日本財団 図書館


海外事務所活動レポート
米州海事情報
ジェトロ・ニューヨーク・センター船舶部 市川吉郎駐在員
1. FastShipプロジェクトの近況
 大西洋横断高速コンテナ船プロジェクトとして著名なFastShipは、2000年にクバナ・フィラデルフィアと高速コンテナ船4隻の建造仮契約を結びながら、資金調達ができず頓挫している状態にある。特にMARADによるTitle XI融資保証の審査が、たなざらしにされたままとなっている。これについて、FastShip社の社長がプロジェクトの近況を述べたが、その中で社長は「Title XI融資保証の見通しが早急につかない場合、FastShip社は米国以外の造船所に発注することになる。」と述べたが、プロジェクト自体に行き詰まりが見える。
 FastShip社は2000年にクバナ・フィラデルフィア社と高速コンテナ船4隻の建造仮契約を結んだが、FastShip社社長Roland Bullardが「資金は必ず調達できる」と約束したにもかかわらず、資金調達期限を経過した状態が続いている。これについて、関係者の多くは「元々FastShipプロジェクトは非現実的なものであり、プロジェクトの頓挫は驚くに値しない。」と見ているが、FastShip社によれば「これは正確な評価でない」ということになる。
 FastShip実現に対する障害は、依然として大きなものがある。特に米国内でFastShipを建造できる能力のある造船所を探すのは困難である一方、Title XI融資保証を得るためには米国内の造船所と建造契約を結ぶのが大前提となっている。FastShip社が米軍から有利な輸送契約等を獲得しようとする限り、FastShipは米国内で建造されなければならず、そのためにはTitle XI融資保証が必要不可欠である。上記の通り、クバナ・フィラデルフィアとの建造仮契約にも係わらず、FastShip社が指摘するところの「MARADの官僚性に直面している。特に昨秋のAmerican Classic Voyage社が建造途中のクルーズ客船2隻を抱えて経営が破綻し、Chapter11(日本の会社更生法に相当)の申請をして以来、MARADの官僚性は顕著になった。」という理由で審査はたなざらしの状態が続いている。
 MARADは、FastShipプロジェクトは技術的にも経営的にも懐疑的である、と見ている。FastShip社は17億ドル以上にのぼる総事業費のうち、15億ドルについてTitle XI融資保証の申請をしているが、これはMARADが扱えるTitle XI融資保証の総枠から見て、過大なものとなっている。現在、Title XI融資保証枠は約50億ドルと見られているが、284隻の案件が申請中であるのに対し、FastShipはたった4隻で全体の30%を占めてしまうことになる。これについてBullard社長は「Title XIの現状については認識しているが、当社にとっての問題はMARADがいくら保証できるか、だ。」と述べた。
 なお、「Title XI融資保証の総枠が約50億ドル」というのはBullard社長の一方的な見解であると思われる。Title XI融資保証の法定上限は120億ドルであり、これに対しては確かに50億ドル程度の余裕があるものと考えられるが、実際の融資保証実施には融資保証予算が必要であるにもかかわらず、2002会計年度の融資保証予算は年度当初でも約4,000万ドルに過ぎない。これは融資保証規模にして8億ドルにしかならない。
 また、Bullard社長は「FastShipの事業は、ここ数ヶ月の内に大きな転換点を迎えるだろう。」と述べた。ここ数年に渡り、Title XI融資保証で調達できない事業費の民間からの調達が大きな障害とされているが、すぐにでも民間から数百万ドルを容易に調達できるとし、船舶建造以外の分野は全て民間資金で賄い完成させておりTitle XIこそが障害である、とした。同社長は、さらに、Title XI融資保証が得られない場合は米国の造船所で建造する必要は全くないとし、海運サービスにとって納期通りに船舶を投入できることは極めて重要であるが、米国の造船所はコストが高い上に納期を守る能力も無いのに対し、外国の造船所は安価なだけでなく経験も豊富で納期も確実であると指摘した。さらに、Bulalrd社長は「我々は4隻の内、少なくとも数隻は海外で建造せざるを得ないかも知れない。」とした。
 FastShipが荷物を集められるかについては、P&Oコンテナ北米社のCEOであるChristopher Rankinがコンサルタント役を務めている。週3往復の運航体制で、大西洋横断コンテナを通常7日間でDoor to Door配送するというFastShipの運賃は、通常の航空輸送の半分、海上輸送の2.5〜3倍程度と見込まれているが、Rankinは全米でトップ50の荷主に面接してサービス採用の可否を調査した、という。調査は1999年、2000年、さらに今年2月にも実施されたが、これによると海上輸送を利用している荷主の内、高価格の製品を輸送している荷主、例えば写真、コピー用品等では、10〜15%の荷物をFastShipに移行させたいと回答する一方、化学原料等の低価格の製品を輸送している荷主では、FastShipへ移行させるとした割合は2%未満に留まった。航空輸送では、25〜50%の荷主がFastShipを利用したい、と答えた、という。Rankinは、この結果から航空・海上輸送を併せて23%のマーケットにFastShipが参入できるチャンスがある、と見ている。Rankinは「どれだけの荷主が航空輸送からのダウン・グレードを求め、どれだけの荷主が海上輸送からのアップ・グレードを求めているかを正確に把握することが重要だ。また、補修部品の緊急輸送等といった隙間市場もFastShipの得意分野である。」と述べている。
 前のMARAD副長官で、現在はワシントンDCの法律事務所で弁護士として勤務するかたわら、FastShip社のアドバイザーも努めているJohn Graykowskiは「同時多発テロにより貨物輸送のセキュリティ問題が焦点となっているが、これはFastShipに有利だ。」と指摘する。セキュリティ確保のため、航空貨物は輸送時間が増える一方、セキュリティ・コストが運賃に転嫁される可能性があるからだ。また、Graykowskiは「国防総省によって、Title XI融資保証予算の内、2,500万ドル、債務保証規模にして4億5,000万ドルは高速コンテナ船の建造に充当することが指定されている。FastShip高速コンテナ船が米国内で建造されれば、軍の重要物資の輸送契約も獲得できる。FastShipの夢が実現すれば米国は海事産業の重要な新規分野でリーダーシップを取ることができる。」と述べた。ただし、「国防総省による指定」とは優先配分的な指定であり、MARADは必ずしもこれに拘束されない、とする見方もある。
 また、米国内で建造することとなった場合でも問題は残る。現在、仮契約を持っているクバナ・フィラデルフィアは親会社による売却の可能性を完全には否定できない。また、クバナ・フィラデルフィア以前に仮契約を持っていたNASSCO(カリフォルニア州サンディエゴ)も、自社の利益に合致すれば建造を考慮するであろうが、NASSCOはBPのアラスカ航路向けタンカー受注のために仮契約をキャンセルした経緯がある。
 最後にBullard社長は、今年第4四半期までに建造契約を締結し、3年後にはサービスを開始する、という新たなスケジュールを示したが、上記の通り頼みの綱のTitle XI融資保証が得られる見込みは全くない。Bullard社長としては海外での建造を臭わすことで、議会や行政府に揺さぶりをかけTitle XI融資保証の承認を迫ったものと思われる。FastShip社が単独で民間から建造資金を調達できる可能性はほとんどなく、現状では「海外での建造」の実現性も著しく低いものと考えざるを得ないだろう。FastShipプロジェクトは明らかに行き詰まっており、ここ数ヶ月で最終的な局面を迎えるかも知れない。
 
2. ジョーンズ・アクト体制維持を訴えるレポート公表
 ジョーンズ・アクト体制、特に米国籍船のみによる内航海運制度の存続を訴えるレポートが公表された。レポートではWTO交渉の場で有力国が米の内航カボタージュ体制を標的にしているとし、米国海事産業界の結束を訴えている。また、同時多発テロ以降、内航カボタージュ体制がセキュリティ上も重要であることが明らかになった、としている。ジョーンズ・アクト体制の維持の主張は例のごとくであるが、セキュリティを絡めてきたのは特徴的といえる。
 レポートを公表したのは、「海事カボタージュ特別部会(Maritime Cabotage Task Force:MCTF)」である。MCTFはレポートで、カボタージュ関係の法律が維持されているものの、これに反対する様々な動きが見られる、とし、クルーズ客船では、米国東西を結ぶ航路を開設するために、パナマ運河を外国港湾に指定するよう議会は要請を受けており、外国の船社はTitle XI融資保証制度を利用して米国内航市場に足がかりを得ようとしている、と指摘した。特にWTO交渉において、有力国がジョーンズ・アクトとカボタージュ法令の撤廃を目指しており、海外からの著しい脅威が続いている、と警告した。
 レポートでは、外航船の船籍や船員の国籍が多様化し、ウサマ・ビンラディンが数隻の便宜置籍船をも保有していた、と例を挙げ、同時多発テロにより、単に米国籍であることのみならず、米国人船員が配乗し、米国市民が所有し運航する内航カボタージュ体制は国の経済と安全保障の双方にとって極めて重要であることを明確にした、としている。また、ジョーンズ・アクトと関連するカボタージュ法令は、米国の輸送システムを外国による支配から守る最重要の防波堤である、とも述べている。
 さらにレポートでは、ジョーンズ・アクト船隊は、米国の国防にとって「4番目の戦力」になっている、としている。レポートによれば、米国籍タンカーの81%、米国籍RORO船の50%、米国籍コンテナ船の29%がジョーンズ・アクト船であり、VISA(任意海上輸送合意:有事に米政府の貨物を輸送することを条件に、留保貨物の優先配分を受ける制度)の貨物積載量の30%がジョーンズ・アクト船によって賄われている、という。レポートでは米軍輸送司令部司令長官Charles Robertson大将の上院軍事委員会における「米国の運輸産業は国防上極めて重要であり、業界の健全性と軍による利用に貢献している制度、例えばジョーンズ・アクトのような法制を強く指示する。」という証言も引用されている。
 一方、レポートではブッシュ大統領が2000年大統領選挙戦の際に出した「米国内航海運の発展に貢献している制度、例えばジョーンズ・アクトは維持されるべきだ。」という公約やミネタ運輸長官の「経済と国の安全保障の双方にとって、ジョーンズ・アクトは重要な海事政策の要素である。」という発言も取り上げている。これは、ブッシュ政権が海事産業に冷淡であると見られていることから、政権に釘を刺したものと思われる。
 なお、レポートではジョーンズ・アクトが米国造船業にもたらしているメリットについても言及している。それによると、ジョーンズ・アクト船市場は船隊の更新と拡張により活況を呈しており、115隻、額にして34億ドルの船舶発注をもたらした、と指摘し、ジョーンズ・アクトは米国の船舶建造能力と熟練した造船労働者の維持にも貢献している、としている。
 ジョーンズ・アクト擁護の主張は十年一日であるが、WTOでの次期ラウンド交渉の開始と政権内の一部にあるらしい「ジョーンズ・アクト不要論」への警戒を込めて、この時期にレポートを公表したものと思われる。
 
3. ジョーンズ・アクト船市場に明るさ
 米国の中手造船会社が組織する全米造船協議会(Shipbuilders Council of America:SCA)は、ジョーンズ・アクト船市場に明るさが見える、とした分析を公表した。
 SCAの分析は短期的見通しと中期的見通しからなるが、ともにジョーンズ・アクト船市場に明るさが見える、としている。主要な分析結果は以下の通り。
・2005年のOPA90の現存船遡及適用開始に向けて、かなりの量のタンカーと外洋航行タンク・バージの代替発注が残っている。
・長さ90フィート(約27m)以上のオフショア支援船と作業員交通船の内、約70%が船齢20年を超えている。
・ジョーンズ・アクトが適用されているコンテナ船とRORO船は38隻あるが、内13隻の船齢は30年以上となっている。
・大型一般貨物バージ及び大型ドライ・バルク・バージの平均船齢は29年に達している。
・内水路航行タンク・バージは3,000隻あるが船齢20年未満のものは750隻に過ぎない。また、内水路航行乾貨物バージと台船の半数以上は船齢15年以上である。
・旅客フェリー、作業船、軍用以外の官公庁船の需要も期待できる。
 老齢化が進む米国内航商船の更新やOPA90適合のための代替需要については、かねてから相当程度の潜在需要があると見込まれているが、これまで発注が活発になる傾向はない。これは、米国建造船の船価が異常に高いことと、内航船主の資金調達能力に限界があることが主たる原因である。資金調達についてはTitle XI融資保証制度が必須とされているが、ブッシュ政権は2003会計年度予算要求でも融資保証予算の全額カットを要求している(2002会計年度は全額カットの政権側要求に対し、議会は3,300万ドルを認めた。)。潜在需要は相当あるものの、実際の受注に結びつかない状態は、今後暫く続くものと思われる。
 なお、SCAのメンバーの大半は中手造船会社であり、米国最大の発注元である海軍との取引はほとんどなく、民需船舶の建造等を営業の主力としており、SCAとそのメンバー会社にとってジョーンズ・アクト船市場は、最大、かつ、ほとんど唯一の市場となっている。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION