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6 京都議定書に対する姿勢
 
 1992年5月に国連で京都議定書が採択され、現在186カ国がこれを批准している。同議定書は、温室効果ガスに強制的、法的上限を設けることにより、温室効果ガスと地球温暖化の問題に対処することを趣意としている。しかし、いくつかの理由で米国は議定書を批准しない決定を下した。
 
6-1 ブッシュ政権
 
 ホワイトハウス人りして5ヵ月もたたないうちに、ブッシュ大統領は京都議定書に反対する現政権の姿勢を明確にした。6月11日の演説で、大統領は京都議定書を「根本的に致命的な欠陥がある」とし、地球温暖化に対処するための米国のアプローチを説明した。演説の抜粋を次に挙げる。
 
 京都議定書は根本的に致命的な欠焔がある。しかし、気侯変動に対する国際的対応策を話し合うために、世界各国を一堂に集めるために使われたプロセスは非常に重要なものである。だからこそ、私は今、米国が国連及びその他の枠組みで友好国や同盟国、世界の国々と、地球温暖化の問題に効果的かつ科学に基づいた対応策をつくりあげるために努力する約束をしているのだ。
 米国は、世界最大の人為的温室効果ガスの排出国である。米国は世界の人為的温室効果ガス排気量の20%を占めている。米国はまた世界の経済生産の4分の1を占める。我々は米国に排出量を減らす責任があることを理解している。同時に、米国以外の国々が、温室効果ガス全体の80%を排出していることも理解している。そして、この多くが発展途上国からのものである。
 これは我々米国、そして他の世界の国々が全力を上げて取り組むべき課題である。世界で第二の温室効果ガス排出国は中国である。しかし、中国は京都議定書の義務を完全に免除されている。
 インドとドイツも上位排出国に人っている。しかし、インドもまた京都議定書から外されている。急速な成長を遂げているこれらの、そしてその他の発展途上国は、自国の経済を損なうことなく排出量を削減するという難題に直面している。我々は、温室効果ガス排出量を削減し、経済成長を維持するこれらの国々の努力に協力していきたい。
 京都議定書はまた、地球温暖化に影響を与えている2つの主要な汚染物質である黒煤と対流圏オゾンには対処していない。両物質ともに健康に害を与えることが証明されている。この2つを削減することで、気候変動に対処するだけでなく人類の健庚を大きく改善することができるのである。
 京都議定書は多くの点で非現実的である。多くの国は京都議定書の目標値を達成することはできない。目標値自体が専断的であり、科学的知見に欠ける。米国がこれらの義務に適合しようとすれば、失業者が出、物価が上昇し、経済に悪い影響を及ぼす。これらの欠陥をすべて評価すれば、道理の分かる者ならは健全な公共政策ではないことが理解できるだろう。
 だからこそ、米国上院の95名は、このようなアプローチを認めることに抵抗があると表明したのである。しかし、欠陥のある条約を受け入れることを米国がよしとしないからといって、友好国や同盟国は我が国が責任を放棄しようとしていると考えるべきではない。反対に、現政権は気候変動問題について世界の指導者の役割を果たす決意である。
 国連の気侯変動枠組条約は、温室効果ガスの濃度を気侯に対する人類の危険な介入を防ぐ水準に安定化させることに乗りだした。しかし、その水準がいかなるものか誰も知らない。1990年以来、米国は気候研究に180億ドルを費やしている。他の国の3倍であり、日本とEU15カ国を合わせた額よりも大きい。
 今日、私は米国の科学投資をさらに拡大する。私の政権は、不確実な分野を研究し、投資により違いが出る優先分野を特定するための米国気侯変動研究イニシアティブを確立する。
 私は商務長宮に、他の機関と協力し、気侯変動研究へのさらなる投資の優先順位を定め、それらの投資をレビューし、連邦機関の間の連携を改善するよう指示する。我々は、今後5年間にわたり、気侯変動科学の優先順位の高い分野に十分な資金を提供する。また、開発途上国に気候観察システムを建設するリソースを提供し、他の先進国も米国と同様に尽力することを奨励する。
 我々は、気候変動の原因の影響をよりよく理解する助けとなる最先端の気候モデルを開発する合弁事業をEU、日本、その他の国々と実施することを提案する。米国は技術と革新のリーダーである。我々は、排出量を大幅に削減するためには、テクノロジー、特に炭素捕捉、貯蔵、隔離技術に一番期待が持てると確信している。
 そのため、我々は米国気候変動技術イニシアティブを立ち上げ、大学や国立研究所での研究を強化し、応用研究におけるパーハナーシップを高め、温室効果ガスの総排出量と純排出量を測定、監視するよりよい技術を開発し、バイオリアクターや燃料電池のような最先端の技術の実証プロジェクトに資金を提供する。
 私はアドバイザーに、市場の力を利用し、有望な技術の実現を助け、世界各国のできる限り広い参加を確実にするものを含んだ、温室効果ガス排出量を削減するためのアプローチを検討するように求めた。可能性を分折する過程で、我々はいくつかの基本原則により導かれるだろう。我々のアプローチは、大気圏内の温室効果ガス濃度を安定させるという長期的目標と一貫したものでなければならない。我々のアクションは、科学からより多くのことを学び、それを基に積み上げて行くに従って、照らしあわせて評価されるべきである。
 我々のアプローチは、新しい情報に適応し、新しい技術を利用するだけの柔軟牲を備えたものでなければならない。我々は常に、我が国の国民と世界中の国民の経済成長と繁栄が続くことを確実にするように行動しなければならない。我々は市場ベースのインセンティブを追求し、技術革新を促進するべきである。
 そして、最後に、我々のアプローチは、温室効果ガス純排出量が先進国を上回る発展途上国を含む全世界が参加するものでなければならない。
 
6-2 米国議会
 
 米国議会には、京都議定書に対する支持はほとんどない。この問題は、議定書が米国産業に与える経済的悪影響を論証しようとする激しいロビーイング攻勢にあっている。国際協定批准を担当している上院は、1997年に議定書に強く反対する決議案を可決した。同決議案(S.Res.98)は95対0で可決された。以下にその一部を引用する。
 
 国連気侯変動枠組条約(以下「条約」)は1992年5月に採択され、1994年に発効したが、まだ完全施行に至っていない。
 気候変動に地球規模で対処することを趣意とする同条約は、旧ソ連と東欧、米国を含むOECD加盟国を「附属書I締約国」とし、中国、メキシコ、インド、ブラジル、韓国を含む残りの129カ国を「発展途上締約国」としている。
 1995年4月、条約の締約国会議で「ベルリン・マンデート」が採択された。
 「ベルリン・マンデート」は、2000年以降の附属書I締約国による温室効果ガス排出抑制義務を強化する議定書またはその他の法的文書を、1997年12月の京都会議で採択することを求め、「ベルリン・マンデートに関するアドホック・グループ」と呼はれる協議プロセスを確立した。
 「ベルリン・マンデート」は、2000年以降の協議プロセスにおける新たな義務からすべての開発途上締約国を明確に免除している。
 米国上院が承認した条約は、すべての締約国が温室効果ガス排出抑制を目的とする政策及びプログラムを採択することを要求していたにもかかわらず、1996年7月に世界問題担当国務次宮は初めて附属書I締約国向けの「法的拘束力のある」排拙規制目標と時間枠の設定を求めた。1997年1月8日に上院外交委員会における証言で国務長宮はこの立場を繰り返した。
 開発途上国の温室効果ガス排出量は急速に拡大しており、2015年には米国を始めとするOECD諸国の排出量を上回ると見られている。
 国務省は、条約締結国にとって次の地球的アクションに途上国を参加させることが不可欠であると宣言し、それゆえに、途上国の温室効果ガス排出量抑制を含める次のステップの検討は、1997年12月に京都で議定書またはその他の法的文書が採択されるまで棚上げにするよう提案した。
 途上国の免除は、気候変動に地球レベルで対処する必要があることと一貫しておらず、環境上欠陥がある。
 上院は、現在交渉中の提案は、附属書I国と途上国の取り扱いの差異、排出削減数値目標により、米国経済に、大幅な失業、貿易上の不利、エネルギー・コストと物価の上昇、等を含む深刻な害を及ぼす結果となりかねないと確信する。それゆえに、上院は以下を決議する。
 (1)米国は、1992年国連気候変動枠組条約に関して、1997年12月に京都で、またはその後協議された、以下のような議定書、その他合意の締約国となるべきではない。
 (A)同じ適合期間内に途上国に新たな温室効果ガス排出抑制または削減義務を課さない限り、附属書I締約国の温室効果ガス排出量を抑制するまたは削減する新たな義務を課するもの。
 (B)米国経済に深刻な害をもたらすもの。
 (2)批准に上院のアドバイスまたは同意を必要とする議定書その他合意は、議定書または合意を施行するために必要とされる法律上、規則上のアクションの詳細な説明を伴わなければならない。また、議定書その他合意の施行により米国が被る経済上のコストを始めとする影響の詳細の分析を伴わなければならない。







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