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7-2 海事政策に対する選挙の影響
 
 海事産業の候補者への選挙資金提供から見て明らかなように、中間選挙は海事産業の各種部門にとって関心の的であった。選挙の結果により委員会委員長の顔ぶれに変化があれば、海軍艦艇建造、ジョーンズ・アクト、港湾・海事保安の海事関連3部門に影響が及ぶ可能性があったのだ。
 
海事産業と労組の選挙資金提供
 まず、海事部門において誰が選挙資金を提供しているかを見てみよう。海事産業、特に海事労組は中間選挙の候補者にかなりな資金提供を行っている。海事産業は選挙資金として総額80万ドルを提供しており、その57%が共和党侯補への寄付であった。この金額は海事労組の提供した選挙資金額とは比べものにならない。6つの主要海事労組が総額240万ドルを提供しており、そのうち69%が民主党候補者に対するものであった。しかし、海事産業が推した有力侯補者の一人である元下院議員のヘレン・デリック・ベントレー侯補はメリーランド州から共和党候補として下院議員に立候補したが、落選に終わった。
 
2002年中間選挙の連邦候補者に対する 海事業界の公認選挙資金提供額
  選挙資金額
合計 民主党 共和党
海運会社/グループ
International Council of Cruise Lines $99,250 $53,250 $46,000
Saltchuk Resources $82,000 $46,500 $33,500
Kirby Corp $80,600 $22,600 $58,000
American Pilots Assn $76,500 $40,000 $36,500
Maher Terminals $58,500 $21,500 $37,000
American Waterways Operators $51,512 $21,022 $30,490
Crowley Maritime $50,041 $19,000 $29,041
Maersk Inc $43,500 $14,500 $29,000
Matston Navigation $37,000 $21,000 $16,000
American Shipping Alliance $35,750 11,500 $24,250
Ingram Barge Co $28,500 $10,250 $18,250
Holland America Westours $22,500 $8,500 $14,000
Alexander & Baldwin Inc $22,000 $18,000 $4,000
Princess Cruises and Tours $18,500 $5,000 $13,500
Atlantic Marine/Atlantic Dry Dock $16,500 $2,000 $14,500
Society for Relief of Distressed Pilots $16,500 $4,500 $12,000
Halter Marine Group $12,500 $1,000 $11,500
APL Ltd $11,360 $4,250 $7,110
International Sipholding Corp $10,300 $5,000 $5,300
その他 $27,010 $13,000 $14,010
合計 $800,323 $342,372 $453,951
全体に占める割合   43% 57%
海事労組
American Maritime Officers $927,162 $437,500 $489,662
Seafarers International Union $511,230 $427,889 $83,331
International Longshoremens Assn $453,490 $431,000 $22,490
Marine Engineers Beneficial Assn $325,025 $244,325 $80,700
Masters, Mates & Pilots Union $182,645 $117,075 $65,570
Marine Firemans Union $9,600 $9,100 $500
合計 $2,409,152 $1,666,889 $742,253
全体に占める割合   69% 31%
出典:オープン・シークレット
 
海軍艦艇建造
 上院で共和党が過半数議席を取替し、上院における委員会、小委員会の委員長の顔ぶれが変ることは海軍艦艇建造に有利に働くと考えられる。上院軍事委員会の委員長はミシガン州選出のレーヴィン上院議員からワーナー上院議員に変った。ワーナー上院議員はヴァージニア州選出であり、ニューポート・ニューズ造船の強力な支援者である。また、議員になる前は海軍長官を務めた経歴がある。海軍力小委員会の委員長の席にはジェフ・セッションズ上院議員が着くことが確実である。同上院議員は第107期議会で同小委員会の共和党筆頭委員を務めていた。これまで海軍力小委員会は民主党のなかでもリベラル派とされるエドワード・ケネディー上院議員が委員長を務めており、国防支出全般に好意的ではなかった。
 1月に議会に送られる大統領予算要求では、国防予算全般の大幅増額が予想されている。ワーナー上院議員が上院軍事委員長となり、海軍力小委員会の委員長の座からケネディー議員が離れるため、第108期議会で海軍が国防予算拡大の恩恵を受けるのは格段に容易になる。
 
ジョーンズ・アクト
 上院通商・科学・運輸委員会の陸海運小委員会の委員長は、第107期議会で同小委員会で共和党筆頭委員を務めていたゴードン・スミス上院議員である。同委員長はこれまでアボンデール造船所を地元に抱えるルィジアナ州のジョン・ブロー上院議員が務めており、ジョーンズ・アクト支持の立場を取っていた。一方、スミス議員はジョーンズ・アクトについて立場を決定していないようである。同議員はオレゴン州選出であり、ジョーンズ・アクトのため西海岸を起点とするクルーズ船がポートランド港を利用する機会が失われるという理由で、同州がジョーンズ・アクト反対に傾く可能性もある。
 さらに・ジョーンズ・アクトの観点からは、上院通商・科学・運輸委員会の新委員長がジョン・マッケイン上院議員になることは大きな意味を持っている。マッケイン議員は過去にジョーンズ・アクトに強く反対してきており、ジョーンズ・アクト改正案件が第108期議会で取り上げる可能性は十分ある。しかし、ジョーンズ・アクトは成立以来82年間、何度も攻撃にさらされてきたが、内航船を米国建造船に制限する条項を骨抜きにしようとする試みは今までのところ成功していない。
 
港湾・海事セキュリティ
 改選後の残りの会期で、上院・下院ともに2002年海運保安法(S.1214)を承認した。同法案は11月25日に可決され、翌日大統領の署名により成立した(公法107-295)。これは、米国港湾及び米国通商における海事輸送に新たな保安措置を導入するための2年間にわたる立法活動の結晶である。上下両院協議委員会における足踏み状態を打破するために、上院は提案の法案から「使用料」条項を取り下げることに同意した。そのため、現時点では新法には原資調達メカニズムが含まれておらず、実施にはなんらかの歳出予算立法が必要となる。
 新たな海事保安プログラムの導入コストが5年間の対テロ戦特別予算から支出される可能性もある。2003会計年度予算要求で、大統領は5年間にわたり毎年100億ドルの対テロ戦活動予算を要求した。国防予算法案は2002年10月23日に可決されたが、特別予算はこれに含まれていなかった。上院で共和党が実権を握ったため、大統領は再び年間l00億ドルの特別予算の要求を計画している。中間選挙の結果、これが認められる可能性は高まった。対テロ特別予算の用途の一つとして、港湾・海事保安活動が含まれることも考えられる。
 

注:独立系候補者への献金を除く







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