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4-2 ペンディング中のエネルギー法案
 
 大統領のエネルギー計画が完成して以来、議会にはいくつかの大型エネルギー法案が提出されている。ビンガマン上院議員が提出したS.517、マーコウスキ上院議員のS.388、そしてトージン下院議員のH.R.4がこれに含まれる。「米国のエネルギーの将来を確実にする法」と呼ばれるH.R.4は、2001年8月に240対189で下院を通過した。同法案の上院版である2002年エネルギー政策法は、2002年4月に88対11で上院を通過している。
 下院版と上院版法案のあいだにはいくつかの大きな相違点が存在する。北極国立野生生物保護区(ANWR)における探鉱解禁については、下院版はこれを認め、上院版は認めていない。上院版と下院版の比較については後に詳説する。
 エネルギー法案は現在上下両院協議委員会で相違点の擦り合わせ中である。協議委員は話し合いにより妥協法案を作成することになる。協議は2002年8月から続いており、9月末時点で法案は両院協議委員会で足踏み状態となっている。話合いを先に進めるために、下院側は提案のANWR開発の規模縮小を提案し、最終法案がANWR内の掘削を認めるならば、上院法案に含まれていた気候変動条項を受けいれる準備があるとしている。
 
下院版、上院版エネルギー法案の比較
下院可決版 上院可決版
エネルギー源へのアクセス
・北極国立野生生物保護区(ANWR)の一部の地域を石油・天然ガス探鉱・開発に解禁する ・ANWR解禁の権限を認めず
・リース、許可、検査のタイムリーな処理のための配算
・陸上鉱区リースに対する障壁の評価  
・連邦リースの不当な拒否、停止を廃止する要件 ・リース面積上限から生産面積を控除
・オフショア生産への他のインセンテイブの影響の研究 ・オフショア/陸上生産に対する、財政的インセンテイブの影響の研究
・恒久的な鉱区使用料の現物による支払プログラム。これにより、内務省が現物使用料プログラムを改善し、現物使用料ガスを低所得者用住宅暖房プログラムに使用することができるようにする。 ・該当する条項なし
環境問題
・該当する条項なし ・環境保護局にハイドロフラク(水力破壊)の環境リスクを査定し、追加の連邦規則が必要かどうか判断することを義務づける。
・該当する条項なし ・温室効果ガス排気報告要件
税制上の奨励措置
・国内石油・ガス井の開発に伴い、許認可の遅延により発生したレンタル出費は経費として控除が認められる。 ・遅延により発生したレンタル費用は、出費が発生した月から24ヵ月間にわたり割賦償還することが認められる。
・国内の石油またはガスの探鉱、開発に伴い発生した地質・物理探鉱の出費は、経費として控除を認める。 ・地質・物理探鉱の出費は、出費が発生した月から24ヵ月間にわたり割賦償還することが認められる
・天然ガス採取ラインを、通常税及びミニマム税算出上、7年資産として扱う(減価償却方法を含む)。 ・同じ。ただしAMT22減価償却方法が適用される。
・石油は1バレルあたり3ドル、天然ガスは1立方フィートあたり0.50ドルに相当する臨界石油・ガス井生産クレジットを認める。クレジットは石油1バレルあたり15ドル、天然ガス1立方フィートあたり1.67ドルに達すると段階的に廃止される。生産税額控除はミニマム・タックスにも適用することができ、10年間繰戻して有効である。 ・同じ。ただし未使用の税額控除の10年繰戻しは認められない。通常の1年繰戻しが適用される。ただし、本法成立日または以前に終わる租税上の年には繰戻しは認められない。また、ミニマム・タックスに税額控除を適用することを認める文言はない。
・2006年12月31日まで臨界生産のパーセンテージ減価償却についての65%課税所得制限を一時的に停止する。 ・該当する条項なし
・2002年12月31日まで、臨界生産についての(資産からの)100%純所得制限の停止を延長する。 ・同じ
・独立系石油・ガス生産者の鉱物事業運営に起因する損失について、5年間の純営業損益繰戻しを認める。 ・該当する条項なし
・セクション29生産税額控除を延長・拡充する。既存の適格坑井から生産される燃料に対する税額控除を2006年12月31日まで延長。本法成立後2007年1月1日までに掘削され、生産燃料が2010年1月1日までに売却される新たな適格坑井のための掘削期間を新たにもうける。2001-02年に新坑井から売却される燃料lBOE(石油換算バレル)あたり3ドル、2003年以降、全坑井に対して3ドルをインフレ調整した金額が税額控除される。埋め立て地ガスから生産された燃料にも税額控除を認める。 ・2005年1月1日より前に掘削された、または始動した新しい坑井からの適格の非在来型源燃料の生産にインフレ調整なしの1バレルあたり3ドルの税額控除を与える。税額控除は坑井が掘削された、または始動した日から3年間利用できる。適格燃料は、現在資格を有する炭鉱メタン、重油、その他を含む。既存坑井から生産される燃料についての現行の税額控除は延長されない。
・石油消耗控除の小規模精製所例外の定義を「平均精製処理日量」が75,000バレルを超える精製所を除く、と変更。 ・同じ。ただし「平均精製処理日量」は60,000バレルを超えてはならない。
・該当する条項なし ・カナダのアルバータのベンチマークであるAECOCガス・パイプライン・ハブで一ヶ月の価格平均が$3.25/Mcfを下回った場合、税額控除を認める。
出典: 米国独立系石油協会
 
 しかし、エネルギー法案が成立する保証は全くない。ニューヨーク・タイムズ紙は10月5日の社説で、辛辣に「エネルギー法案を廃案に」するように勧めいている。この社説は、同法案を廃案にし、白紙に戻してやり直すことを望んでいる法案反対派の意見を代表している。
 
 下院と上院の協議委員は巨額のエネルギー法案の2つの異なる版を刷りあわせようとあがいでいる。全部御破算にして、来年一からやり直しすることで合意してくれたほうが、彼らにとっても、米国にとってもよほど有り難い。上院法案は下院法案に比べてまだましだがどちらも我が国のエネルギー安全保障を目に見えて高めることも、現在及び将来の中東石油依存度を減らすこともしない。これが、本来の目的なのに。また、どちらの法案も環境保護上胡散臭い。
 しかし、このような大型法案ともなると、長所もいくつかある。両法案ともエネルギー効率の向上と、風力や太陽熱のような回復可能な非化石燃料に対して様々な税制優遇措置を盛込んでいる。上院版は、エネルギー配送市場の信頼牲を高め、分散させるために使える可能性のある奨励策を推している。
 しかし役立ちそうなアイデアは、化石燃料――石油、天然ガス、そして特に石炭――の従来の生産者に対する大型助成のおかげで、影が薄い。そう言った意味で、法案は全く間違った方向に向かっている。既に潤沢な投資資本を持っている産業をさらに金持ちにする一方で、石油依存率の低いエネルギーの未来への道を開く新しいテクノロジーを奨励する手助けはあまりしていない。
 中東石油依存を緩和するために我が国がとることのできる最も重要なステップは、1985年以来変っていない燃費基準を厳しくすることである。しかし、3月に上院は労組と業界の圧力に屈し、13年間で50%の燃費向上イニシアティブを拒否した。これは、技術的に可能であり、一日250万バレルの石油の節約になる。これは現在ペルシャ湾からの輸入量にほぼ相当する。
 

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AMT(Alternative Minimum Tax):代替ミニマム・タックス。納税者が税法上の恩恵を巧みに利用し、必要以上にその恩恵を享受することにより税額を軽減することを規制する制度。納税者は通常税額と、別の方法で計算した税額と差額を通常の税額に追加して納税しなければならない。







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