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4 ブッシュ政権のエネルギー政策
 
 ブッシュ政権はエネルギーを政策の柱のひとつとしている。ブッシュ大統領が就任した際にまず行ったことの一つに、米国エネルギー政策グループの組織がある。このハイレベルのグループは政権誕生2週間目にチェイニー副大統領を会長として組織された。2001年5月、米国エネルギー政策開発グループは米国エネルギー政策報告書を発表した。これは、米国の長期的エネルギー要件に対処するための行政府の青写真となるものである。本章ではまず同報告書の提言を概説し、その後、議会に提出された主要なエネルギー法案の要約を列挙する。さらに、新エネルギー政策に対する議会、及び各界の反応を概説する。
 
4-1 ブッシュ大統領のエネルギー政策
 
 クリントン前政権が省エネ対策によりエネルギー需要の成長を抑制することに力を入れていたのに対し、ブッシュ政権のエネルギー政策は新たな供給源を確保する必要性を強調しているというのが一般的な見方である。しかし推進派は、新エネルギー政策が長期的なエネルギー問題に対処するためのバランスのとれた現実的な青写真を提供していると考えている。
 2001年5月の演説で、ブッシュ大統領は新エネルギー計画の3つの柱を次のように要約した。
 
 本計画は、需要、供給、需給均衡手段のエネルギー方程式の3つの主要な側面に対処するものである。第一に、米国がエネルギー効率向上と省エネの世界のリーダーとなるような技術革新を促進することにより、需要を抑制する。第二に、米国の全エネルギー源―安全でクリーンな原子力はもちろん、石油、ガス、クリーン石炭、太陽熱、風力、バイオマス、水力、その他の再生可能エネルギー源―の供給源を拡大し、多様化する。第三に、本計画は発電所と家庭のコンセントを結ぶパイプや電線のネットワークを近代化することにより、生産者と消費者を結び付けるのである。
 
 計画そのものは170ページの報告書であり、ブッシュ大統領によれば、「豊富で信頼性があり、クリーンで手ごろな価格のエネルギーを通して、明るい未来への道を照らす」100以上の提案からなる。そのうち重要性の高いものを(1)エネルギー供給増(2)省エネ、(3)環境改善、(4)エネルギー安全保障、(5)エネルギー問題についての国際協力強化、に役立つものに分類して概説する。
 
エネルギー供給増
・ 北極国立野生生物保護区(ANWR)の石油、ガス資源の探鉱、開発を承認し、リース権売却益を代替及び再生可能なエネルギー源の研究資金にあてる。
・ 米国石油埋蔵区(NPRA)内の、リース権売却を促進すること、また埋蔵区の北東部内の現在リースされていない鉱区も売却に含めることによりアラスカの石油・ガス資源の開発を拡大する。
・ トランス・アトランティック・パイプライン・システム14の地役権を更新し、アラスカ産石油の米国西海岸への安定した輸送を確保する。
 
出典:USCG
 
・ アラスカから本土48州への天然ガス輸送パイプラインの建設を加速する。
・ フロンティア海域や、大深度ガス層でのオフショア生産に対する鉱区使用料の減免、また、鉱区使用料を支払ったのでは採算のとれない小規模の油・ガス田に対する使用料減免。
・ テクノロジーを利用して既存の油・ガス井からの採取率を高めることを奨励する。
・ 石油・ガス探鉱技術向上に向けての官民パートナーシップの継続
・ 政府が石油・ガス鉱区をリースするにあたっての障害を排除するために、公有地の使用中止、リース条件を修正する。
・ 競争を制限し、回復可能なエネルギーの使用を妨げているとされる公益事業所有企業法及び公益事業規制政策法に代る法律の立法
 
・ 連邦エネルギー規制委員会の法律上の権限を行使し、配電・ガス施設の競争を促進し、投資を奨励する。
・ 「ブティック」燃料15の配送インフラストラクチャーの柔軟性を高め、このような燃料の互換性を向上させ、ガソリン市場の流動性を高める。
・ 今後10年間に20億ドルをクリーン石炭技術研究に投資する。
・ 新たな先進技術原子炉の許認可を加速し、既存の原子力発電所のアップグレードを奨励し、核燃料廃棄物の地下収納施設を確立し、最終的な原子力発電所の退役に税制上の奨励措置を提供することにより、米国における原子力エネルギーの拡大を支援する。
・ 水素、燃料電池、分散型エネルギー16の研究開発に関与している既存のプログラムを統合する。
・ 送電の信頼性と超伝導性に関するエネルギー省の研究開発プログラムを拡大する。
・ 再生可能エネルギー研究開発の支援強化と、長期的拡大プログラムの開発のための予算を2002会計年度に3,920万ドル増額する。
 
(拡大画面:44KB)
出典:エネルギー省
 
・ 全米送電系統網を確立し、送電上の隘路を除去し、送電線に天然ガスパイプラインと同様の地役権を獲得する権限を認める法を成立させる。
・ 水力発電の許認可にかかる時間と経費を軽減する。
・ 新しい埋立地メタン・プロジェクトや、風力、バイオマス発電に税額控除を認める。
・ 住宅用太陽エネルギーに2,000ドルを上限とする税額控除を認める。
・ エタノールの消費税免除措置を継続する。
 
・ 地熱発電用地リース17の許認可審査過程を迅速化する。
・ 全連邦政府機関に対し、決断や行動にあたって、エネルギーの供給、配送、利用に与える影響を考慮することを義務づける。
・ 全連邦政府機関に対して、エネルギー関連プロジェクトの承認に必要な許認可等を迅速化するよう指導する。
 
省エネ対策
・ パフオーマンス・ベースのエネルギー効率研究開発のための官民パートナーシップ・プログラムに出資する。
・ 技術的にフィージブルであり、経済的に正当化できる場合には、基準を引き上げることにより、電機製品のエネルギー効率を向上させる。
・ エネルギー効率を高めるためのコジェネレーション・プロジェクト18への投資に税額免除または減価償却上の恩恵を認める。
・ 「健全な科学(sound science)」に基づき、米国の自動車産業に不利な影響を及ぼすことなく施行することのできる企業平均燃費基準19を制定する。
・ 新しい自動車の全国平均燃費を上げるようなその他の市場べースのアプローチを検討する。
・ 新しいハイブリッド燃料電池車を2002年から2007年の間に購入した場合に、一時的に効率ベースの所得税税額免除を認める。
・ 移動に関連する燃料消費を低減する知的輸送システムの開発に投資する。
・ 州際高速道路のトラック停車場に充電、補助発電ユニットを設置するなどの対策を取ることにより、長距離トラックの停車中のアイドリングによる排気と燃料消費を減らす。
 

14
Trans Atlantic Pipeline:1968年にアラスカ・ノース・スロープ(ANS)のPrudhoe湾で発見された石油をプリンス・ウィリアム湾のバルデズまで輸送するために1977年に開通された全長800マイル(1,287km)のパイプライン。石油はバルデズからタンカーで西海岸に輸送される。
15
BoutiqueFuel:ブティック燃料。大気汚染防止法(The Clean Air Act)により、低公害ガソリン(refomulated gasoline)プログラムが導入された。大気汚染が最も深刻な10の大都市地域は低公害ガソリンの使用が義務づけられた。一方、大気汚染防止法は全国大気基準を達成するために、州に独自の燃料規制を実施することを認めている。その結果、義務づけられた低公害ガソリンの成分は州ごとにまちまちとなっている。この低公害ガソリン成分要件は「ブティック燃料」と呼ばれる。州ことに要件が異なることから、特にエネルギー供給に混乱が発生したような場合に、燃料配送システムにおける柔軟性が損なわれることが懸念されている。
16
Distributed Energy Resources:分散型エネルギー。小型のモジュラー発電テクノロジーを、エネルギー管理、貯蔵技術と組み合わせることにより、配電システムのオペレーションを向上させるシステム。
17
国有地管理局(Bureau of Land Management)が公有地を地熱探鉱・開発用にリースし、地熱開発の監督を行う。公有地における地熱利用の大部分はカリフォルニア州とネバダ州に集中している。
18
Ccmbined Heat and Power(CHP):発電時の排熱を利用する電気と熱の共生成。
19
Corporate Average Fuel Economy standard:1975年のエネルギー政策・保存法により、乗用車と軽トラックメーカーは企業平均燃費基準に適合することを義務づけられている。企業平均燃費基準は、メーカー毎に全車ベースで適用される。つまり、あるメーカーが基準に適合するためには同社が製造する乗用車すべての平均燃費が少なくとも27.5mpg(11.6km/l)でなければならない。







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