微生物から植物が生まれてきたということは、既に述べられた通りだと思います。で、すべての生物群は、光合成の産物によって養われています。したがって、植物群は、地球上の全生物を、その双肩に担い続けている「緑のアトラス」、すなわち「緑の巨神」そのものです(表(3))。
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表(3)
 
 この全生物を担う「緑の巨神」の力は何かと言えば、植物が吸収し固定した太陽エネルギーの量、すなわち、植物の純一次生産力(Net Primary Productivity)であると言ってよいだろうと思います。ですから、ある地域地域の植生、自然植生の純一次生産力は、その地域地域の生態系の活動のレベル、種の多様性(Species Richness)、それからその大きさ(規模)を決めている最も重要な生物学的な要素であると考えられます。
 では、地球上の、その地域地域の生産力はどのくらいになっているかというのを大まかに気候学的なモデルを使いながら計算してみますと現在の地球気候条件では、図(2)に示されているように現在の気候条件に左右されて、量も分布も地球上で大きく変化しています。
(拡大画面:79KB)
図(2)
 
 特に、気候条件が高温多湿という条件では、例えば、東南アジアの島々付近ですが、1ha当たり1年間にほぼ30tの植物生産力を持っています。図上で陰影のある地域は1ha当たり1年間に10t以上の高生産力地帯という地域を表していますが、そういう非常に生産力の高い地帯は広い地球の陸地の中で、極めて限定された地域であることがわかります。
 それからもう1つ、図上の大きな不斉形の円は有史以前もしくは新大陸では、300年ないし400年前から農耕を営んでいる地域を表しています。これからわかりますように、人類は、自然の環境および地球が長い歴史的な発展の中で、準備してくれた生産力・植物生産力を、作物を通し、または家畜を通してそれを自らの食料に変換して生きてきているということがわかるかと思います。
 1850年ごろから世界中で気象観測が始まってきていますが、この過去150年くらいでどのように地球の気候が変わってきたか、または、人口がどのように変わってきたか、食料生産力がどのように変わってきたかということを非常に端的に表してみますと、ここにあるような1つの図をつくることができます(図(3))。
(拡大画面:53KB)
図(3)
 
 これは、地球の平均気温の変化を表しています。一方これは、地球の全人口の推移を表しています。そして、これは、世界の食料資源の中で最も重要な穀類の生産量の増加を表しています。この線は、人口1人当たりの穀類の生産量を表しています。
 地球気候は、150年ぐらいの時間の幅で見ますと、かなり大きく変化してきています。だいたい、1920年代から1945年ぐらいまでは、緩やかに上昇してきましたが、その後25年近く若干のデコボコはありますが少し低下してきて、ほぼ、一定に保たれていました。ところが、1970年代の後半から、また急激に上がり始めてきています。で、この現象を説明するのに、いわゆる人類の化石燃料の多使用による人為的な地球温暖化という現象が、この背景にあると言われています。
 1950年で、だいたい年間6億tの穀類を生産していたのが、1990年代半ばには、約20億tを超える穀類を生産して、そして人口が増えたにもかかわらず、1人当たりの穀類の生産量はそれを上回る水準で順調に推移してきました。しかしこれから先どうなるかという問題については、非常に悲観的な見方が強くなってきています。食料増産の増加率がこれまでのほぼ半分ぐらいになっていくだろうという予想が1つ出されています。







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