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7 外部に対する利点
 第6章の分析は、RO−RO船の運航において採算性を保つために必要な最低貨物運賃は、潜在的なユーザーが考える最高貨物運賃よりも大幅に低い航路もあることを示している。この2つの値の違いにより、ユーザーは期待していなかった利益を得ることができる。以下の資料から、ユーザーの平均純利益(weighted average net benefit)は1トンあたり104バーツと試算される(関連の計算結果を表35に示す)。収益の見込める全航路で最大限の市場シェアを確保することができれば、ユーザの総準利益(total net user benefit)は、およそ4億400万バーツに達する。
 
  航路
1 2 3 4 5 6
必要最低限の貨物運賃 432 334 283 350 367 552
達成可能な最大貨物運賃 360 470 284 341 540 671
ユーザー利益/トン 0 136 1 0 173 119
市場規模(1,000トン) 1,221 334 29,922 4,631 4,631 434
達成可能な市場シェア 8.50% 12.60% 5.20% 42.20% 48.80% 8.20%
最大貨物量(1,000トン) 104 42 1,556 1,954 2,260 36
ユーザー利益合計(1,000バーツ) 0 5,720 1,789 0 391,878 4,252
貨物1トンあたりの平均利益 104
 
備考:航路の定義
航路1 東海岸〜チュンポーン
航路2 東海岸〜スーラト
航路3 バンコク〜チュンポーン
航路4 バンコク〜スーラト
航路5 バンコク〜ソンクラー
航路6 東梅岸〜ソンクラー
 
 エネルギー効率という観点では、沿岸輸送は道路輸送よりはるかに優れている。国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は、トラック輸送と海上輸送の平均燃料効率の試算を公表している。ESCAPによる試算結果―道路輸送で1リットル当たり25トン・キロメートル、海上輸送で1リットル当たり217.6トン・キロメートル―を利用して、タイにおけるRO−RO船の導入で得られる省エネルギー効果を試算した(表36参照)。平均して、道路輸送から、今回分析を行ったRO−RO船航路への貨物シフト1トンにつき、約27リットルの燃料節約になると考えられる。もしも、達成可能な最大市場シェアを実際に確保することができれば、1年あたり15万7,333キロリットル節約できる計算となる。
 
エネルギー 航路
1 2 3 4 5 6
船舶輸送距離(キロメートル) 350 430 450 540 730 620
達成可能な最大貨物量(1,000トン) 104 0 1,556 1,954 2,260 0
燃料消費量−海上(キロリットル) 167 0 3,218 4,850 7,582 0
陸上の距離(キロメートル) 650 823 550 644 950 1,129
燃料消費量−陸上(キロリットル) 2,698 0 34,231 50,342 85,877 0
モーダルシフトによる燃料節約(キロリットル) 2,531 0 31,013 45,493 78,296 0
貨物1トンあたりの平均節約量(リットル) 26.78
最大のモーダルシフトが行われた場合の総節約量(キロリットル) 157.333
 
備考:航路の定義
航路1 東海岸〜チュンポーン
航路2 東海岸〜スーラト
航路3 バンコク〜チュンポーン
航路4 バンコク〜スーラト
航路5 バンコク〜ソンクラー
航路6 東梅岸〜ソンクラー
 
国連アジア太平洋経済社会委員会、内陸輸送の商業的局面:運用管理
 
 表37は、RO−RO船の沿岸輸送を導入することにより、どの程度大気中の汚染物質の排出を減少させることが可能かをまとめたものである。この表に提示されている排気率は、前述の国連アジア太平洋経済社会委員会の調査から引用したものである。
 表37では、道路輸送からRO−RO船に移行した場合、貨物1,000トン毎の汚染物質の放出が平均して以下の通り減少することを示している。
・炭化水素:100kg以上
・一酸化炭素:300kg以上
・各種窒素酸化物:1,800kg以上
 微粒子や亜酸化窒素など、主として局所的に排出されるものについては、沿岸輸送の場合、環境汚染は人口の密集した地域から離れた場所で発生するため、この点でも道路輸送に比べてメリットがある。
 
  航路 Emission Rates
排気率
(g/ton−km)
  1 2 3 4
船舶輸送距離(キロメートル) 350 450 540 730  
達成可能な最大貨物量(1,000トン) 104 1,556 1,954 2,260  
炭化水素の放出量−海上(キログラム) 835 16,104 21,272 37,944 0.023
一酸化炭素の放出量−海上(キログラム) 1,853 35,709 53,821 84,137 0.051
窒素酸化物の放出量−海上(キログラム) 4,868 93,823 141,412 221,066 0.134
陸上の距離(km) 650 550 644 950  
炭化水素の放出量−陸上(キログラム) 10,726 136,067 200,111 341,362 0.159
一酸化炭素の放出量−陸上(キログラム) 32,38 410,769 604,108 1,030,527 0.480
窒素酸化物の放出量−陸上(キログラム) 174,452 2,213,019 3,254,630 5,551,965 2.586
炭化水素の減少量(キログラム/1,000トン)     103.70    
一酸化炭素の減少量(キログラム/1,000トン)     323.85    
窒素酸化物の減少量(キログラム/1,000トン)     1,827.21    
潜在的減少量−炭化水素(トン/年)     609.11    
潜在的減少量−一酸化炭素(トン/年)     1,902.27    
潜在的減少量−窒素酸化物(トン/年)     10,732.90    
 
備考:航路の定義
航路1 東海岸〜チュンポーン
航路2 バンコク〜チュンポーン
航路3 バンコク〜スーラト
航路4 バンコク〜ソンクラー
 
 車道への損傷の大部分は重量の大きいトラックが原因となっている。貨物を過剰に積んだトラックが1台通過することによる車道への損傷は、1,000台の車あるいは軽量のピックアップトラックが通過したのと同程度である。従って、海上輸送が増えれば、多額の道路維持費用を節約することができる。その上、まだタイには有効な道路利用料金制度がない為、重量車両によって車道に生じた損傷は、これらの車両に賦課される料金に適切に反映されておらず、従って道路貨物運賃にも上乗せされていない。これにより、沿岸輸送よりも道路輸送が有利となっており、歪んだ市場の要因となっている。
 タイ国運輸通信省が行った「メークロンとタ・チン川における輸出振興のための水上輸送促進に関する予備調査」では、10ホイールのトラックと18ホイールのトラックの1キロメートルあたりの道路維持費用はそれぞれ0.53バーツと.0.95バーツと報告されている。この調査で対象となったのは貨物量が法定制限内のトラックである。しかし、多くのトラックが明らかにこの制限をはるかに超えた貨物を積んでいる。業界関係者は10ホイールトラックの場合20トン、18ホイールのトラック/トレーラーで30トンが目安だとしている。道路への損傷率は軸加重が上がるに従い加速度的に上昇する。通常、道路への損傷率は軸加重の4乗に比例して増加するといわれている。報告のあった過剰積載レベルでは、道路損傷にかかるコストは、表38の2〜3倍程度増加するものと思われる。
 この報告書で使用した積載荷重に関する仮説、RO−RO船を利用すると予測できる各種トラック輸送、過剰積載が蔓延をしていること考慮して、全体的に1トン・キロメートルあたり平均0.074バーツの道路損傷修理費用がかかると推定した。これを各航路に適用すると、沿岸輸送にシフトすることによって貨物1トンあたり54バーツの節約になる。試算された最大達成可能レベルのモーダルシフトが実現すれば、1年あたり約3億2,000万バーツを節約できることになる(表38参照)。
 
  航路
1 2 3 4 5 6
陸上の距離(キロメートル) 650 823 550 644 950 1,129
達成可能な最大貨物量(1,000トン) 104 - 1,556 1,954 2,260 -
道路維持費用の節約額(1,000バーツ) 4,981 - 63,184 92,924 158,515 -
貨物1トンあたりの平均節約額 544
総道路維持費節約額(100万バーツ/年) 319.6
 
備考:航路の定義
航路1 東海岸〜チュンポーン
航路2 東海岸〜スーラト
航路3 バンコク〜チュンポーン
航路4 バンコク〜スーラト
航路5 バンコク〜ソンクラー
航路6 東海岸〜ソンクラー
 
 本報告書では特に道路事故と道路渋滞の面におけるコスト節約については試算しないが、タイ国運輸通信省が行った「沿岸輸送システムの開発に関する調査」では、道路輸送から沿岸輸送ヘシフトされる貨物1トンあたり、渋滞コストで31バーツ/トン、道路事故コストで13バーツ/トンの削減が可能となり、合計すると貨物1トンあたり44バーツの節約になると試算している。これをRO−RO船の運航が可能な航路においてすべて達成可能な最高市場シェアを獲得できたとすると、1年に合計2億5,800万バーツの節約となる。







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