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3 米国におけるエネルギー開発のトレンド
 
 米国における石油及びガス生産は成熟産業となり、減少する生産量を維持するために年々困難な事業に挑戦している。生産量を維持するために、石油ガス企業は、かつては経済的または物理的に不可能と考えられていた地域/海域で探鉱、開発を行う必要が生じている。そのため、石油、天然ガス生産において多くの技術革新が実現した。特に、オフショア油ガス田における資源の発見、開発の技術の導入にはめざましいものがある。また、業界はこれまで開発が禁じられていた地域の新たな油田開発にも関心を示し、論議を呼んでいる。同時に、米国の石油精製事業は環境法の影響を受け、また輸入の停止による石油危機の脅威から戦略的石油備蓄に改めて関心が集まっている。
 
3-1 国内原油生産
 
 米国の石油生産の歴史は、ペンシルバニア州のTitusville井が石油の生産を開始した1859年にさかのぼる。スタンダード石油会社時代はこの油井から始まった。同社はシャーマン反トラスト法が成立し、石油カルテルが解体されるまで、長年にわたり石油生産を独占したのである。エネルギー源としての石油利用の成長は比較的緩やかであったが、1920年代に自動車が導入されると、飛躍的に重要性が増した。1952年には、エネルギー源としての石油生産は石炭を上回った。しかし、石油はやがて枯渇する天然資源であり、Titusvilleで初油が生産されて以来143年、ペンシルバニア州の油井はほとんど枯れ、米国の陸上油田の生産量はこのところ減少傾向をたどっている。米国本土(テキサス、オクラホマ、ルイジアナ、カリフォルニア州)の産出量は1970年に頂点に達し、アラスカの産出量は1988年に天井を打った。メキシコ湾の産出量のみが増加しているのは、ひとえに浮体式生産システムを利用し、大水深における生産が可能になった結果である。
 長年のうちに、米国の地中から石油を生産することは非常に困難なことになってきた。油井あたりの生産日量で示される油井の生産性は、1970年代始め以来低下の一途をたどっている。1972年に米国の平均的油井は日量18.7バレルを産出していた。2000年には、この数字は日量10.9バレルまで低下している。埋蔵量は枯渇し続けており、この傾向は今後も継続するだろう。
 
米国の原油生産の長期的傾向
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出典:エネルギー省
 
米国原油産出量の生産性の推移
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出典:米国エネルギー省
 
 最も顕著な最近の傾向は、メキシコ湾の沖合の大水深油田へ向かう動きである。鉱物管理局によれば、大水深(水深1,000フィート、約305m以上)油田からの生産は1991年にはメキシコ湾油田生産全体の8%、1996年には20%であったが、現在は60%近くを占めている。大水深域での生産拡大は今後も継続し、最終的には浅水深域での生産がメキシコ湾全体の生産に占める割合が減少すると考えられている。大水深油田では着底式プラットフォームによる生産は不可能であり、浮体式生産システムまたはサブシー(海底)開発が必要とされる。
 現在メキシコ湾に設置され、稼動している浮体式生産施設はフルサイズのTLP(テンション・レグ・プラットフォーム)7基、ミニTLP4基、生産スパー5基の合計16基である。これらの生産システムのうち2基を除いて全てが、過去6年間に油田に設置されたものである。シェル社は最大数の稼働中浮体式生産システム(TLP5基)を所有しており、生産能力も最も大きい。シェルのユニットの処理プラントはメキシコ湾で現在使用できる石油処理能力の50%を占める。シェブロン・テキサコとエクソン・モービルがそれぞれ11%でこれに続く。
 
現在メキシコ湾で生産中の浮体式生産施設の特性
  処理能力
油田名 地域 種類 設置年 水深(m) 石油 ガス
Agip
Allegheny GC254 Mini-TLP 1999 990 25,000b/d 45MMcf/d
Morpeth EW921 Mini-TLP 1998 520 35,000b/d 36MMcf/d
BP
Marlin VK915 TLP 1999 990 40,000b/d 250MMcf/d
Chevron
Typhoon GC236 Mini-TLP 2001 640 40,000b/d 60MMcf/d
Genesis GC205 Spar 1998 790 60,000b/d 77MMcf/d
Conoco
Jolliet GC184 TLP 1989 540 35,000b/d 50MMc/d
El Paso
Prince EW958 Mini-TLP 2001 440 50,000b/d 80MMc/d
ExxonMobil
Hoover/Diana AC25 Spar 2000 1460 100,000b/d 325MMcf/d
Kerr McGee
Nansen EB602 Spar 2002 1130 40,000b/d 200MMcf/d
Boomvang EB642 Spar 2002 1050 32,000b/d 160MMcf/d
Oryx
Neptune VK825 Spar 1997 590 25,000b/d 32MMcf/d
Shell
Brutus GC158 TLP 2001 910 100,000b/d 300MMcf/d
Ursa MC810 TLP 1999 1160 150,000b/d 400MMcf/d
Ram Powell VK956 TLP 1997 990 60,000b/d 200MMcf/d
Mars MC807 TLP 1996 890 100,000b/d 110MMcf/d
Auger GB426 TLP 1994 870 46,000b/d 125MMcf/d
出典: IMA浮体式生産報告書
 
 さらに12基の浮体式生産システムがメキシコ湾向けに発注されている。その内訳は生産セミ3基、ミニTLP2基、生産スパー7基である。これらのうち1基は2002年に、6基は2003年、4基が2004年、1基が2005年に設置を予定されている。これらがすべて稼動すれば、メキシコ湾の浮体式生産施設の石油処理能力は2倍以上になる。
 
発注済みのメキシコ湾向け 浮体式生産システムの特性
  処理能力
油田名 地域 種類 設置年 水深(m) 石油 ガス
Anadarko
Marco Polo GC608 Mini-TLP 2003 1315 100,000b/d 250MMcf/d
BP
Thunder Horse MC778 Semi 2005 1830 250,000b/d 200MMcf/d
Horn Mt. MC127 Spar 2002 1645 65,000b/d 50MMcf/d
Holstein GC644 Spar 2004 1320 80,000b/d 40MMcf/d
Mad Dog GC826 Spar 2004 2010 80,000b/d 40MMcf/d
Atlantis GC699 Semi 2004 1830 150,000b/d 180MMcf/d
Dominion
Devil's Tower MC773 Spar 2003 1735 60,000b/d 40MMcf/d
Kerr McGee
Gunnison GB668 Spar 2003 950 40,000b/d 200MMcf/d
Shell
NaKika MC474 Semi 2003 1920 100,000b/d 325MMcf/d
Murphy
Medusa MC582 Spar 2003 675 40,000b/d 110MMcf/d
Front Runner GC338 Spar 2004 1000 60,000b/d 110MMcf/d
TotalFinaElf
Matterhorn MC243 Mini-TLP 2003 850 33,000b/d 55MMcf/d
出典: IMA浮体式生産報告書
 
 浮体式生産に代る方法としては、石油またはガス生産施設を海底に設置し、そこからパイプラインを浅水深域の生産プラットフォームと結ぶ方法がある。鉱物管理局によれば、現在メキシコ湾には218の海底油ガス井が存在する。これらのうち82井は1,000フィート(約305m)を超える海域に位置する。
 
メキシコ湾における海底坑井仕上げ数
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出典: 鉱物管理局
 
 アラスカ州では、最大の問題は北極国立野生動物保護区(ANWR;Arctic National Wildlife Refuge)における石油開発解禁問題である。ANWRのコースタル・プレイン地域は過去25年間アラスカの石油生産の源であったPrudhoe地域の生産性の高い鉱脈に沿っている。ANWRは米国最大の未開発の、高い生産性の可能性を秘めた陸上盆なのである。
 
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出典: エネルギー省
 
 地質学者によれば、ANWRに少なくとも57億バレル(7億6,950万石油換算トン)の石油可採埋蔵量が存在する確率は95%であり、160億バレル(21億6,000万石油換算トン)の可採埋蔵量が存在する確率が5%である。これに対して、米国全体(ANWRを除く)の石油確認埋蔵量は230億バレル(31億500万石油換算トン)と推定されている。ANWRでの石油生産が解禁されれば、国内埋蔵量は25%〜70%増加することになる。エネルギー省が使用している石油予測価格は1バレルあたり22ドルであり、ANWR石油生産から得られる収入は1998年時点でドルに換算して1,250〜3,500億ドルとなる。
 しかし、ANWR石油開発解禁には環境保護団体が猛反対しており、行政府と議会のあいだで政策上大きな軋轢が発生している。これについては第4章で詳説する。







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