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平等な機会、平等な権利、平等の責任
 平等と公正は、女性とその家族のより良い生活であると言い換えることができる。身体的にも健康で社会的な地位も向上した(エンパワーした)女性は、コンドーム使用を促進し、望まない性的関係を拒絶し、暴力的なパートナーと別離し、さらに必要なサービスを得ることで暴力や病気から自分を守ることが可能となる。
 生活の中における女性の役割が単に子供を産む能力であると定義される場合、女性には選択の自由はほとんどない。経済活動を行う機会が少なく、社会的地位が低いため、女性が自立するには限界があり、特に結婚や子供の数の決定に関してはその傾向が強い。
 今なお多くの国々において、法律や慣習が様々な女性の権利を制約している。その権利とは以下のものである。
 
女性の識字率と出生率
 女性の教育水準が高くなるほど、家族の規模が小さくなる傾向がある。
識字率のデータの出所:Literacy data from UNESCO’s Education for All:Status and Trends series.
出生率のデータの出所:UN Population Division’World Population Prospects:The 1998 Revision.
 
女性の識字率(15歳以上)
1995−2000年の合計特殊出生率(TFR)
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合計特殊出生率:ある時点における再生産年齢の女性の年齢別出生率を合計したもの。
 
●土地や財産の相続権。
●融資を受ける権利。
●学校に通学・在学する権利。
●就労して所得を得て、昇進し、職業上の差別から解放される権利。
●性行動に関する健康(セクシャルヘルス)とリプロダクティブ・ヘルスに関してサービスを利用する権利。
 
 教育はより良い生活を実現する可能性を提供する最も良い機会であるが、以下の統計が示すように差別は依然として顕著である。
 
●世界の非識字成人9億6,000万人のうち3分の2が女性である。
●小学校に通っていない子供1億3,000万人のうち3分の2が少女である。
 
 女性が教育を受け家族計画の知識を持てば、より小さく健康な家族を作ることにつながる。高い教育を受ければ乳児死亡率や出生率は低下する。利用できる医療や保健が限られている多くの貧しい国々では、学校教育が幼児死亡率の低下に大きな影響を与え、就学年数が1年増える毎に幼児死亡率が5〜10%減少している。
 
女性器切除(FGM)の廃絶
 少女や女性の性器切除という有害な伝統的因習に反対する機運が高まっている。地域社会や宗教団体の意識が高まり、各国政府は法律を通過させ、FGM終結のための国際的な合意形成も間近である。毎年200万人もの少女が性器切除の危険にさらされており、全世界で推定1億3,000万人の女性が何らかの形での女性器切除を受けたとされている。
 女性器の切除は、通常思春期の少女か結婚年齢に近づいている若い女性に対して行われるが、これらは医療施設ではない所で、麻酔も施されずに、不潔な器具で行われるのが通例である。FGMは少女・女性に対し、心理・身体的に深刻な影響をもたらす。
 
●FGMの結果、毎年何千人もの少女と女性が感染や出血が原因で死亡し、出産時に死亡している。
●FGM全体の80%がクリトリスと小陰唇の切除であり、15%が最も過激なFGMの形態である陰部封鎖である。
 
男性の参加
 男性が支援・協力・参加をすれば、女性への暴力のない、より公平な世界の実現が加速される。
 男性参加の目的は家族の規模を男女の合意のもとで決め、あらゆるレベルの政策・計画に対し男女が共に影響を与え、避妊に対する責任を男女が共に分担することにある。男性も家庭内暴力・売春・強姦を根絶する努力をし、娘・妻・母・姉妹に対する虐待を防止するために積極的な役割を果たさなければならない。
 多くの文化において男性の意向が優勢であるために、どのように子供を作るかという意思決定をする際に、男性が協力的かどうかが避妊具の使用を高めるためのカギとなる。
 そこで、家族計画プログラムにおいて、様々な方法―男性専用の診療所の設置、男性が訪れやすいように既存の診療所の改修、また、職場における各種サービスの提供、コミュニティレベルでコンドームの配布や情報提供、さらに男女が協力しあうことは素敵だというイメージを社会に浸透させるよう努力する―など、より男性を引き付けるようなサービスを提供する事例が増加している。
 
国際人口開発会議(ICPD)行動計画及びその他の宣言文
 1993年国連総会において、「女性に対する暴力とは、女性の権利と基本的自由の侵害である」との決議が採択され、女性への暴力を廃絶するために国際社会が積極的に取り組むことを要求した。
 1994年カイロで開催された国際人口開発会議は、その行動計画において男女間の平等(ジェンダーの平等)を唱え、女性のエンパワーメントを実現することで女性が自らの出産を管理できるようにすることを提唱した。また、FGMをはじめとする女性への暴力の根絶を要求している7
 世界社会開発サミット(1995年 コペンハーゲン)で唱えられた宣言と行動計画では、女性の教育と職業の機会均等が求められた。
 第4回世界女性会議(1995年 北京)では次のことが提唱された。―2015年までに質の高い医療や保健サービスをすべての国で利用できるようになること。男性と同じように女性も土地を所有し、融資を受けることができ、また男女の差別なく雇用が保障されること。個人の権利及び政治的権利を実効力のあるものとして確立すること。女性に権利を与える(エンパワーメント)重要な手段として少女と若い女性に教育を受けさせること。
 国連人権高等弁務官は、1997年に、女性が求めている様々な権利はすべて基本的人権であると述べている。
 1999年10月、国連総会は女性に対するあらゆる形態の差別を排除するための条約(女性差別撤廃条約:CEDAW)に関して21項目の任意議定書を採択した。同議定書は、参加加盟国の女性が権利を侵害されたことを訴え、参加加盟国の中での重大かつ組織的な暴力の現状に対する審問手続きをとることを認めている。
 
現在の進行状況及び成功の具体例
 エチオピアでは、家族計画を提供する際に、従来必要であった配偶者の承諾が不要となったとたんに、診療所のサービス利用が26%増加した。女性はこれまで男性から暴力を受けたり捨てられたりする恐れから、家族計画を利用したいと申し出たりサービスを求めたりすることができなかったのである。
 マリでは、ファミリー・ヘルス・インターナショナルの女性研究プロジェクト(Family Health International's Women's Study Project)の一環として行われた、新たに避妊具を利用し始めた人々の将来動向に関する研究で、リプロダクティブ・ヘルスを推進していくときに、パートナーとして男性が参加することがいかに重要であるかが示された。
 北ウガンダではリーチプログラム(Reproductive,Educative and Community Health:リプロダクティブ・教育・地域保健プログラム)が現地の文化に詳しい人々との協力で、大人の女性になる通過儀礼としてのFGMに代わり成人の記念品を贈ったり成人式を行ったりすることで、FGMを大幅に削減することに成功した。
 ヨルダンでは、22以上の非政府組織(NGO)が女性問題に取り組んでいる。その多くが、社会的経済的に低い階層の女性に対し、女性の法的権利に関する教育を行っている。1997年ヨルダン女性ユニオン(Jordan Women's Union)は、女性に法律のカウンセリングを提供するホットラインを開設した。
 

7 ICPD行動計画、原則4 パラグラフ4.22







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