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3. まとめ/これからの学習支援のあり方
 平成13年度も含めた一連の調査の結果、総合的な学習の時間や、体験学習など新しい取り組みに対し、情熱とエネルギーを持って取り組んでいる教員や教育関係者の間では、一冊の体系化されたマニュアル本のような資料よりも、
 
教員や地域が連携でき共に教育環境を豊かにしていけるような研修的な機会や仕組み
地域や環境の異なる現場で実際に取り組んでいる事例などの情報が得られるようなネットワーク
またその代替えとなるような資料や適切な情報源
 
 等のニーズが存在し、これらは中長期的に見ても必要とされ、なおかつそれらは我々にこそ求められている取り組みであることが判明した。また、これらの背景には以下の要因が存在することも、明らかとなった。
 
外部機関の関わりには、その外部機関の背景に応じた傾向が存在する
外部機関との関わりには、立地条件など、地理的要因が大きく関係する
現状では、どうしても一時的な関わり方でしかできないのがほとんど
教員は、置かれた環境のなかで最善の学習活動を行うしかない
教員間での経験や知識の移行はされにくい=学校単位での進化は難しい
(教員個人に帰属するため)
 
 そして、今年度事業を通して出会うことの出来た方々とのやりとりの中から、13年度に増して、教育現場の現状についての理解と、今後の学校教育現場の周辺との連携について、考えが深まった。また、年度当初の想定を越えた、非常に具体的かつ本質的なニーズに出会うことができた。それらから、「海へつながる学内学習の充実」を図るうえで、
 
(1) 我々だけで「教科書的な資料(カリキュラム)」を作成するのではなく
(2) 様々な教育関係者が交流をしながら協業する機会を提供することが最も効果的であり
(3) またそれらは、我々ならではの取り組みとして展開する価値がある
 
 との考えに至った。しかし、結論で述べたような支援や取り組みはまだほとんどなされておらず、特に連続的な機会や仕組み、ネットワークはほとんど整備されていない。また、されていたとしても、実用的なものではない。
 
−総合的な学習の時間を活用した、単位時間当たり学習効果の向上−
 多様な関係者の集まる機会においては、教科学習との関係性をもっと深める仕組みに対する支援もとても重要である。現に、世論の中では総合的な学習の時間など、「ゆとり学習」から派生した取り組みに対する批判もある。しかし今年から本格導入される高校での総合的な学習の時間の導入を前に、試験的に導入していた高校では、高校生の職業観が具体化し、進学のためのモチベーションが向上し、その結果学校全体の進学率や学力が向上した事例も多く報告されている。
 学力低下が進むなか、総合的な学習の時間が導入されたことで教科学習の時間数が減り、余計学力が低下するのではないかとの心配も理解できる。しかし、総合的な学習の時間などを通して、広い社会性と視野を持つことで、自分の人生における学習の意味とモチベーションを得ることが可能となり、今までに比べて単位時間当たりの学習効果が上がるのではないだろうか。高校での事例はそれを表している。
 
 世論は大人の目で、大人の感覚のみで批判してしまう。子供の視点、ユーザーの立場で考えることも重要なのではないだろうか。何のための学習か、学習の目的や意義、また必要性を理解・納得できないまま机に向かうのと、自分の中で明確な将来観や社会観を持って取り組むのでは、同じ時間でも効果が異なるのは当然ではないだろうか。大人の組織における人事政策では「モチベーション」が注目されるにも関わらず、子供の教育にはその議論がされていなかったのではないだろうか。
 
 今回の事業の中でも、「ユーザーの視点」、「ユーザー参加型」といった要素の重要性が多く挙げられた。教育におけるエンドユーザー<真のユーザー>とは、学校でも教員でも保護者でもなく、児童・生徒である。教員や学芸員や研究者など様々な教育関係者が交流をしながら協業すること自体が、その場に参加する各人の能力向上にもつながり、またそこから新たなナレッジネットワークの構築にもつながる。そして、そのナレッジネットワークの恩恵は、エンドユーザーである子供達へと与えられるものでなくてはならない。
 
−外部の機関ならではの取り組みを提供する−
 外部の機関が、より高い効果を目指して学校教育の場で始まった新しい取り組みに支援・参加しようとするのであれば、その機関もまた新しい体制や価値観を携えて、取り組まなくてはならない。そして学校現場の現状をよく理解し、より効果的な関係を模索し、構築する努力が必要である。また、そのためには時間が掛かることを覚悟する必要がある。
 教育の全てを学校・教員に押し付けるのではなく、共に考える・手を動かす機会を提供するなど、これまでとは異なる支援の仕方、関係の在り方を考える時期にいるのではないだろうか。特に教育現場と連携した形での海洋教育を展開するのであれば、従来までの一方向的・一時的な関係を改め、中長期にわたる関係の構築を目指すことからはじめなくてはならない。
 先述したように、「教科学習の効果向上のため」、「総合的な学習の時間のため」、「体験学習のため」、「教科学習と総合的な学習の時間や体験学習との相乗効果のため」、取り組む内容や目的は本当に様々である。外部の機関は広い視野と深い洞察力で、本当に必要とされている、そして外部機関ならではの取り組みを見つけることから始めなくてはならない。
 
 環境との共生を目指す時に、我々は従来の行動を反省し、新しい行動様式を導入しようとする。海についての情報・知識を教えるのではなく、我々人類がいかに海と関わり合いながら生きているのか、その知恵を伝えることが重要なのであれば、そのパートナーとなる教員や学芸員、また研究者といった人々が、共に育ち合う環境を創造することが急務なのではないか。
 本事業を通じ、より豊かな教育環境の創造へ向けた取り組みが求められている現在、我々のような外部機関の姿勢も「教育」から『共育』へと進化させる必要があると確信した次第である。







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