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<CNG Ocean Transport−業界合同プロジェクト(Zeus Development Corporation)>
 ヒューストンの天然ガス開発コンサルティング会社であるZeus Development CorporationはCNG Ocean Transportと題する業界合同プロジェクト(JIP)を実施している。同プロジェクトの目的は、CNG海上輸送の問題、経済性、機会について客観的な評価を行うことである。同研究プロジェクトでは、現存のCNG海上輸送設計とその提案者を洗い出し、各輸送スキームの評価が行われている。JIPには、先に挙げたCNG海上輸送プロジェクトを実施しているEnerSea Transport、C−Natural Gas、Trans Canada Pipelines Ltd.の他、ABS、DNV(船級協会)、BP、ChevronTexaco、Marathon Oil Co、Bluewater Offshore Production Systems(USA)、Inc、Enbridge Pipeline,Inc、Fluor Corporation、Foster Wheeler、米国運輸省、世界銀行、その他多数の企業が参加している。
 
<CNG海上輸送市場−カナダ大西洋岸、メキシコ湾>
 北米のCNG海上輸送プロジェクトは、メキシコ湾外洋大陸棚の油・ガス田から米メキシコ湾岸地域へのシャトル輸送と、カナダ大西洋岸ニューファウンドランド地域のオフショア油・ガス田から米国ニューイングランド市場への輸送をターゲットとしたものが挙げられる。
 カナダ−米東海岸輸送にはジョーンズ・アクトが適用されないため、CNG船は外国建造が可能である。現代重工が参画するEnerSeaのVOTRANSプロジェクトは、カナダに重点を置いたプロジェクトと考えられる。業界筋が実用化に一番近い段階にあると見ている。
Coselleプロジェクトもニューファンドランドのオフショア・ガスのニューイングランド市場向け輸送に主眼を置いているようである。Coselleプロジェクトは、米国北東部の複合燃焼サイクル・ガス・タービン発電(Combined Cycle Gas Turbine)による天然ガス需要増を期待している。
 メキシコ湾油・ガス田から本土へのCNG輸送は、主に随伴ガスの処理方法として検討されている。米国鉱物管理局は原則的にメキシコ湾における随伴ガスの燃焼処理(フレアリング)を認めていない。油田の大水深化が進むにつれ、随伴ガスのパイプライン輸送は困難となる。再注入を行う場合は、鉱物管理局から将来の生産計画の事前承認が必要であり、再注入井、FPSO上の加圧設備に巨額の設備投資が必要となる。LNG化によるシャトル輸送は非経済的である。このような理由から、CNGに対する関心が固まっている。
 メキシコ湾外洋大陸棚におけるCNG輸送構想は、FPSO生産プロジェクトの後を追って開発される公算が高い。離岸距離が大きく、既存のインフラ(パイプライン)を利用できない大水深油田開発において、最近、鉱物管理局によりFPSOの利用が認められ、FPSO生産+シャトルタンカー輸送という構図が急速に現実化しはじめている。FPSO利用の油田の随伴ガスの処理には、CNG輸送が最適であると考えられる。
 American Shuttle Tankers LLP(NavionとSkaugen Petro Transの50:50合弁事業)が、船主の立場から、CNGシャトル輸送機会の開拓に強い関心を抱いているようである。
 メキシコ湾CNG輸送の場合、ジョーンズ・アクトが適用されるため、CNG船は米国建造を義務づけられる。
 
2. Halter Marine、シンガポール企業が落札
 
 チャプター11(会社更生法)の下で再建中のFGHの造船部門であるHalter Marineの資産について、シンガポールの大手軍需企業であるシンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング社(STエンジニアリング)が米国内の完全子会社であるVision Technologies Kinetics Inc.(VTK)を通じて6,600万ドルで落札し、破産裁判所がこれを承認した。8月末には買収が完了する見込みである。
 2002年5月に米国造船所であるボリンジャー造船所がHalter Marineを4,800万ドルで買収する仮契約が結ばれていたが、買収完了には至っていなかった。米国破産法廷は6月にハルター・マリンを競売にかける決定を下し、VTK社がボリンジャーに競り勝ったとされている。
 売却されるのはHalterの運用資産及び資産であり、これにはHalter Pascagoula、Halter Moss Point、Moss Point Marine、Halter Port Bienville、Halter Lockport、Halter Gulfport East、Halter Gulfport Central、Halter Three Riversの資産が含まれる。また、GulfportのHalter本社ビル、エンジニアリング・ビル、Halterの船舶設計をはじめとする知的所有権も含まれる。
 Halter Marineの現在の手持契約は次の通りである。業界情報筋によれば、エジプト海軍向け高速哨戒艇契約が90日以内に確定した場合、VTKはさらに500万ドルを買収価格に上乗せするとされている。
 
<STエンジニアリング社、Halterを足がかりに米国市場参入を狙う>
 HalterMarineを落札したVTKは、バージニア州の軍需企業であるVision Technologies Systems社の一部門であり、同社の会長兼CEOを務めるJohn G.Coburn氏は退役陸軍大将である。同氏の最終ポストは陸軍の全調達の監督権を握る陸軍資材司令部長官であった。VTS社はVT Kinetics(銃器等)の他に航空部門、電子部門、海洋部門を抱えている。海洋部門であるVT Marineは現在事業活動は行っていないようである。
 VTS社の親会社であるシンガポールのST Engineering社はシンガポールの上場企業であるが、実質的にはその過半数をシンガポール政府が保有している。ST Engineeringの一部門であるSTマリンは1968年にSingapore Shipbuilding and Engineeringとして設立され、小型、中型の商船、艦艇の設計、建造、種類を手掛けており、Halter Marineが得意とする分野とほぼ一致する。ASA(米国造工)のシンシア・ブラウン理事長は、シンガポール・テクノロジーズ社は現在米国の船舶造修市場では全く活動していないが、「ここしばらく様子をうかがっていた」と述べたと報じられている。
 
船主 船種 規模 船価 契約状況
Parsha Hawaii Transport 車両運搬船 3,700GT/4,300台 7,000万ドル(6/03)  
  車両運搬船   6,900万ドル(6/04) Title XI承認待ち
Vessel Management Services タンクバージ 150,000バレル 1,800万ドル(8/02) +オプション2隻
  タグ 9,280hp 800万ドル(8/02) +オプション2隻
非公表 タンクバージ 80,000バレル 700万ドル(10/02)  
ロッキード・マーティン タグ(2隻)     仮契約(LOI)
NOAA(米国海洋大気局) 調査船 1,250LDT 3,800万ドル(1/04) +オプション3隻
米国陸軍 ロジスティクス支援船 1,600LDT 2,700万ドル(5/03) +オプション2隻
エジプト海軍 高速哨戒艇 300LDT 1億ドル 全4隻、ペンディング
 
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3.ITC、ジョーンズ・アクトの経済コストを6億5,600万ドルと見積もる報告書
 米国国際通商委員会は「主要米国輸入制限の経済的影響」報告書の最新版を発表した。同報告書はITCがUSTR向けに作成しているシリーズの4回目であり、ジョーンズ・アクトが運輸サービス輸入制限として取り上げられている。
 同報告書は米国内航海運の完全自由化により、米国経済は年間6億5,600万ドルの恩恵を受けると見積もっている。一方完全自由化を実施した場合、7,700人のフルタイム海運雇用、3,300人の造船雇用が失われると報告書は結論している。
 ITCの1999年の報告書では、ジョーンズ・アクトの米国経済に与える年間コストは13億ドルとされていた。しかし、他の運輸研究機関の研究によれば、最大30億ドルという数字が出ている。
 同報告書は1995年から1999年の間に、米国籍船舶数は7%減少、貨物輸送量は14%減少したとしている。また、1999年に米国籍タンカーの運航コストは一日あたり26,050ドルであり、外国籍タンカーの運航コスト(12,400ドル)の約2倍にあたる、としている。また、ITCは米国籍コンテナ船の運航コストは約110,800ドル、外国籍の運航コストは96,450ドルと見積もっている。
 ITC報告書では、ジョーンズ・アクトの米国建造要件のみを自由化した場合のシナリオも検証している。報告書は、部分自由化により、割安の外国建造船が米国建造にとってかわり、米国造船産業の売上げは4%減、輸入は133%増となると予測している。長期的には、資本投資コストが軽減することにより、ジョーンズ・アクト船隊の運航コストが軽減し、沿岸ジョーンズ・アクト船の輸送量は6%増加し、コスト節減により運賃は11%低下する。
 しかし、ITC報告書は、国内建造要件の自由化が経済全体に与える影響は僅少であり、0.05%未満であると結論している。
 
4. 21世紀のクルーズ船−海上都市構想
 
 同時多発テロの影響に直撃された形となっているクルーズ業界だが、バケーション用不動産業界と旅行業会の間のニッチ(隙間)市場を狙った新しい居住型クルーズ船構想が90年代末から現われている。
 
<浮かぶ豪華コンドミニアム、ResidenSeaの「The World」号>
 唯一実現にこぎつけた居住型クルーズ船であるResidenSea社の「The World」号が、初航海で現在北米を訪れている。ワールド号は12デッキ、43,000トン、644フィートの旅客船であり、110の豪華ユニットを「住居」として販売、88ユニットを賃貸する「コンドミニアム」方式のクルーズ船としてノルウェーの海運一族のKnut Kloster Jr.が1997年から企画していたものである。
 1999年9月にノルウェーのFosen Mek造船所が2億6,200万ドルでワールド号の建造を受注し、2001年12月の引渡し予定であったが、9/11の同時多発テロの影響でユニット販売が停滞し、一時工事が中止されていた。また、DNV船級取得、USCGの承認取得の遅れから、引渡しが送れていたが、5月に就航にこぎつけた。
 現時点で、販売価格200万ドルから700万ドルの110ユニットのうち、80%が売却済みとされている。現在ユニット所有者の40%はアメリカ人、40%がヨーロッパ人、20%が南アフリカ人だという。ワールド号のユニットの「借地」権の有効期限は船舶の耐用年数にあわせ50年となっているため、投資目的の購入は成り立たず、「住人」はワールド号のライフスタイルを購入したことになる。
 ResidenSeaは、88の賃貸ユニットと売れ残った「住居」ユニットをクルーズ・パッケージ販売するマーケティング戦略に転換することにより、乗り切ろうとしているが、販売ユニットは日々減価償却される資産であり、厳しい状況のようである。
 
<浮かぶコンベンション・センター−「アメリカ・ワールド・シティ」号>
 破綻したACVのタイトルXI融資保証額は約11億ドルであったが、これを超える13億2,000万ドルのタイトルXI融資保証申請が1999年11月30日にMarAdに提出されている。World City America社による乗客定員6,200人の「アメリカ・ワールド・シティ」号は、米国建造による世界最大のクルーズ船を謳い文句に1990年代の半ばから企画されているプロジェクトである。
 同クルーズ船は従来型クルーズ船の2.5倍(250,000gt)の規模で、浮かぶ巨大コンベンション・センターとして米国内航航路を運航するという構想であった。大手ホテルチェーンである、WestinHotels&Resort社が戦略パートナーとして参加している。建造コスト15億ドル、「VirtualShipyard」方式で、Halter Marine(その後破産保護を申請)が船体モジュールを建造、Aker Gulf Marineが組立てた後、フロリダ州のポート・カルナバルに移動し、そこでホテル建設業者であるCentex Rooney Construction社が建設したホテルモジュールを船体にのせ、「浮かぶ都市」の「ダウンタウン」にあたる公共スペースを完成する予定であった。
 同プロジェクトは米国建造によるタイトルXI融資保証を申請しているため、外国建造を認める旅客船サービス法改正には反対している。America World City社の会長兼CEOはJohn S.Rogers氏、関係者として、Warren Leback 元MarAd長官、William Kime 元USCG長官等の名前が挙がっているが、1999年のタイトルXI申請以後のプロジェクトの動向は不明である。
 FastShipと同様のハイリスクのベンチャー事業と考えられ、1999年末のタイトルXI申請後、ブッシュ政権のタイトルXI批判、景気後退、9/11同時多発テロによるクルーズ産業の低迷、クルーズ船国内建造向け大型融資保証であったACVプロジェクトの破綻等のマイナス要素が重なっており、融資保証が承認される見込みはほとんどない。
 
<浮かぶ都市「フリーダム・シップ」>
 立ち消え状態「ワールド・シティ」に代って浮上したのが、Freedom Shipプロジェクトである。全長1,317m、幅221m、高さ103m(25階)、270万gtの浮かぶ都市は、クルーズ船ではなく、居住者人口50,000人、ビジター20,000人、クルー15,000人という居住型コミュニティとして構想されている。
 「フリーダム・シップ」は、船舶ではなくバージ状の浮体式構造物として設計されており、520個の気密スチールセルをボルトでつなぎベースとする。各セルは高さ24m、横15〜30m、縦15〜37mで、陸上で約91x122mの大型セルに組み立てられ、さらにこの大型セルを海上で組み立てる。このベース上で、都市部分を建設する。この巨大バージを動かすために3,700psディーゼル・エンジン100基を搭載する、という壮大な計画である。
 25階建の都市の屋上部分は、最大40人乗りの小型旅客機の発着が可能な1,158mの滑走路となり、住民のヨット用マリーナ、大型ショッピングセンター、病院、小学校から大学教育までの学校システム、ゴルフ練習場、自転車道を備える、という。
 カリブ海の無人島の開発を行っていた土木エンジニアリング事務所を母体とするFreedom Ship International,Inc.は、資金集めを開始するための手続きの第一段階として、今年4月にSEC(米国証券取引委員会)に事業計画を提出した。
 「フリーダム・シップ」が近い将来実現するとは考えにくいが、可動浮体式構造物による海上都市という新しいコンセプトを提示している。
 海上都市を居住、事業の住所とした場合、連邦税/国税は免除とはならないが、地方税、住民税の支払義務を免れることができる。開発者側は「タックス・ヘイブン」を意図しているのではない、としている。(レジデンシーの「ワールド」号は、タックス・ヘイブンとしての利用を防止するために、居住者にワールド号以外に主住居を持つことを義務づけている。)
 
5.カナダ造船業の動向
 
<政府、BCフェリーの改造工事に海外造船所の入札を認める>
 カナダ西海岸のブリティッシュ・コロンビア州の公営フェリー会社は、総額約1億5,000万カナダドルの5隻の改造工事について、海外の造船所の入札参加を認めることを、地元造船所に通達した。
 ブリティッシュ・コロンビアの造船所一般労働者連合による最近の研究は、海外発注によりB.C.フェリーはコストを30%節約することができるとしている。造船所側は、この節約分は主として助成を受けているアジア造船所の低い人件費によるものであると主張している。
 バンクーバーを中心とする西海岸の造船所は、成長するアラスカ航路クルーズ船の修理工事獲得を期待しているが、B.C.フェリーの建造、改造、修理工事の比較的安定した受注という拠り所を失った場合、閉鎖を余儀なくされる可能性がある、と訴えている。
 B.C.フェリーはさらに2,500万カナダドル相当の新造工事発注を予定しているが、これについても海外造船所の入札を認める方向で検討中とされている。
 
<ロック産業相、25%の輸入船関税維持の姿勢を確認>
 カナダ東海岸では、オフショア石油、ガス開発が活発であり、東海岸造船所はオフショア・サプライ船需要にその存亡を賭けているが、ノルウェーがこの市場獲得を狙って、輸入船に対する25%の保護関税の廃止の圧力をかけている。
 輸入船関税廃止は、オタワで行われているヨーロッパ自由貿易協定交渉の席で取り上げられた。ノバスコーシャ州のジョン・ハム知事は、関税が廃止されれば、同州で何千人もの雇用が失われると、声高に反対を表明し、アラン・ロック産業相も、「交渉の現段階において提案されている欧州自由貿易協定は、カナダにとって何の利益にもならない」とし、連邦政府は輸入オフショア作業船に対する25%の関税を維持することにより、カナダ造船業を保護するべきであるという姿勢を確認した。
 
<造船支援スキームを利用して、ケベック造船所が受注>
 アラン・ロック産業相は、7月31日にカナダ政府の造船・海事産業向けStructured Financing Facility(SFF)融資スキームを利用して、Persistence Shipping社が、40.6mの仕様の建造船をケベックのLes Chantiers Verrault社に発注したことを発表した。当該船は活魚(鮭)の輸送に使用される。このプロジェクトにカナダ政府は56万4,000カナダドルの融資支援を提供した。
カナダ政府は2001年6月19日で造船政策大綱を発表したが、その目玉となったのがStructured Financing Facility(SFF)融資スキームである。SFFは、カナダ新造船の購入価格の10%を上限とした融資支援と、カナダ建造船のリースまたは購入の一部をカバーするクレジット保険を提供するものである。
(以上U.S.Monthly Maritime Report 2002−IV(2002年8月7日付)、2002−V(2002年9月11日付)より)







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