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4. 米の大都市近郊ではフェリーが好調
 ニューヨーク州のパタキ知事とニューヨーク市のブルームバーグ市長は、ニューヨークとニュージャージー間で運航されているフェリーを大幅に増強すると発表した。また、サン・フランシスコ市では高速フェリーの増強が続いている。
 ニューヨーク市マンハッタン島とニュージャージー州の間には、PATHと呼ばれる近郊鉄道システムとフェリーの2種類の公共交通機関がある。この内、PATHはマンハッタン島内に33丁目駅とワールド・トレード・センター駅の2つのターミナルを持っていたが、同時多発テロによりワールド・トレード・センター駅は使用不能となっていた。同時多発テロ以前は、ニュージャージーとワールド・トレード・センター間で毎日66,000人がPATHを利用しており、この代替手段としてニュージャージーとワールド・ファイナンシャル・センターの間のフェリー航路等で大幅な増便を実施する。増便後、現行30分に1本の運航がラッシュ・アワー時には6分毎の運航となる。また、マンハッタン島南部の交通渋滞対策のため、島東西を連絡する運賃無料の「シャトル航路」を新設し、ラッシュ・アワー時に15分毎に運航する。ニューヨーク水上交通局では、増便や航路の新設に備え8隻のフェリーを新たにチャーターし、3月25日からサービスを提供したい、としている。
 昨年の9月11日、ニューヨークとニュージャージーを結ぶフェリーは、マンハッタン島からニュージャージー側へ避難する唯一の足となり、一日間で16万人を輸送し高く評価されたことがある。ワールド・トレード・センターの崩壊によりワールド・ファイナンシャル・センターのフェリー・ターミナルは使用不能となっていたが、最近再開されていた。
 現在、米の大都市では交通渋滞対策等でフェリー等の海上交通の活用が注目を集めている。サン・フランシスコ市もサン・フランシスコ湾周辺道路の交通渋滞が激しく、従来からフェリーを運航していたが、最近は高速フェリーを導入している。
 昨年、ニコルス・ブラザーズ造船(ワシントン州フリーポート)は、サン・フランシスコ高速道路公社の一部門であるゴールデン・ゲート・フェリーに450人乗りIn-Cat型高速カタマランを2隻引き渡した。このカタマランは全長141フィート(約43m)、型幅34フィート(約10m)、主機出力6,400馬力で最大運航速力は36ktである。2隻ともサン・フランシスコ湾を横断する航路に投入され、湾を30分で渡っている。ゴールデン・ゲート・フェリーでは、さらに高速フェリーを増強する計画がある。
 米ではTEA-21と呼ばれる運輸社会資本整備プログラムがあり、地方自治体等が実施する交通渋滞緩和等の事業を連邦政府が助成している。ゴールデン・ゲート・フェリーのIn-Cat型高速カタマランでも1隻当たり1,000万ドルの建造費の内、80%が連邦政府の助成、12.5%が州政府の助成であり、ゴールデン・ゲート・フェリー自身の負担は7.5%で済んでいる。
 
5. ブッシュ大統領の予算教書 ―海事関係―
 2月4日、ブッシュ大統領は2003会計年度行政府予算要求を発表した。海事関連予算では、MARAD予算要求が前年度承認予算額から7%減額となり、減額分の大部分はタイトルXI予算のカットによるものであった。USCG予算は国土警備関連業務予算として大幅な増額要求となった。国防予算は全体では480億ドルの大幅増額要求となったが、艦艇建・改造予算要求額は、前年度の95億ドルから、81億9,100万ドルに減額され、造船業界から反発の声が上がっている。
<タイトルXI、「不必要な企業助成」とされ、実質ゼロ要求>
 予算教書では、MARADのタイトXI融資保証を連邦政府による「不必要な企業助成」とし、2003会計年度の予算は運営費400万ドルのみ、の実質ゼロ要求となった。
 ブッシュ政権は、最近の倒産により、連邦政府による融資保証は2002会計年度に3億5,000万ドル以上の債務不履行を出す危険性があるとし、このような融資保証は納税者に多大なリスクを負わせるものであると非難した。予算教書は、タイトルXI融資保証の予算要求説明を、「造船会社及び造船所は、連邦政府の助成に依存することなく、また自分達の失敗のコストを負わせる危険に納税者をさらすことなく、競争力改善に努めることが可能であるし、そうすべきである」と強い言葉で締めくくっている。
 なお、ブッシュ政権は昨年度予算要求でも、タイトルXI融資保証について実質ゼロ要求(運営費400万ドル)を行ったが、議会により、運営費400万ドルに加え3,300万ドルの融資保証予算が承認された。
<USCG予算、同時多発テロ後の国土警備業務拡大を反映し、大幅増額要求>
 同時多発テロ後、USCGが国土警備に果たす役割が飛躍的に拡大したことを反映し、2003会計年度予算要求額は、前年度から16億ドル増額の73億ドルとなっている。16億ドルの予算増額分のうち、7億3,600万ドルはUSCG軍人退職基金予算であり、7億3,300万ドルが運営予算、9,200万ドルが調達予算の増額となっている。運営予算の増額分の約半分はインフレ調整等に充てられ、実際に能力拡充には寄与しない。残りの半分で、新たに調達したUSCG艦船の運営、テロ後に始まった警備活動強化の継続、また新たな警備事業予算をまかなうことになる。
 テロ発生以前には、USCGの港湾安全警備業務は全体の14%であったが、テロ直後には58%に達したため、他の中核業務が手薄となった。2003会計年度には27%を港湾安全警備業務に充てる計画である。USCGは、2003会計年度予算要求を、国土警備業務拡充3年計画の第一段階と位置づけている。新たな港湾安全警備イニシアティブ予算としては、海上安全警備チームに4,800万ドル、海上エスコート・安全パトロールに1,900万ドル、コミュニケーション・情報・捜査の向上に6,000万ドル、海軍支援(Force Protection)業務に3,700万ドルが要求されている。
 老朽化しているUSCG艦隊の更新を目的として計画されている外洋船隊調達プログラムには、2003会計年度予算として5億ドルが要求されている。
<艦艇建改造費予算は大幅カット>
 海軍艦艇建造・改造予算要求額は前年度の95億ドルから81億9100万ドルに減額された。艦艇建造・改造予算項目で攻撃型潜水艦(SSN774)1隻、誘導ミサイル駆逐艦(DDG-51)2隻、ドック型揚陸輸送艦(LPD-17)1隻の合計4隻を建造、さらにSSGN2隻の改造が提案されている。さらに、国防シーリフト予算項目に貨物弾薬補給特務艦(T-AKE)1隻の建造予算が含まれ、合計建造数は5隻となっている。これは、300隻海軍の実現に必要とされる年間10隻の建造数の半数である。
 2月16日の下院軍事委員会公聴会で、ラムズフェルド国防長官が国防予算概説を行った。ラムズフェルド長官の予算説明では、艦艇建造予算カットは国防費全体の増額を埋め合わせるための『トレード・オフ』の一つとされた。議会の反発を予期し、長官は適切な艦艇数を維持するには、年間8〜9隻の建造が必要であると認め、5ヶ年計画では、2004年に5隻、2005年に7隻、2006年に7隻、2007年に10隻の建造を予定していると説明したが、造船関連議員からは、「クリントン政権時代よりも低いレベルの艦艇建造予算」に対する懸念の声が上がった。
 また、2月16日の下院軍事委員会公聴会では、海軍・海兵隊予算要求概説が行われ、海軍長官は、現行の艦隊レベルを維持するためには、年間8〜10隻の調達の必要性があることを認めた上で、2003会計年度調達数が5隻となっていることについて、同会計年度は調達レベルアップには適時ではないと苦しい説明を行った。
 海軍長官は、近隣国の空軍基地へのアクセスが限られていたことから、アフガン戦争における空爆の過半数が空母から出撃したことを指摘し、対テロ戦における海軍艦艇の重要性の増大を強調した。
 また、長官は艦艇が世代交代期に入っており、未来の海軍への橋渡しとなるプログラムとしてDD(X)、CNV(X)、バージニア級潜水艦(現在第一艦を建造中)、サンアントニオ級LPDを挙げた。2003会計年度予算要求では、廃止されたDD21プログラムの後継プログラムであるDD(X)次世代駆逐艦プログラム開発予算として9億6,100万ドルが要求されている。
 海軍作戦部長のVernon E. Clark大将は、艦艇調達レベルについて、現在の艦隊の60%が2020年にも現役であるとし、未来の海軍への転身のかなりな部分が、近代化工事により既存の艦船に最新システムを搭載することになると説明した。また、England長官は、旧型潜水艦2隻の攻撃型潜水艦への改造に10億ドルの予算が要求されており、この改造は2隻の新造に匹敵すると説明した。
<ブッシュ大統領の予算教書、船舶に対する新税を提案>
 ブッシュ大統領は予算要求で、「商業航行利用税」の新案を提案、年間3億3,000万ドルの税収を見込んでいる。運輸省はこれが港湾保安強化の財源となることを期待している。
 USCG商業航行補助利用税(Coast Guard commercial navigation assistance fee)と呼ばれるこの利用税は、USCGの航行補助サービス提供のコストの一部を埋め合わせるためのものである。同税は、当該サービスの主受益者、つまり商業貨物船、クルーズ船から徴収されることになる。行政予算局の予算分析によれば、2003会計年度には施行期間6ヶ月間で、約1億6,500万ドルの税収が期待されている。
 航行補助利用税の提案は今回が始めてではなく、9/11同時多発テロ発生以前にも何度か提案されている。クリントン政権においても同様の新税が提案されたが実現しなかった。新税提案についての詳細は明らかになっていないが、港湾管理委員会協会、海運会社等がすでに新利用税の課税には反対の態度を表明している。
 
6. MARAD発表米国最新造船統計(2001年10月31日現在)
 
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7. カナダ政府、新たに造船支援融資スキームを導入
 カナダ政府は、Structured Financing Facilityと呼ぶ新たな造船業支援融資スキームを導入した。
 ワシントン・マリン・グループのビクトリア造船所とバンクーバー造船所は合計6隻のクルーズ船修理工事を受注した。この中には、NKYの「クリスタルハーモニー」の改造工事も含まれている。カナダ造船所がクルーズ船大型入渠工事を受注するのは数年ぶりであるが、新たに導入されたStructured Financing Facilityがその一助となったと考えられている。
 ワシントン・マリンはこのほかにも同融資スキームのおかげで、バンクーバー造船所は230万CAD(カナダドル)相当のバージ建造契約を、ビクトリア造船所は300万CADの米国外航バージ改造(コンテナ化)を受注したとしている。
 Structured Financing Facility(SFF)はカナダ造船政策フレームワークの柱として、昨年ブライアン・トービン前産業相が導入したものである。SFFは次の2要素からなる。
(1)利用助成(Interest Rate Support)―現価ベースで、カナダ新造船の購入価格の10%を上限として、利率助成(interest rate buy-down)を提供するものである。この助成は非返済拠出金(non-repayable contribution)である。
(2)信用(融資/リース)保険―カナダ建造船を取得するためのローンまたはリースの一部に保険を提供する。
・信用保険は、必要な場合、より大きな信用の提供を可能にすることを趣意とするものである。この2つの要素を合わせたプログラムコストは、現価ベースで船価の15%を上限とするが、購入者に対する直接ベネフィットの上限は10%である。
・二つの要素を組み合わせることができるが、発生する偶発債務のレベルによって、信用保険条項により利率助成の部分が減額されることもありえる。
・カナダ産業省は提供した保険の額面に対して1%の保証料を徴収する。
・SFFへ参加することにより、申請者(購入者/借り主)は33.3%の加速資本コスト控除を受ける権利を失い、通常レートの資本コスト控除率に制限される。
 SFFは、カナダで新造された船舶及び海洋構造物、カナダでメジャーな改造を施される既存船舶または既存海洋構造物であり、主として商業操業、サービス、ベンチャー利用を目的とするものを対象とする。(プレジャーボートは対象外)。SFF申請資格は当該船舶または海洋構造物の購入者、または借り主にある。
(以上U.S.Monthly Maritime Report 2001-XI(2002年3月13日付)、2001-XII(2002年4月8日付)、2002-I(2002年5月9日付)より)







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