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7 2002年中間選挙が米国海事政策及びエネルギー政策に与える影響
7-1 2002年の選挙結果概観
 
 中間選挙は議会の力関係に根本的な影響を及ぼし、与野党間の争いのため停滞していたブッシュ行政府のプログラムの多くを実現する足場を提供することとなった。選挙の結果、上下両院とも与党である共和党が過半数を占めた。
 
新たな勢力関係
 今回の選挙は大統領にとっても共和党にとっても大勝利となった。共和党は上下両院で議席を増やした。独立系議員を除けば、上院の勢力は共和党51議席、民主党47議席、下院は共和党228議席、民主党204議席という結果になった。
 
下院で多数党議席が少数党議席を上回った数
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上院で多数党議席が少数党議席を上回った数
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注:独立系及び空席は除く
 
 今回の選挙では特に現職議員が活躍した。下院では現職の98%が再選を果たし、上院では85%が再選された。最も重要な点は、共和党が上院で過半数議席を取り戻したことである。知事選では民主党が3州増やしたが、中間選挙は全体として民主党の大敗であり、ブッシュ大統領支持が確認された結果であった。
 選挙結果は、ブッシュ大統領の人気に左右された部分が大きい。2001年9月11日の同時多発テロ事件以来、大統領の人気は急上昇し、昨年一年間に支持率は80%を超えた。景気後退にかかわらず、大統領は有能で強力な指導者だというイメージがあり、議会民主党はこのイメージを崩すことができなかった。
 その結果、2002年の選挙は過去50年間で初めて大統領が在任第一期目に与党が議席を増やした中間選挙となった。1946年以来、与党は中間選挙では平均して下院で25議席、上院で4議席を失っている。
 
大統領 中間選挙の年 与党議員の獲得議席増減 再選
上院 下院
トルーマン 1946 -12 -55
アイゼンハワー 1954 -1 -18
ケネディー 1962 +3 -4 暗殺
ニクソン 1970 +2 -12
カーター 1978 -3 -15 ×
レーガン 1982 -1 -26
ブッシュ 1990 -1 -8 ×
クリントン 1994 -12- -54
ブッシュ 2002 +2 +5 ???
 
 州レベルにおいては、共和党の勢力は幾分弱まり、民主党知事が改選前は21州であったのが、現在24州となっている。さらに重要なことには、民主党知事が新たに誕生した州には、イリノイ、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンのような工業州が含まれており、またカリフォルニア州では現職民主党知事の不人気にもかかわらず民主党候補が当選した。エコノミスト誌によれば、米国の共和党知事州人口が占める割合は1994年の70%から現在は46%に減っている。
 
選挙戦における主要な争点
 共和党侯補は大統領人気と現政権の最初の18ヵ月の業績に大きく依存する戦略を取った。共和党全国委員会は、ブッシュ政権の減税法案、景気活性化法案、企業責任追及法案、学校に生徒の学力の責任を負わせる教育改革、米国製品に外国市場を開いた通商法案を強調した。また、年金改革、エネルギー安全保障、テロ保険、財政緊縮などについての重要法案の可決を民主党が妨害したことを激しく非難する戦略をとった。選挙戦のあらゆる部分で、テロの脅威とイラク問題が大統領支持を盛り上げるために利用された。共和党候補に投票することは、国家危機に際して大統領支持を確認することである、というのが共和党のうたい文句であった。
 一方、民主党はブッシュ政権下の経済政策の失敗を基に、共和党候補を攻撃しようとした。民主党全国委員会は、ブッシュ大統領の就任以来、失業が記録的に増え、経済は停滞し、企業スキャンダルが頻発し、株価が下落し、医療費が上昇し、連邦予算が再び赤字に転落したことを強調した。民主党はブッシュ行政府が米国経済の将来に何のヴィジョンも持たない一方、「民主党は停滞した米国経済を活性化し、働く人々とその家族を助ける経済政策を成立させるために努力している」と論じた。
 どちらのメッセージが有権者を動かしたかは選挙結果を見れば明らかである。民主党は、国家危機に際して国民の支持を必要としている(と国民が考えている)人気の高い大統領の威光を借りた共和党候補者に対抗できなかったのである。
 選挙の結果、民主党指導陣に新風を吹き込む必要があるという気風が生まれている。すでに議会の民主党指導陣に大きな変化があった。ゲッパート下院議員が下院民主党院内総務を辞任した。民主党多数派時代に上院院内総務であったダシェル上院議員は、上院少数派党院内総務として留まるが、その影響力は弱まる。
 
ブッシュ行政府への影響
 共和党の圧勝により議会における勢力が塗り替えられ、ブッシュ政権は新たな展開を利用するため積極的なアジェンダを押し進めている。まず、11月のレイム・ダック会期中にブッシュ政権は選挙結果の勢いを借りて民主党の反対により足踏み状態であった国土安全保障省設置を押し切った。また、テロ保険法案も可決に持ち込んでいる。1月の議会再開後に、ブッシュ政権は包括的エネルギー法案の可決、医療保険システムに競争を持ち込むためのメディケア改革、2002年の暫定的10年減税の恒久化、企業向け投資税制優遇措置、生活保護受給者に対する就業要件の強化、といった立法イニシアティブを押し進めることを計画している。
 しかしながら、過半数議席を獲得したとはいっても、共和党が法案の命運を完全に握ることができるわけではない。上院では議案通過阻止のための妨害戦術を突破するために必要な議席(60議席)は獲得しておらず、北極国立野生生物保護区の探鉱生産解禁を盛込んだエネルギー法案が本会議に持ち込まれた場合は、議事進行妨害戦術に出るつもりがあるとの態度を示している民主党上院議員もいる。
 今回の選挙で有権者の支持を獲得したことで、共和党がどこまで強気の姿勢が取れるかについて懸念がある。1994年に共和党が大勝した際に、同党は急激な政策転換を国民が支持すると考え、判断を誤った。共和党はニュート・ギングリッチ下院院内総務の指導のもとで、「アメリカとの契約」の旗印の下に大幅な政策転換を図った。第104議会の最初の100日間に、米国における保守運動の目標を実行に移す10件の大型法案を下院本会議に持ち込もうとしたのだ。「アメリカとの契約」は自らの重みで崩壊し、最終的にギングリッチ下院議員は辞職し、クリントン大統領は1994年選挙前より強力な立場に立ったのである。ブッシュ政権が選挙における共和党の勝利に有頂天にならず、控えめな態度を示し、共和党と民主党の協調の必要性を強調したのは、主にこれが理由である。
 選挙結果についてマスコミは、共和党の大勝は明らかだが、ブッシュ政権のすべてのイニシアティブが順調に進むとは限らず、悪化する経済はブッシュ政権の凋落を招きかねない、と強調している。コングレッショナル・クオータリー誌の政治アナリストは、「第108期議会は大統領がアジェンダを定める場所となるだろう。しかし、民主党の力は依然として強力であり、激しくブッシュ政権を批判しようとてぐすねをひいている」としている。共和党のストラテジストであるダニエル・マッツーン氏は、「今後も海は荒れ、決して順風満帆にはならない」とコメントしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の政治アナリストは、「ブッシュ、今こそ経済にフォーカスが必要」と題した記事で、「ブッシュ大統領はもはや民主党の妨害のせいにすることはできない。今度は経済である。」としている。しかし、全体的なコンセンサスは、上院多数党院内総務となるトレント・ロット上院議員26の言葉に要約される。「国民は議会と大統領が協力して物事をやり遂げることを求めていると示したのだ。」
 

26
ロット上院議員は、選挙後の12月に人種差別支持と受け取られる発言をしたことで、上院院内総務辞職に追い込まれた。後任はテネシー州選出のフリクス上院議員である。







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