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4. 今後の課題/モデルの提案
 本事業では、「海」を通じたより広い学習の可能性について調査を進める中で、我々のような外部機関や企業・園館と学校との有機的な連携という当たり前のようなことが、今までいかに機能して来なかったかという現状にあらためて気づかされる結果となった。これは教員、園館や外部機関の職員などそれぞれに原因があり、個別に批判することは妥当ではない。むしろ総合的学習の時間の導入によって浮き彫りになった課題であり、これからいかにその有機的な連携の仕組みを構築するかが我々に突きつけられたテーマである。
 このような仕組みを考えるうえで我々は当面の課題として以下の3つを設定した。
 
(1) 有機的連携に不可欠な「良い人材」「良い教材」「良質な場」をいかに創造し、バランスさせ、また継続的な仕組みとして機能させうるか。
(2) 教科書にはない現実の様々な事象から学習テーマを見い出すための視点の投げかけと、それをサポートする学習機会の提供、その学習効果を評価する手法までを、学校と外部が協働で作る仕組みにはどのような方法が有効か。
(3) 一つの明確な理念・コンセプトを設定しこれに沿った学習展開のあり方は、私立公立や地域性など学校の属性によってどのような展開が可能なのか、またその問題点はどこにあるのか。
 
 以上の課題を踏まえ、今年度はこれをブレークスルーするための3つのモデルを作成した。
 
 一つ目のモデルは、教育の三要素と言われる「教材・ヒト・場」の向上を同時に体験することで、参加者自身が向上し、教材とネットワークというアウトプットが生まれる、「場≒機会」へのニーズの存在とその効果に関するOHP(Opportunity -Human -Product)モデルである(図「OHPモデル」付録参照)。このモデルでは以下のようなフローを表現した。
(1) :ワークショップ開催(同じ参加者が通年で参加)
:参加者同士、また情報配信を通じてのコミュニティー形成
(2) :ワークショップ形式でプログラムの創造を試みる
(3) :創造したプログラムの実践と検証
(4) :(3)の検証によって明らかとなった、反省点&改善点などのナレッジ化
(5) :(4)で形式知化されたナレッジをワークショップへフィードバック
 このフローを何度も繰り返すことによって、トライ&フィードバック&ビルドアップのスパイラルが形成されていく。
 具体的な例としては、学校教育現場で活躍する教員や環境教育などを学校に提供する者が集まる「場≒機会」を創り、その場を通して学校教育現場にとって有用な情報・資料・プログラムについて、またそれらの作成方法や運営手法について、議論・検討・協業できるワークショップ的な活動が考えられる。そのようなワークショップを重ねることで、そこから本当にユーザーの視点にたった活用価値のある教材やプログラムが創り出すことが理想的であろう。
 既に述べたように、実際に米国ではこれと似た手法を使い、広い対象の生徒へ科学教育を提供することに成功しており、現在の日本が参考にすべき点も多いこと。米国の事例の場合は、あくまでも目的を教材開発としているが、同時に関係者の経験値とネットワークが拡がるという効果もある。
 
 二つ目のモデルは、異なるユーザーが、それぞれの現状に応じた有用な情報源まで辿り着きやすくなるための、参考となるルートマップモデルである。調査から実用性のある情報源までの到達を促すルートマップの有用性が確認できたため、「教育現場と「海」をつなぐ資料(マップ)」として作成した。ユーザーの立場からみた有用な情報源は、往々にして表面的な情報ではなく、見つかり難いことがほとんどである。「海」のような広く漠然としたテーマは、具体的な学習テーマの選定とそこから期待できる学習効果までが見えづらいが、マップの完成により具体的な学習の展開が見えてくる効果が期待できる(図「ルートマップモデル」:付録参照)。
 
 三つ目のモデルは、コンセプト型プログラムモデルである。体験的なプログラムであっても教室内で取り組むプログラムであっても、それらに一貫したコンセプトが存在することが重要であり、これは教材などモノやコトを創る際に最も重要な部分であることが調査からも伺えた。そこでモデル校を選定し教員の方と共に、「海での学習を通して命の尊さを学ぶ」ことをコンセプトとした「教科書的な資料(プログラム)」を作成した(図「コンセプト型プログラムモデル」:付録参照)。
 
 本事業では今後、以上のモデルを基軸に、学校の教員、園館や外部機関関係者などを含めた実践モデルとしてその可能性と問題点を検証しつつ新しい共育のあり方を探るとともに、「海」に学ぶことで得られる多くの智慧を広く伝えられるような枠組みの実現を目指す取り組みを展開する予定である。







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