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【3】今後の見通し
 シンガポールの海事産業は、中国、中東地域の造船会社に代表される低コストで勝負する造船会社との価格面での競争に直面している。中国に対しては一般修繕と切替工事の分野で潜在的脅威であるとしている。中東地域の造船会社に対しては、シンガポールの主たる市場であるタンカー修繕において競争関係にある。
 このような厳しい環境の中で、シンガポールの造船会社はその競争力のある品質と納期厳守をセールスポイントとし、強みとしている。これらを生かした船舶修繕・改造及び特殊船建造などの市場開拓がシンガポールの船舶修繕の分野でのシェアを守る大きな要因となるとともに今後のかぎを握るとしている。
 しかしながらコスト競争力は、シンガポールの造船所において主要な関心であり、大手造船所はこの国の高い地価と人件費が高いこともあり、シンガポール国外への移設やジョイントベンチャー企業の設立などを通して対応せざるを得ない状況である。すなわち、船主の修繕費低減要求にこたえるため、付加価値が高く、より高度の技術を必要とする仕事をシンガポールの親会社で行い、ルーチンワークや一般修繕を近隣諸国で行っている。
 また、ASMI(シンガポール海事産業協会)のもと、業界が共同して、造船所における生産性向上およびコスト削減を目指した新しい手法、工程、技術の検討、導入を行ってきており、政府も生産性、安全性向上等に関する活動をしている。現在も多くの造船所の間で協力関係があり、さらに、会社ごとに個別の技術力の強化、アップを図っている。さらに、労働者の安全確保、技術向上を図るため、キャンペーン、トレーニング等を組み込んだ積極的な取り組みを行っており、成果をあげている。
 このような努力により、数社の大船主と造船会社間でパートナーシップを形成するなどシンガポールの造船所が短納期で複雑な修理仕事を処理する能力は、多くの船主の信頼を得ている。
 シンガポール造船業界は、原油の高値および海底油田開発の増加によるかなりの仕事量の増加を見込んでいる。2001年には船舶修繕・改造、新造船、オフショアの全部門で状況が好転し、原油価格の大幅な下落がないことを前提に、向こう数年間は比較的良好に推移するとしている。また、アジア太平洋地域の景気回復とシンガポールを先導的海事センターにしようとする政府の方針は、シンガポールの造船所にとって好材料となっている。
 船舶修繕・改造部門では2001年には状況が好転すると考えられる。LPG船、LNG船は従来日本で修繕を行っていたが、シンガポールが一定の技術力を保持し、日本と比較して低コストであるため、今後シンガポールでの修繕増が期待される。
 新造船部門でも特殊船分野を中心に、健全な受注状況であれば状況は好転するとともに、2001年及び2002年の引渡し量の増加が見込まれる。また、オフショアサプライ船の需要が高くなると見込んでいる。
 オフショア部門では埋蔵原油探査活動の増加が見込まれるため、これに対応し、より深い水域、より厳しい環境での作業を可能とするオフショア構造物の新造、高性能化の需要増が期待される。
 シンガポールの海事産業の特徴は、適応性、意欲および対応能力である。海事産業の適応性、戦略的位置、発達した支援産業により、世界の船舶修繕とオフショア構造物の代替市場でシンガポールは今後も大きなシェアを占めていくと思われる。
 強固な基盤と高品質な仕事の実績、機動的な対応を今後も維持できれば、特殊船を代表例とする、一定の技術力のもとスケールエフェクトがあまり効かないぎ装比率の高い船舶や、英語のハンデがなく安定した低金利等を生かした購入品の多い船舶等の分野を中心に、国内産業における造船業の存在意義を保持しつづけるとともに、今後も国際的にも一定の地位を確保できると思われる。
 
<シンガポール造船業界の水面下の動きについて>
造船3社が大合併?UBSの大胆予測(観測記事)
 シンガポールの3大造船所は1年内に合併し、時価総額24億Sドルという世界屈指の造船所が誕生する−投資銀行UBSウォーバーグの予測。3大造船所とは、ケッペル・フェルズ・エナジー&インフラストラクチャー(ケップフェルズ)、ケッペル日立造船、センブコープ・マリーン。
 シンガポールでは、97年にセンバワンとジュロン・シップヤードが合併してセンブコープ・マリーンが誕生。99年には、日立造船シンガポールとケッペル・シップヤードがケッペル日立造船を設立するなど、造船所の合併が進んだ。
 最近では特に中国や中東の追い上げが目覚ましく、シンガポール造船業界には危機感が広がっていた。
 超大型造船所を待ち望む声は多いものの、その実現は容易ではない。
 昨年末には、ケッペルとセンブコープ・インダストリーズが造船・船舶修理部門の合併について、非公式交渉を進めていることが明らかになったが、結局合意には至らなかった。
 最近になって、ケッペルのリム・チーオン会長が、ケップフェルズとケッペル日立造船が合併に向けて動き出していることを発表。UBSウォーバーグは、第1段階としてケップフェルズとケッペル日立造船が合併し、さらに第2段階としてセンブコープ・マリーンが加わると予測している。
 造船業界の長期的な展望は非常に明るいとみられている。今後、油田の掘削装置やタンカー、貨物船などが老朽化する上に、海上貨物輸送や海底掘削装置の利用が増えていくと考えられるため。
 現在、世界で使われているジャッキアップ式海底油田掘削装置の6割以上が、シンガポール製。
 UBSウォーバーグはまた、3大造船所は合併後、シンガポールだけでなく、中国やアゼルバイジャン、アラブ首長国連邦、ブラジルなどで幅広く事業を展開すると予測する。
 センブコープ・マリーンの全額出資子会社ジュロン・シップヤードとケップフェルズは既に先月、ブラジルで造船所の操業を開始した。ケップフェルズはブラジルのPEMセタル・グループと合弁企業フェルズ・セタルを設立し、造船所『ブラスフェルズ・ヤード』を運営。一方、ジュロン・シップヤードは、オマール・リセンデ・ペレス・フィルホと合弁で造船所『マウア・ジュロンSA』を運営している。
 国内最大の船舶修理業者であるセンブコープ・マリーンは2001年3月2日、PPLシップヤード(PPLS)の株式の50%を取得したことを明らかにした。
 PPLSは石油掘削装置や小型船舶を製造するほか鉄鋼組立を行う地場企業で、1997年の設立。先ごろ1億2,500万米ドル(2億2,500万Sドル)に上るジャッキアップ(甲板昇降)式石油掘削装置2基の建造を、米国のサンタフェ・インターナショナル・コープから受注している。
 センブコープ・マリーンのタン・クイキン社長は、PPLSの実績を評価したこと、また掘削装置事業参入への足がかりを得られることが出資決定の決め手になったと説明。船舶の建造・修理および沿海土木を行う自社との共通点にメリットを見い出したとしている。
 
《21 May 2001, Shipping Times, Singapore》







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