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6-3 エネルギー産業
 
 米国エネルギー産業は京都議定書に強く反対している。エネルギー部門で、京都議定書に多少でも好意的な発言は全く見当たらなかった。おそらく、業界の議定書に対する姿勢は、ワシントンにおける石油業界のロビー団体である米国石油インスティチュート(API)の姿勢に代表されるであろう。
 
 京都議定書の反対派も賛成派も気候変動に人類が寄与している可能性を深刻に受け止めている。業界、政府、科学者は、この議論から生まれる多くの疑問に答えるべく懸命な努力を払うべきだと信じている。この問題は複雑かつ不明確であり、国家の対応策について道理にかなった、かつ活発な意見の相違が発生するのも当然である。
 石油及び天然ガス業界は、京都議定書に盛込まれた温室効果ガス削減目標と時間枠は、気候変動科学の進化についての我々の現在の理解をもってして、過重の経済的負担を強いるものである。
 議定書の目標値を達成するためには、米国は何百万人もの失業者を出し、ガソリン、電力、暖房用油、天然ガスのような重要な製品の価格を大幅に上昇させるような方法でエネルギー生産と使用を抑制しなければならない。発展途上国は議定書から免除されているために、多くの米国事業は国際市場においてビジネスを失うだろう。京都議定書に適合するための高いコストを支払う必要のない国々の企業に、我が国の企業は太刀打ちできないであろう。
 議定書賛成派は、政府に代替エネルギーを強制し、助成するよう求めている。一方、このような助成を促進している産業は、温室効果ガス排出を低減する非化石燃料エネルギー製品と技術を販売しているがために、直接的恩恵を被るだろう。環境保護団体を含む京都議定書の支持者は、このような厳しい措置には科学的根拠があると言うか、または、不確かであったとしても、その結果が明らかであるかのように行動するしか選択肢はないと論じている。
 「細かい点は後で」というアプローチを要求しているものもいる。彼らは、気侯変動の脅威は明確であるという科学的コンセンサスがあるかのように決めてかかり、米国の経済繁栄と議定書の時間枠と目標値の達成の両立に深刻な疑問があるにもかかわらず、実施を急いでいる。必要ならば、後で変えればいい、というのだ。問題は、一旦批准した国際協定を修正するのは非常に困難だという点である。修正案、温室効果ガス削減の達成期日を延期する修正案は、締約国により承認を受けなければならない。
 地球温暖化についてのAPIの見解は、この現象を評価するための科学的証拠は依然として極めて不確かだというものである。京都議定書の支持者は科学的に立証されたと主張している。実際、人為的変動を自然の変動から分離して気候変動を測定し、良識的な公共政策を策定するのは極度に困難である。この問題が人類にとって脅威となりえるかどうか、いつそうなるのかについて、科学者の意見は分れている。
 自動車利用や火力発電のよう人間の営みの真の影響について、いつの日か研究者はコンセンサスに達するかもしれない。しかし、今までのところ、それは起こっていない。可能性を真剣に受け止めるに十分な知識はあるが、議定書施行の結果、経済的な害を与えるに十分なだけの知識ではない。
 京都議定書が米国に与える経済的影響は多大であることがわかっている。ワートン計量経済予測アソシエーツ(WEFA: Wharton Economic Forcasting Associates)、チャールズ・リバー・アソシエーツのような民間組織、そして連邦政府により実施された様々な研究で、エネルギー・コストが高騰し、何百万人もの失業者が出、経済成長が大きく衰退すると予測されている。
 地球温暖化によりもたらされる惨事から国民を救うために議定書が必要だと世界中の社会が信じているならば、それに伴う経済コストを受け入れる国際コンセンサスがあるだろう。しかし、このようなコンセンサスは存在しない。一方、業界指導者はこの脅威が現実のものだと科学が最終的に結論した場合は、政府は排出抑制を法的に義務づけることを十分に理解している。それまでは、その脅威が、遠い将来のいつかに確かになる可能性があるだけで、京都議定書による犠牲を払うべきかどうか、というのが真の問題である。その答は明らかに否である。
 この問題がはっきりするまで、APIは気侯変動の原因と影響に関する集中的研究と、温室効果ガス削減を経済的に実現可能かつ効率的にするために必要な技術の開発を積極的に支持する。新たな技術を途上国に輸出し、産業化の過程においても排出量を抑制できるようにするべきである。一方、技術開発を妨げてきた重荷となる政府の規則は、合理化または廃止されるべきである。問題は、行動すべきかどうかではなく、気候変動について現在わかっていることに適した政策はどのようなものか、である。
 
6-4 エネルギー関連産業
 
 京都議定書は、米国のエネルギー関連産業の大部分に反対されている。本質的に、義務づけられる排出基準を満たすために企業が余分のコストや手間を負担しなければならないことが反対の根拠である。議定書は、よりクリーンな排気テクノロジー開発を妨げることになる、という議論もある。たとえば、2000年7月にゼネラル・モーターズの前会長は議定書について次のように発言した。
 
 京都議定書は国際的議論の泥沼にはいっている。クリーン・デベロップメント・メカニズム、合同施行、排気量取引、補足主義、相殺、世界参加、国家主権、漏洩、監視、執行、債務、処罰、クレジット、接収を含む議定書の多くの要素は、未解決であり、激しく議論されている。ここでこれらの問題について議論するつもりはない。私が根本的に懸念しているのは、京都議定書は、気候変動の問題に対処するために必要不可欠だと世界に認められている先進技術を開発、商用化し、世界に広げることを促進しないという点である。実際、京都議定書は必要とされるすべての技術の開発を妨げるように思われる。
 「地球気候変動に関する懸念に対処するための技術の役割」という最近の研究は次のように結論している。世界の経済に深刻な影響を及ぼすことなく温室効果ガス排気をこのように大幅に削減するために必要とされる革新的エネルギー技術を開発し、大規模に商用化し、世界中に広めるための時間も、適切な政策環境も提供しない。
 
 1,300万人の労働者を代表するアメリカ総同盟産別会議は、米国雇用が失われ、エネルギー価格が大幅に上昇し、米国企業の海外流出を招くとして、京都議定書に反対している。1999年2月の京都議定書についての同組織の発言を次にあげる。
 
 京都議定書が米国上院により批准され、または行政により施行されれば、米国経済と米国労働者に壊滅的影響を与えかねない。国内石炭消費を削減し、外国産ガスの消費を増やすことにより、現在のエネルギー源の割合を大幅に変えることになり、電力価格の上昇につながる。くわえて、議定書の施行により、すべでの形のエネルギーのコストが大幅に上昇し、エネルギー生産、配送に関る労働者だけでなく、製造、運輸、建設、サービス産業における労働者に影響を及ぼす。経済予測によれば、100万人以上の米国雇用が失われる危険性があり、エネルギー価格は大幅に上昇し、またひとつ米国企業の海外流出の理由を作ることになる。
 アメリカ総同盟産別会議は、断片的な政策を実施する前に米国の将来のエネルギーのニーズの全ての面をカバーするエネルギー政策について真剣に議論するよう行政府に要求する。我々は、電力再編について現在提案されている戦略と京都議定書で要求されている炭素削減策に矛盾があると考え、我が国の国益にならないことを懸念している。
 京都議定書または地球温暖化に関する議論は、クリーン石炭技術、天然ガス革新、水力、原子力、石油、風力、太陽、地熱のような大気中の炭素濃度を削減することのできるすべての技術の利用を含むべきである。アメリカ総同盟産別会議は京都議定書反対の姿勢を改めてここに確認する。
 
 京都議定書が産業に与える影響について、ワシントンの農業関係者のためのロビー団体であるアメリカン・ファーム・ビューローは、京都議定書により農業収人は50%低下し、米国農業従事者の国際市場における競争力に影響を及ぼす、と論じている。
 
 京都議定書は先進国に温室効果ガス削減のための特定の農業慣行を実施することを義務づけている。植林、造林、「持続可能な農業慣行」、メタン制御と回収がこれに含まれる。これは、米国農家や牧場主を対象として農業慣行が国際条約によって定められることを意味する。
 具体的に議定書は、米国に2008-2012年に1990年水準を7%下回まで排出量を削減することを要求している。これを達成するためには、将来の予想水準から燃料消費を約40%削減する必要がある。エコノミスト(行政府のエコノミストも含まれている)は、このような大規摸な削減には新しい大型税の導入が必要となるか、燃料、電力、肥料、農薬のコスト増につながるという点で意見が一致している。AFBFやその他の独立ソースによる経済研究は、これらの新たなコストにより50%の減収となる農家や牧場主もでると予測している。
 京都議定書によれば160カ国のうち30カ国だけが排出削減を義務づけられている。中国、インド、インドネシア、チリ、アルゼンチン、メキシコのような国々は免除されている。米国の生産者に押付けられる規制と割高な生産コストは、我が国の主要な競争相手国には適用されない。その結果、米国の農家や牧場主は、競争の激しい国際貿易の世界で不利を被る結果となる。







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