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2 プロジェクトの背景
 沿岸輸送に関する現在の政策は次の4つである。すなわち、(1)国会に対して政府が発表したもの、(2)国家経済社会開発計画に明記されたもの、(3)運輸通信省が発表した輸送に関するマスタープランに発表されたもの、(4)海事産業振興委員会事務局が海運振興に関するマスタープランの一部として策定した政策である。
 
 この政策は国内の沿岸輸送事業において、特にタイ国籍の船舶及び乗組員を保護することを目的とする。
 
 
第8次国家経済社会開発計画
タイ南部の西側及び東側の深水に港を開発し、アンダマン海とタイ湾を結ぶ貨物輸送システムを整備し、南部地域の繁栄に寄与する。
西部臨海部を対象とした、水道、道路、電気、及び港を含むインフラ基盤に関する業務計画の立案。
船舶、航空及び道路をつなぐ輸送ネットワーク、特に船舶輸送網と東部の主要な港をつなぐ輸送ネットワークを築くため、今後開発の見込まれる臨海部の港を整備する。
輸送能力を拡大し、タイ国籍の商船の数を増やすことにより、海運業の発展を図る。民間部門の参入を促進し、人材育成を図る。
 
第9次国家経済社会開発計画
投資済みのインフラストラクチャーの活用に重点を置き、主要国際貿易港などの競争力拡大に効果の見込まれる設備に関しては資金の追加投入を行う。
輸送システム、コミュニケーション、電気通信、及び公益事業におけるインフラ基盤の効率及び質の強化に努める。これは、特に電気通信網や空港、主要港及び海運業の生産性やサーピスを改善し、水準を国際基準に合わせるとともに、タイの生産部門やサービス部門の成長を支援するものである。
 
 輸送に関するマスタープランでは以下の優先項目が特定されている。
輸送システムの安全強化
輸送による環境汚染の減少
効率的な複合一貫輸送システムの開発
運航業者の費用と負担を軽減するため、各輸送形態における競争の促進
旅客及び貨物双方の大量輸送への注力と支援
政府機関の輸送分野に果たす役割の効率化、調整
各輸送形態間における公正な競争を刺激し独占を根絶するための、税金及び関税の設定
タイの運輸システムと近隣諸国との連携、タイが域内における経済及び運輸業の中心地となるための支援
適切な国土利用を促進するための、積極的な輸送網の開発
 
 タイの沿岸輸送政策は、国会によって承認された海運促進委員会事務局の海運発展マスタープラン1999−2006に記されている。
 
海運発展構想の概念は以下のとおり:
1. 海運産業を、タイにおける将来の海上輸送を支えられるだけの有効かつ充分なレベルまで発展させる。
2. 国際貿易を促進し支援するために、輸入・輸出に際し適正価格で信頼できる輸送を提供する。
3. 国際的競争力を持ち、国内及び地域経済成長に適切で、国防及び国内の安全と利益を支えるために、国内商船隊の効率性を高めるとともに船腹量の増大を進展させる。
4. より良い海上輸送を行うために効率的かつ充分なドック外サービス及び複合輸送システムを促進する。
5. タイの港湾に寄港する船舶に効率的に寄与するため、適切な港湾設備を確保する。
6. 海運業を支援するために船舶修理及び造船産業を発展させる。
7. 国内海運産業の促進及び支援、外国船舶への就職機会の提供、海上安全に関する基準の引き上げ、海上及び海洋汚染の防止を目的とした国内海運産業に充分な船員及びその他海事従事者向けの国際標準の教育及び訓練を確保する。
8. 沿岸輸送の海外輸送の補助及び国内輸送における海運比率の増加を促進する。
9. 海運産業に関係する公的機関の効率性及び構造を改善する。
 
沿岸輸送政策の発展
 海運政策を解説した構想声明は、前出のとおりである。沿岸輸送に関しては、マスタープランが以下の発展政策とともに構想声明について詳しく述べている。
 
他の国内輸送手段と比較して、エネルギー消費が低く環境への影響が最少である沿岸輸送の発展支援及び促進。これは国際海上輸送を支える国内輸送の代替手段である。
 
 この政策は、沿岸輸送へのモーダルシフトを奨励する方策を展開し導入するための明確な権限を与えている。
 
発展目標
 マスタープランにおける沿岸輸送の目標は、貨物輸送における沿岸輸送比率で定められており、第8次国家経済社会開発計画(NESDP:National Economic and social Development Plan)(1996〜2001年)の期間では国内貨物の5%超を維持し、第9次NESDPの終了時までに5.7%まで伸ばすこととしている1
 
1輸送マスタープラン1999−2006内の2001年には沿岸輸送2.56%、国内水路3.80%、そして2006年までには沿岸輸送2.85%、国内水路4.00%という数字と同目標を一致させることはできなかった。
 
沿岸輸送発展戦略
 マスタープランに記された沿岸輸送発展戦略では、沿岸港湾の開発及び沿岸船舶の開発という2つの領域に焦点を当てている。
 
沿岸港湾の開発
 沿岸港湾の開発戦略は以下の通りである。
既存港湾のインフラストラクチャーの最大限の発展
観光業の促進と、レムチャバン港への貨物サービスを提供する新港の開発
石油産業供給基地における採掘権者によるソンクラー港の新施設開発促進
 
沿岸船舶の開発
 沿岸船舶の開発戦略は以下の通りである。
国内貨物輸送の沿岸輸送比率を増加させるために、バンコク〜南部南方地域間及びレムチャバン〜南部北方地域間の定期船サービスの発展を促進する
レムチャバン港からのコンテナ貨物の輸出促進のために、レムチャバン〜南部北方地域間のRO−RO船への民間分野からの投資を促進する
クルーザー分野へ民間からの投資を促進する
タイ沿岸輸送業者に対して、タイ湾での沖合石油・ガス採掘及び生産権者向けに、供給基地と沖合施設間の供給品、原材料、備品の運搬などのサービスを提供するよう促進する
 
沿岸輸送に関する手段
財政および資金調達
 海運発展マスタープランでは、沿岸輸送を促進するために2つの財政的な奨励策について言及している。
外航海運事業者に対する措置と同様の方式による沿岸船舶乗組員への沿岸収入税の減額
外航海運事業者及び沿岸船舶事業者の低金利融資規定
マスタープランでは、さらに次のような方策も支援している。
海運業に従事しているタイ国籍および外国国籍双方の投資家が得た配当に対する所得税の免除
外国人が海上輸送企業により多くの株式を所有することを許可するための投資規制の自由化
外国海上輸送企業がタイに輸送関連事業を設立し、長期投資及びタイでの効果的な事業管理とともに管理事務所を設置することを条件として、タイの海上輸送企業と同様の方法で免税を受けることの許可
 これらの方策がすべて適切に国内の輸送分野に適用された場合、船舶の一新と沿岸輸送の技術革新を促すことになろう。
 
港湾手数料及び施設
手数料
 港湾手数料は、一部の沿岸輸送サービスの発展を阻害する要因となる。タイの港湾を商業べースで運営し、提供する施設に対するコストを回収することは妥当である。しかし、港湾設備は固定費が高く、また限界原価が低いことが特徴であり、港がコスト回収の目的を達成するための方法はかなり柔軟に対応できる。
 
沿岸輸送に有利となるよう手数料を差別化することは以下の理由により妥当である。
−沿岸輸送は道路輸送との厳しい競争に直面しており、そのため沿岸輸送サービスに対する需要は海外輸送サービスに対する需要よりも増減幅が大きい。
−沿岸輸送業務は、海外輸送業務よりも小規模な船舶を使用しており、それほど高価な施設を必要としない。従って、沿岸輸送向けのみに使われるサービスのコストは低い。
−沿岸輸送を利用することによる重要なメリットもある。これらのメリットも、手数料設定に加味されるべきである。
 
 タイの民間港湾事業者による港湾使用料は、海運促進委員会事務局により見直される。同見直しは沿岸輸送事業者の使用料が適切に設定されている事を確認する意味合いもある。
 
施設
 RO−RO船及びバージは共に、全輸送モードの中で沿岸輸送がシェアを上げるために重要な役割を果たすと考えられる。どちらの輸送形態もこれまでの港湾計画では優先度があまり高くなかった。将来の港湾計画ではRO−RO船専用バース及びバージの適切な投錨地を確保するべきである。
 
書類
 トラック輸送の書類は最小限であるのに対し、沿岸輸送の場合は国際輸送と同様の税関書式を含めた必要書類条件を満足しなければならない。多くの沿岸航路では、そのような書類の必要性は疑問である。必要書類の簡素化は、沿岸輸送を魅力的な選択肢とする要因の1つとなろう。
 
バージ登録
 現在のバージ登録については、港湾局に幅広い自由裁量を与えており、バージ業界への新規参入の障害となっている。バージ業界は大幅な技術改良の余地があり、バージ事業を向上するためには全ての障害を取り除くことが重要である。外洋でのバージ運航は、合法的かつ通常の沿岸輸送とみなされるべきであり、他の沿岸輸送と同様に取り扱われるべきである。これには投資及び外国人参加の自由化促進に関連した条項も含まれる。
 
複合一貫輸送
 港−後背地リンケージに関する海運発展マスタープラン推薦案の実行は、タイにおけるモーダルシフトに大きく貢献する可能性がある。これらは優先的に行われるべきである。
 
その他の方策
 貨物輸送の道路輸送から沿岸輸送への移行を促進するために役立つ他の方法には以下のものが含まれる。
政府及び産業フォーラムを通じ、短距離海上輸送の潜在的な環境上、安全上、経済上の利点に対する公衆への啓蒙。
沿岸輸送に対する研究開発の援助。
沿岸輸送促進における、近隣諸国との地域的な協力の促進。
現在、港、海運業者及びその他の関係者で使用している又は開発中の各種港湾情報システムの統合の促進。
 
 沿岸輸送における問題は、インフラストラクチャー、規則、行政、および自然災害に分類することができる。これらの問題は船舶事業者に多大な出費を余儀なくしている。
 
インフラストラクチャーの問題
 主なインフラストラクチャー上の問題は、港及び航路の有用性と適合性、後背地への相互連結に関係する。
 
規則に関する問題
 タイは既に、安全な運航や汚染防止及び望ましい作業環境の実現を目的とする多くの国際協定を採用している。ところがこれらの規則はその大部分が非常に複雑であり、運航業者にとって不便であると同時に費用的な負担を大きくしている。
 
行政上の問題
 主な問題は「政府が、各交通モード間の公正な競争システムを構築していない」ことと「十分な支援施策がなく、継続的な開発が行われていないこと、関連政府機関の間で協力体制が整っていないこと」である。
 
自然災害に関する問題
 タイは10月から11月にかけて、年に平均3回の熱帯暴風雨に見舞われる。その上、沿岸の生態的、社会的、及び文化的環境は既に破壊されており、これらが港湾開発に悪影響を与えている。







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