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3. 米国投資会社の独のHDW造船所買収計画、ノースロップと提携交渉
 米国のOne Equity Partnersによる非原子力潜水艦建造では世界をリードする独のHDWの買収をEUが承認したが、One Equityが買収後にHDW株の一部をノースロップ・グラマンに売却する交渉を進めていることが発覚した。
 米国のBank One Corp(ONE:NYSE)の非公開株式(プライベート・エクイティ)部門であるOne Equity Partnersは、今年3月に独の造船会社Howaldtswerke-Deutsche Werft AGの株式の75%(Babcock-Borsig AGから25%、Preussag AGから50%)を買収することで合意に達していた。5月始めに、独連邦力ルテル局が、HDWの独立性が失われる危険性があるとして、欧州委に調査を申請した。Bank One及び残りの25%の株式を保有することになるBebcock-Borsigは、買収は投資目的であり、造船所運営には関心がなく、HDWは独立したドイツ造船所として運営を継続することになる、と説明していた。
 5月30日に、欧州委は、Bank OneはHDWと競合する分野で事業を行っていないとし、反トラスト上問題がないとの判断を下し、買収を認めた。買収金額は公開されていないが、6億ユー口(1ユーロは約0.94US$)を上回ると見られている。
 欧州委から買収ゴーサインが出た直後に、One Equity PartnersはHDW株の20%を米国パートナー企業に売却する計画を明らかにした。その後、パートナー候補企業として、ノースロップ・グラマン社、ジェネラル・ダイナミクス社と交渉を行っていることが判明し、事態は複雑化している。
 買収によりHDWの非原子力潜水艦建造技術が米国に流出することを懸念するドイツ側に対し、欧州委はBank Oneが米国軍需産業と関係していない、として買収を認めた。しかし、今回の買収劇の背景に、台湾潜水艦調達支援問題が存在する疑惑が浮上し、論議を醸している。One Equity PartnersがHDW買収後に米国軍需企業とパートナシップを組むことにより、台湾向け潜水艦売却に対するドイツ政府の反対の回避を図っているという疑惑に対し、6月3日、独政府は台湾向け潜水艦売却を認めないことを強調した。また、技術流出についても、独輸出法により阻止すると言明している。
 なお、今回の買収の影に、ジェネラル・ダイナミクス社の存在があるとの疑惑も出ている。シカゴの富豪であるJames Crown氏は、One Equity Partnersの親会社であるBank Oneの株主であり、ジェネラル・ダイナミクスの株式の11%を保有している。また、同氏は両社の役員でもある。
 なお、Babcock-Borsigの株主の一人である米投資家のGuy Wyser-Pratte氏は、株主投票が実施されるまで、HDW造船所の売却を阻止する訴えを独地方裁判所に起こしており、5月29日に原告勝訴の判決が出され、一時的に売却が凍結されたが、6月7日に買収は完了したと報じられている。
 昨年ブッシュ政権は台湾に対し、大型軍備調達支援を約束したが、これに非原子力潜水艦8隻の建造支援が含まれていた。米国の造船所は非原子力潜水艦建造ノウハウを持たないため、設計を独、仏等から購入することが検討されたが、中国の反感を買うことを恐れ、両政府ともこれを認めていない。米国では、ノースロップ、GDが関心を示し、設計提案を行っていた。一方、台湾議会は6隻の自国建造を求める決議案を採択している。
 
4. United Defense Industries、U.S.Marine Repairを買収
 原子力船以外の艦艇修繕を行う民間造船所としては最大級のU.S.Marine Repairを、軍需企業であるUnited Defense Industriesが3億1,600万ドルで買収することで合意に達した。
 U.S.マリン・リペアは、1997年10月にサウスウエスト・マリン及びその子会社のサンフランシスコ・ドライドックを買収したカーライル・グループが、1998年9月にさらにNORSHIPCO(バージニア州ノーフォーク)を買収し、1998年に11月に新たに設立した船舶修繕会社統括企業である。NORSHIPCO及び、サウスウエスト・マリンは、東西海岸においてそれぞれ米国海軍艦艇の主要母港近くに位置しており、原子力船以外の艦艇修繕を行う民間造船所としては最大級のものである。
 カーライル・グループは、株式非公開のマーチャント・バンク(為替手形の引き受けや社債の発行を主業務とする金融機関)であり、企業を買収した上でその経営を立て直し、パッケージし直したうえで売却することにより利益を上げている投資会社である。このため、買収当時から、最終的には適当な買手に売却することを目的として、同グループが主要船舶修繕施設を「パッケージ化」しているとの憶測が流れていた。
 2002年3月に、US Marine Repairは株式公開を連邦証券取引委員会に申請したが、その後、United Defenseとの買収交渉に入り、公開を取りやめた。United Defense側は、系列会社間の内部取引との疑惑を避けるために、買収交渉からカーライル関係の取締役を外している。
 United Defense社は、戦闘車両、海軍砲、ミサイル発射装置等の設計、開発、製造を手掛ける軍需企業である。同社は軍需企業2社が1994年に合併し、United Defense Limited Partnershipとなった。1997年10月にUSマリン・リペアの親会社でもあるカーライル・グループがこれを買収し、2001年末に株式公開した。現在、カーライル・グループが株式の約49%を保有しており、実質的なコントロールを握っている。United Defense社は、最近、ラムズフェルド国防長官が同社が開発しているクルセイダー砲プロジェクト(110億ドル)をキャンセルする意向を表明したことで打撃を受けていた。また、同社は、海軍のDD(X)向けAdvanced Gun Systemも開発していた。
 カーライル・グループを率いるFrank C. Carlucci氏はレーガン大統領時代に国防長官を務めた経歴を持つ。同グループの顧問には、ブッシュ(父)元大統領、ベイカー元国務長官が名を連ねている。
 
5. 米国二大艦艇造船所、艦艇建造契約の交換に合意
 海軍、General Dynamic社、Northrop Grumman社は、艦艇建造契約を二社の間で交換する覚え書きを交わした。
 数ヶ月間にわたって話し合いが行われていたノースロップ社とジェネラル・ダイナミクス社との間の艦艇建造契約交換が実現した。今回の合意では、ジェネラル・ダイナミクス社のバス・アイアン・ワークス(BWI)が受注していたLPD-17サンアントニオ級揚陸強襲艦4隻の契約をノースロップ・グラマン社に譲り、それと引き換えに、BWIはノースロップが受注していたDDG-51アーリーバーク級駆逐艦を建造することになる。
 元々の契約では、それぞれの企業が揚陸強襲艦と駆逐艦の両方を建造することになっていた。海軍は、ひとつの艦艇級に単一の企業を割り当てることにより、建造隻数が増加し、効率が高まることを期待している。
 海軍主導ですすめられた今回の契約交換のユニークな点は、手持ちの契約だけでなく、将来受注予定の契約について、二社の間で再分配が行われた点である。ジェネラル・ダイナミクス社は揚陸強襲艦4隻を受注しており、その1隻について既に着工していたが、これを中止する。一方、ノースロップはイージス駆逐艦数隻の割当て分を手放すことになる。
 なお、揚陸強襲艦については、ノースロップのアボンデール造船所が既に8隻を受注しているが、イージス駆逐艦はインガルスが受注していた。インガルス造船所は最近AVC社破綻により、大型客船2隻の建造がキャンセルとなって工事量が激減していることから、今回の交換はブロック工事の工事量を確保する意味合いもある。なお、船体の組立てはアボンデールで行われると思われる。
 工期の遅れとコスト超過で批判を受けていたノースロップは、合計12隻の揚陸強襲艦を連続建造することになり、効率向上が期待できるとしている。また、誘導ミサイル駆逐艦については、2社の間である程度の競争は維持されるが、交換によりジェネラル・ダイナミクスは建造予算を先取りすることが可能となる。
 
6. Grand Bahama造船所、北米最大の浮きドック獲得で、大型クルーズ修理に参入
 オレゴン州のカスケード・ジェネラルから購入した北米最大の浮きドックがグランド・バハマ造船所に到着、同造船所は大型クルーズ船改造修理市場に参入した。
 ドック開きは2002年3月16日に行われた。当該ドック(第2ドック)は300m×58.5mで、北米最大の浮きドックである。オレゴン州ポートランドのカスケード・ジェネラルは大株主であったCammell Lairdが倒産したため、所有していた大型ドックを手放すことになり、ドックは世界を半周してバハマのフリーポートまで曳航された。
 グランド・バハマ造船所は、昨年2隻のクルーズ船修理工事を手がけたが、第2ドックの開設以来、今年はセレブリティのHorizonとZenith(46,811総トン)、ラディソンのSevenSeas Mariner(48,705総トン)、ロイアル・カリビアンのVoyager of the Sea(137,286総トン)、Majesty of the Seas(73,941総トン)、Enchantment of the Sea(74,136総トン)の入渠が決まっており、大型クルーズ船修理造船所として頭角を現している。
 なお、カスケード・ジェネラルが同ドックを譲渡したため、米国太平洋岸でスエズ・マックス級以上が入渠可能なドックは無くなってしまった。カリフォルニア州、サンディエゴにあるNASSCOには200,000DW級も入渠可能なドック(海軍から借用している)があるが、基本的に建造ドックであり、いつでも修繕船が入渠可能というわけではない。アラスカ航路内航タンカーには180,000DW級もあり、今後のドック事情が注目される。
 
7. 海洋天然ガス、CNGキャリア輸送構想
 ヒューストンのエネルギー事業コンサルタント会社であるZeus Development Corporationは、CNGキャリアという新たな概念について業界共同プロジェクトを実施している。
 世界各地で、海洋油田の大水深掘削、生産技術が進み、パイプライン網へのアクセスのない遠隔海域において、浮体式生産施設とシャトルタンカーの組み合わせによる生産方式が浮上している。このような、遠隔海域における石油生産において、随伴ガスが産出した場合、大気放出・燃焼(フレアリング)処理を行うのが従来の方法であった。
 しかし、環境保護法や石油会社の社会的道義から、随伴ガスの燃焼処理という選択肢は消えつつある。この他の選択肢は、ガスの再注入と、鉱区放棄であるが、どちらもコストがかかり、随伴ガスの処理コストは急騰している。そのため、オフショア探鉱・生産業界は随伴ガスの商品化を検討している。北海のリグでは、随伴ガスを利用して発電を行い、海底ケーブルを通して陸に送電しているものもあるが、この方式を採用できる油田は限られている。
 もう一つの商品化構想は、随伴ガスをCNG(Compressed Natural Gas:圧縮天然ガス)やLNG、メタノール、合成原油のような海上輸送可能な製品に変えることである。その一つとして、Zeus Development社は、BP、Trans-Canada Pipeline Ltd.、Enersea Transport、C-Natural Gas、Offshore Technology Research Center、ChevronTexacoが参画した、CNG海洋輸送のアセスメント・プロジェクトを実施している。
 Zeus Development社によれば、これまでに目を通したCNG船設計の大部分は、排水トン当たり9,000立方フィート(約255立方メートル)の規模となっている。排水トンあたり30,000立方フィート(約850立方メートル)前後の積載能力を持つLNG船と比較すると、大きく不利だが、LNG船利用の場合、海洋生産プラットフォーム上に液化処理施設を設置するという技術的に非常に困難な問題があり、CNG船を利用すれば、この問題を避けることができる。また、CNG生産過程の大部分で、石油生産プラットフォームの既存のトップサイド施設を利用することが可能であり、経済性が高いとしている。
 過去5年間に、いくつかのCNG海洋輸送設計が出現しているが、それぞれ、可能な限り既存の技術を利用し、ガス輸送に最適化することによって、競争力を高める手法をとっている。
(以上U.S.Monthly Maritime Report 2002-II(2002年6月6日付)、2002-III(2002年7月9日付)より)







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