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第3章
環境・人口・開発
持続可能な開発
 より高い生活水準で、より良い教育、より高度な医療・保健を享受し、より多くの経済的な機会が与えられるような、より良い生活をしたいという目標は、すべての人に共有されるものである。これは現在の我々にとっての目標であるのみならず、将来の我々の子供にとっての目標でもある。
 今日、約13億の人々が絶対貧困線以下の生活をしている。その生活水準を改善しなければ、子供を含む地球上5分の1の人々が、栄養失調・病気・非識字に苦しめられ続けることになる。我々は、環境を破壊することなく人々の生活水準を向上させる努力を続けなければならない。
●世界の人口のうち最も所得の高い国に生活する20%の人々が個人消費全体の86%を消費するが、最も所得の低い国に生活する20%の人々はわずか1.3%を消費しているにすぎない。
●最も豊かな5カ国で、世界の二酸化炭素排出量の53%を占めているのに対し、最も貧しい5カ国の排出割合は3%である。
●先進国で生まれた1人の子供は、その生涯で開発途上国の子供30〜50人分以上の消費を行い、汚染物質を排出することになる。
 リプロダクティブ・ライツは、持続可能な開発と強く関わっている。各個人がより小規模で、より健康な家族を維持するために必要な情報とサービスを受けることができれば、自然資源は維持されるのである。また、最終的に人口増加のぺースを遅らせ、安定化させることにより、各国政府は人々のニーズに合致させながら、同時に環境保護の取り組みをする十分な時間を得ることができる。例えば、淡水資源を保全し、より持続的な農法を導入しながら温室効果ガスの排出を削減することができる8
 
環境に対する影響
 牛の放牧により破壊された熱帯雨林、排気ガスで覆われた都市、灌漑のため干上がってしまった巨大な湖など、局地的な環境への被害は明確である。これに比べて、地球規模での影響、例えば、大気中の二酸化炭素濃度の増加や漁獲量の減少、農薬や他の化学物質の健康に与える影響などになると一見わかりにくくなる。その傾向や影響を理解するためには、より高度な研究が必要となる。人間が環境に与える影響は、人口の規模、1人当たりの消費量とその商品を製造する技術などが関連しあって決まる。
●過去150年間、森林伐採により大気中の二酸化炭素濃度は推定30%増加した。このことは、生物多様性の喪失と生態系破壊の大きな原因となっている9
●1971年以来、世界規模でのエネルギー使用量が70%増加し、今後15年間に毎年2%強ずつ増加すると予測されている。これにより温室効果ガスの排出量が現在の水準の約50%増加する見通しである。
●現在世界の陸地の6分の1にあたる約20億ヘクタールが、過剰な家畜の放牧や劣悪な農法のために劣化している。さらに毎年1,600万〜2,000万ヘクタールの熱帯雨林や森林が破壊されている。
●世界の人口の3分の1が、すでに中程度あるいは深刻な水不足の中で生活している。
●地球上のサンゴ礁の約58%、魚類の全種類の34%が人間の営みにより生存の危機に瀕している。
 
人間の健康への影響
 急速な人口増加と貧困は、(生活)環境を劣化させ、健康の脅威を増大させる。飲料水への排泄物の混入による汚染は、今なお世界各地において最大の死亡原因の1つであり、加えてマラリアにより毎年数百万人が死亡する。室内に過剰な人数が生活していることや、調理・暖房により室内に発生する煙が原因となる呼吸器疾患による死亡はさらに数百万人にも及び、そのほとんどが子供である。
●毎年空気の汚染により死亡する推定270万人のうち220万人は室内汚染による死亡である。また、その犠牲者の80%が開発途上国の農村に住む貧困者である。貧しい人々は、排気ガスや汚染された河川に身をさらすことが最も多いにもかかわらず、自らを危険から守る術をほとんど持たない。
●1994年の統計によると、約11億人が清潔な飲料水を得ることができず、28億の人々が衛生的なトイレを利用できないと推定されている。毎年約2億5,000万人が飲料水を媒介とした伝染病に感染し、そのうち約1,000万人が死亡している。
 
耕地と食料への圧力
 ほとんどの農業はすでに“持続不可能”になっている。これは、同じ土地で永久に農作物を生産し続けていくことができないことを意味する。現在世界中で用いられている農法は、土壌流出、水路を汚染し、淡水浪費の原因となっている。また、食料栽培に利用可能な地球上の土地のほとんどは、すでに利用されている。したがって、今ある土地からより多くの食料を生産するために、農業従事者は資源の利用効率を高め、有害物質を減らす農法を見出す必要がある。
 
環境から健康被害を受ける可能性:開発途上国
 この地図は、環境が健康に及ぼす様々な脅威の地理的分布を描いたものである。
 開発途上国における環境が人間の健康に与える脅威の程度が示されているが、こういった脅威は貧困と結びついた生物学的危険性、及び工業化と結びついた化学的危険性の双方が原因で生じたものである。
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出所:
World Resources Institute,World Resources1998−99
 
 過去50年間に食料生産量は、高まる需要を常に上回ってきた。一般的には世界中の食料生産量は全人口の必要とする栄養を満たしていると言えるが、その分配面で問題があるため約8億の人々が十分な栄養を得ていない10
 過去30年間にサハラ以南のアフリ力では、1人当たりの食料生産量が16%減少している11。自然条件・技術・消費と分配のパターンは常時変化することから、将来の食料生産量を予測することは難しい。しかし最終的に各国が自国民を食べさせるために食料を購入しなければならなくなったときには、(もともと乏しい)社会・経済開発の資源を削ってでもそうしなければならなくなるだろう。
 
女性と環境
 地方レベルで見れば、女性は環境問題から最も被害を受けている。しかし女性は変化を創り出す最も大きな可能性を持っている存在でもある。開発途上国では、農村でも都会でも、飲料水や燃料になる木を手に入れ、食事の準備をするのは女性である。燃料の木や動物の糞から出る煙が健康に与える害は、煙草の害よりも大きい。農村地帯では女性が家畜の世話や作物の栽培をしている場合が多いが、法律や伝統によりこれらの所有を認められていない場合もある。
 もし男女の区別なく教育を受け、融資を受け、土地を所有でき、法的な諸権利が強化されれば、個々の女性の利益となるのみならず、その家族と地域社会の環境面・経済面の福利の向上に貢献するだろう。
 バングラデシュ、コートジボアール、グアテマラ、スリラン力等の事例は、もし土地所有、収入、融資などの経済資源を女性が自ら管理できるならば、男性の場合に比べて自分の収入をより多く、食料、衣料品やその他の必需品に費やすことを示している。
 
解決法とその方向性
リプロダクティブ・ライツの促進
 リプロダクティブ・ライツを尊重することは、人口増加率の緩和に貢献する。これにより自然資源への圧迫が弱まる。人口増加率が低くなれば、程度は弱まったとしても未だ避けられない来たるべき人口増加に、各国はこれまでより時間をかけて準備することができる。
 
女性の地位向上
 環境を保護し人口増加のスピードを弱めるには、女性に目を向けるべきである。なぜならば女性は環境劣化に最も大きな影響を受けるが、同時に最も大きな影響を与えることができる集団だからである。よって、女性・少女に対して教育を行うこと、リプロダクティブ・ヘルスと性行動に関する健康の情報・サービスを提供すること、収入を得る機会を与えることは最も重要な行動分野である。
 
環境にやさしいテクノロジーの共有
 先進国は既存の技術を利用すると同時に、生態系に与える悪影響を最小限にとどめるような新技術の開発をする必要がある。そしてこのような技術を開発途上国がより広範囲に利用できるようにしていかなければならない。
 
消費行動の変化
 大量消費・廃棄を続けるライフ・スタイルを持つ、世界で最も所得の高い5カ国の人々はほとんど「北」に住んでいるが、世界で最も貧しい5カ国に住む人々の基本的ニーズを満たす権利の調整を図らなければ、これ以上その生活スタイルを維持することはできない。例えば、環境保護戦略はエネルギー消費を劇的に削減することができる。
 
貧困の削減
 貧困問題の緩和は、長期的な経済及び環境の持続可能性という点から極めて重要である。南北協力は、絶対貧困を終結させるために不可欠である。また公正な市場・債務削減・開発援助と海外からの直接投資もまた同時に絶対貧困を終焉させるうえで欠くことのできないものである。農業・工業・林業・漁業・運輸・観光事業などを含むすべての経済活動分野における究極の目標は、その活動を永続的に維持していくことである。
 

8 Population Action International
9 この章の数値はWorld Resource InstituteのWorld Resources 2000−2001による。
10 World Resource Institute,World Resources 2000−2001による。
11 Population Action International,Why is World Population Still Growing?(なぜ人口は今なお増え続けているのか)







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