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エネルギー問題が争点となった上下議員選挙戦
 エネルギー政策は2002年の中間選挙では特に強力な争点ではなかった。しかし、エネルギー業界が委員長の席を約束されている共和党議員を強力に支援した選挙区が幾つか存在する。
 
<ドメニチ対トリスタニ>
 ニューメキシコ州の上院選は次期上院エネルギー委員長とされているピート・ドメニチ現職上院議員と、元FCC長官のグロリア・トリスタニ候補の一騎打ちとなった。ドメニチ上院議員は原子力発電とANWR開発を強力に支持しており、トリスタニ候補は強力な環境保護主義者である。トリスタニ候補はドメニチ上委員議員のエネルギー政策は米国を誤った方向に導いていると論じた。トリスタニ候補は、現職のドメニチ議員が、オフショアであれ野生生物保護区であれ、石油掘削拡大政策を支持することにおいて「歴史の誤った側」に立っている、とした。トリスタニ候補は、米国が必要としているのは回復可能エネルギーの新たな源であり、省エネ対策を実施することであるが、ドメニチ議員は米国に原子力発電所を増設させ、ANWRを掘削させながら、新たなエネルギー技術を利用させようとしていないと論じた。
 トリスタニ侯補の支持団体にはシエラクラブが含まれていた。同団体は「11月にニューメキシコ州は、我々の健康、安全、家族のために立ち上がるグロリア・トリスタニと我々の家族を犠牲にして巨大企業におもねるピート・ドメニチという明らかな選択を行うことになる」という立場を取った。しかし、言葉に献金は伴わなかった。シエラクラブがトリスタニ候補に献金した選挙資金はわずか50ドルであった。一方、業界からはドメニチ上院議員に選挙資金が流れ込んだ。ドメニチ議員を支援する団体には67,200ドルの選挙資金を献金した原子力発電業界が含まれていた。ドメニチ議員は、原子力発電業界からの2番目に高額の献金を受け取った議員である。ドメニチ議員は、石油・ガス業界から136,300ドルというさらに高額の献金を受けている。最終的に、トリスタニ候補の得票率は35%、ドメニチ上院議員は65%であった。
 
<インホフェ対ウォルターズ>
 オクラホマ州上院議員選は、環境を犠牲にしても資源開発を支持するという評判の共和党現職のジェームス・インホフェ議員と、在任中のスキャンダルで罷免寸前となった民主党元知事のデビッド・ウォルターズの一騎打ちとなった。インホフェ上院議員は共和党が上院で過半数を占めた場合は、上院環境公共事業委員長侯補として名前が挙がっていた。インホフェ議員がライバル候補に比べて圧倒的に多額の選挙資金を獲得したこともあって、接戦には程遠かった。インホフェ議員は選挙資金として330万ドルを集め、このうち110万ドルはPAC献金であった。ウォルターズ候補は、190万ドルを集めたが、PAC寄付は40万ドルに過ぎなかった。インホフェ議員の大型支援者は石油・ガス業界であり、186,000ドルを献金した。インホフェ議員は57%の得票率(ウォルターズは36%)で当選した。
 
<トージン対ベイアー/アイワンチオ>
 下院エネルギー・通商委員長のビリー・トージン議員は、議会可決に至らなかった包括エネルギー法案であるH,R.4の下院通過の立役者であった。ニューオリンズ選出の在任12期のトージン議員は、委員長としてエネルギー業界にとって重要な人物であり、業界が再選を望むのは当然である。同議員は2002年選挙資金として170万ドルの寄付を集め、このうち電力産業が116,000ドル、石油・ガス産業が105,000ドルであった。ウィリアム・ベイアー、デイビッド・アイワンチオの2人の独立系対抗候補があわせて13%を獲得したのに対して、トージン議員は87%を獲得し、同議員の圧勝であった。
 
エネルギー州における知事選
 エネルギー部門に対する依存度が高い州においても、全般的に知事選ではエネルギー政策が大きな争点となることはなかった。共和党知事侯補も民主党候補もエネルギー問題についてはっきりとした見解を示さなかったか、または両党侯補ともに見解が一致していた。以下に4つのエネルギー関連州の知事選を概説する。
 
<アラスカ>
 2名の主力候補であるフランク・マコウスキ上院議員とフラン・アルマー副知事は両者ともANWR開発を支持した。マコウスキ候補は問題となっているエネルギー法案にANWR開発を盛込むことを強く支持してきた議員の一人である。アルマー侯補は、「石油・ガス開発はアラスカの経済に有益であるばかりでなく、米国の経済にも益をなす」という見解を明らかにした。石油生産はアラスカ州の収入に繋がることから、同州の環境保護派の反対の声はかき消された。ANWR開発に反対したのは緑の党からの候補者だけであり、マコウスキ侯補が110,816票、アルマー候補が80,490票を獲得したのに対して、緑の党の候補の得票数はわずか2,432票であった。最終的にマコウスキ候補が56%の得票率で当選した。
 
<フロリダ>
 フロリダ州知事選は共和党のジェブ・ブッシュ現職知事と民主党のビル・マクブライド候補の一騎打ちとなった。ジェブ・ブッシュは大統領の弟である。両侯補ともにメキシコ湾東部海域の掘削という環境上センシティブな問題について、掘削を許可するべきではないという見解を示しており、選挙期間中にこの問題が特に注目を集めることはなかった。両候補の立場の相違点といえば、マクブライド候補はフロリダの環境保護において州政府が指導的役割を果たすことを求めているのに対し、ブッシュ候補は開発の決定について地方自治体政府の役割を強化しようとしている点のみであった。他のエネルギー問題も選挙戦では浮上せず、教育問題、社会事業問題が主な争点となった。ブッシュが56%を獲得して当選。マクブライド侯補は43%であった。
 
<テキサス>
 テキサス州はエネルギー消費でも原油生産でも米国第一位であり、知事選でエネルギー問題が争点となってもおかしくはない。しかし、2002年の選挙ではエネルギーは争点とはならなかった。共和党のリック・ペリー現職知事も民主党のトニー・サンチェス対立候補も、エネルギー問題に触れなかった。サンチェス侯補が、公益事業改革と大気・水質基準適合取締まり強化のために州機関を併合する必要がある、と発言した程度である。同候補は一族所有の石油・ガス会社を経営しており、コノコ・フィリップス社の役員でもある。最終的にペリー知事が58%を獲得して再選、サンチェス候補は40%であった。
 
<オクラホマ>
 オクラホマ州は石油生産量では全米5位であり、国産天然ガスの8%を生産している。そのため、テキサス州と同様にエネルギー問題が知事選の争点となってもおかしくはない。しかし、ここでもエネルギー問題は争点とならなかった。スティーブ・ラージェント共和党候補もブラッド・ヘンリー民主党侯補も、ラージェントの超右翼信仰に焦点をあてた泥仕合を展開した。接戦となり投票総数100万票に対して、約7,000票の僅差でヘンリーが当選した。オクラホマ州知事選挙は、2002年選挙で共和党が民主党に知事職を奪われた州のひとつでもあった。タームリミットである2期を務めたフランク・キーティング現知事は共和党である。







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