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7-3 エネルギー政策に対する選挙の影響
 
 選挙結果は米国エネルギー政策に重大な影響を与える可能性を含んでいる。特に、上院で共和党が過半数議席を獲得したことにより、包括的エネルギー法案の可決の可能性が高まった。しかし、依然として反対の声は存在し、民主党はいつでも議事進行妨害に出ることができる。
 
エネルギー政策に影響を与える主要な連邦選挙区
 中間選挙における大きな出来事は、フランク・マコウスキ上院議員のアラスカ州知事当選である。マコウスキ上院議員は上院エネルギー委員長であり、北極国立野生生物保護区の探鉱・開発解禁を盛込んだ包括エネルギー法案の可決の上院における旗振り役であった。同議員が上院から去ることにより、ANWR開発解禁の強力な支持者が一人減ることになる。
 しかし、同議員に代って委員長の席につくと見られているのは、ニューメキシコ州のピート・ドメニチ上院議員である。同議員は、財政問題については保守的であり、資源案件については通常、他の西部州選出上院議員と足並みを合わせる傾向にある。また、同議員は原子力発電を積極的に支持してきた。ANWR開発解禁を盛込んだ包括的エネルギー法案の可決も支持している。この問題についての同議員の見解は、上院が包括的エネルギー法案からANWR解禁を除外したことに対して出された2002年4月のプレスリリースに表れている。
 
 ピート・ドメニチ議員は本日、北極国立野生生物保護区の片隅に存在するエネルギー埋蔵量を確認するための選択肢が排除されたことは、石油・ガス国内資源を無視する余裕が米国にあると考える「経済的おごり」を反映するものであると述べた。
 ドメニチ上院議員は2,000万エーカーのANWRのうち2,000エーカーについで初期探鉱を認める米国エネルギー政策法案(S.517)の修正案2件についての民主党の議事進行妨害を終わらせるために一票を投じた。上院は、ANWR修正案についての審議を制限し、これを終わらせるために必要な60票を獲得することができず、ANWR文言を法案に盛り込む努力は廃案となった。
 本日の採決に先立って、上院に対する演説でドメニチ議員は、ANWR生産は、回復可能エネルギー依存度を高め、原子カエネルギーの利用を拡大し、国内の石油・ガス資源を最大限に活用することを通して米国のエネルギー供給源を多様化することに焦点を当てたバランスのとれた包括的エネルギー政策案の重要な部分となるはずだと語った。
 私にとって、ANWR問題は簡単である。我が国の厳しい環境管理の下で我が国の最も環境に優しい技術を使って、米国内で掘削すべきである。我が国の需要を満たすために、自国の石油を発見できる場所で掘削すべきである。そして、同時に、我々はすべての石油ベースの燃料への我が国の依存度を軽減する新たな技術を開発すべきである。
 我々は外国に泣き付いて自国の石油需要を満たすこともできるし、自ら石油を調達する手助けもできる。私の意見では、自力で達成する機会があればそうするべきである。ANWR資源は我が国の輸入依存を緩和し、外国産の石油供給の変動に対する依存を軽減することを可能にする。中東とベネズエラの情勢に不安がある現在、米国は裕福であり強力だから何十億ガロンもの米国産石油を開発する値打ちはない、というのは経済的傲慢に等しい。
 
 ドメニチ上院議員のANWR支持の姿勢を考慮すれば、マコウスキ上院議員がエネルギー・天然資源委員会を去ったことでANWR開発の動向には大きな影響はないと言えよう。しかし、アラスカ州選出のマコウスキ議員はANWR開発が地元州に恩恵をもたらすため、ドメニチ上院議員を始めとする他の委員よりも、ANWR開発に個人的な利害関係があった。
 選挙の結果、上院環境公共事業委員長は独立系のジェームス・ジェフォーズ上院議員から共和党のジェームス・インホフェ議員に変る。ジェフォーズ議員は環境保護の擁護者として環境保護団体から高く評価されていた。オクラホマ選出のインホフェ議員は超保守派上院議員の一人と考えられており、石油産業支援政策を強く提唱している。同上院議員は、新たな法案の可決及び、規則の再検討に厳しいコストーベネフィット(費用効果分析)基準を適用する意図があることをほのめかしている。言い換えれば、環境保護法は、ビジネスへの影響を評価するための厳しい詮索を受けることを意味している。つまり、環境保護とエネルギー資源開発のバランスは、委員長交替の結果、明らかに後者に傾いたことになる。
 
業界による選挙資金提供
 中間選挙でエネルギー業界は巨額の選挙資金を提供を行った。政治監視団体であるオープン・シークレットによれば、連邦議会選挙に石油・ガス業界が投入した政治活動委員会(PAC)27献金は総額490万ドルにのぼる。政党別では、74%が共和党侯補者、26%が民主党候補者に対するものであり、業界好みの政党は歴然としている。献金額のトップはヒューストンに本社を置き、天然ガスパイプライン、発電事業等を手掛けているエネルギー商社のエルパソ社である。エクソン・モービル社は献金額で業界第2位であるが、共和党議員に対する献金はエルパソ社よりも大きい。次に選挙資金として10万ドルを超える献金を行ったエネルギー企業、または業界団体を挙げる。
 
2002年中間選挙における連邦議員選挙戦に対する
石油&ガス産業の選挙資金(PAC)寄付
  選挙資金寄付
Company 総額 民主党 共和党
El Paso Corp $632,000 $155,000 $477,000
Exxon Mobil Corp $535,000 $52,000 $483,000
Ashland Inc $256,700 $35,000 $221,700
Koch Industries $242,013 $83,500 $158,513
Chevron Texaco $215,500 $68,000 $147,500
0ccidental Petroleum $189,500 $62,500 $127,000
Anadarko Petroleum $169,500 $13,500 $156,000
Society of Ind. Gasoline Marketers. $169,500 $43,500 $126,000
Valero Energy $161,000 $68,000 $93,000
American Gas Assn $149,887 $63,800 $86,087
Petroleum Marketers Assn $145,003 $56,753 $88,250
Kerr-McGee Corp $142,000 $22,500 $119,500
Marathon Oil $139,175 $30,175 $109,000
Williams Companies $137,900 $29,000 $108,900
Independent Petroleum Assn of America $132,500 $6,000 $126,500
BP America $119,500 $39,250 $80,250
Shell 0il $113,290 $26,290 $87,000
その他 $1,230,128 $396,288 $833,840
合計 $4,880,096 $1,251,056 $3,629,040
全体に対する割合   26% 74%
出典:オープン・シークレット
 
 これらの献金は、特定のガイドラインと制限を受けるPAC献金である。これの他に、灰色献金をなくそうとする努力にもかかわらず、侯補者はほぼ全員、選挙期間中に「ソフトマネー」28を受け取っている。オープン・シークレットによれば、石油・ガス産業は候補者に790万ドルのソフトマネーを提供しており、その85%が共和党候補に対するものである。電力産業は670万ドルの献金を行い、その75%を共和党候補が受け取っている。
 
エネルギー政策に影響を与える下院リーダーシップの交替
 民主党敗北の結果、下院少数派党院内総務であるデイック・ゲッパード議員は民主党下院院内総務を辞任した。後任のナンシー・ペロシ議員(カリフォルニア〉は、女性で初めての院内総務である。初当選以来15年間、ペロシ議員は左派として投票を続け、サンフランシスコのリベラル議員の定評を確立した。エコノミスト誌は、「ハードな決断を下さなければならない時は必ず、ペロシ議員はソフトな側に立つ」と評している。エネルギー法案において、同議員は回復可能エネルギーと省エネの問題を最優先するであろう。ANWR開発には最も反対だと考えられる。つまり、ペロシ議員が民主党下院院内総務に格上げされたことで、第108議会におけるエネルギー法案の流れに影響が出るかもしれない。しかし、最終的には下院では共和党が228対204で過半数議席を占めており、政党で投票が分れるとすれば、エネルギー法案については共和党が採決権を握っている。
 

27
Political Action Committee(PAC)特定候補者の選挙資金調達・支出を目的として設立され、選挙管理委員会に登録される組織。PACの献金額は法律で上限が定められている。
注:独立系候補への献金を除く
28
PAC献金が法の規制を受ける「ハードマネー」と呼ばれるのに対し、州レベルの選挙運動や政党の組織拡大のための資金は、法による規制がなく、「ソフトマネー」とよばれている。







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