日本財団 図書館


2−3. 外部機関のヒアリングと関連イベントへの参加
 本事業では学校を取り巻く周辺機関についても焦点を当て、特に「海」に限定することなく、ヒアリングを中心にその現状を調査した。
 
 環境教育に限らず、教育事業を実践している10機関(公益団体3箇所、企業3箇所、博物館4箇所)を選定しヒアリングを行った。また、今年度は環境教育に関わる人が集まり、現状や課題、将来を議論するような研究会やシンポジウムなどにも4箇所参加した。
 ヒアリングでは、本事業をより実践的なものにするためにも、他の機関が抱いている教育事業に対する思い・現状・課題などに重点を置き具体的な話しを聞いた。また、特に総合的な学習の時間との関わりを意識し、学校との連携に関して細かく聞いた。
 
表−1 ヒアリング先一覧
分類 名称 主な取り組み
研究会 
シンポジウム
等   
環境教育フォーラム清里ミーティング 環境教育に携わる人々の情報交換の場
エコツーリズム国際大会 エコツーリズムの意義と課題を考える
シンポジウム「市民の環境ガバナンスと環境教育」 大学で環境教育を担う人材を育成することについて
日本動物園水族館協会教育推進事業ワークショップ 動物園水族館と学校の連携を推進するためのWS
公益団体   青少年野外活動振興財団 野外でのキャンプなど体験活動のガイド
北海道環境財団 環境団体への情報提供
社団法人日本ネイチャーゲーム協会 ネイチャーゲームの普及
企業   NatureWorks 地元の海岸などのガイド
NAC アドベンチャーツアーのガイド
WillSeed 体験型トレーディングゲームでの人材育成
博物館   千歳市サケのふるさと館 サケにテーマを絞った水族館
旭川市旭山動物園 日本最北端の動物園
滋賀県立琵琶湖博物館 琵琶湖をテーマとした総合博物館
のと海洋ふれあいセンター ビジターセンター
 
 ヒアリングとイベントへの参加の結果を基に、各機関のキーワードと特徴をまとめたものが表−2である。各機関ともに多様な事業展開を行っているが、特にヒアリング中に特徴的だった事象をキーワードとして列挙した。研究会やフォーラムなどの催しでは事業者間で情報交換が行われ、現状や課題など多くの情報を得ることができた。しかし、その場に実際の教育やサービスを受けるエンドユーザー側の参加が少なかった点は残念であり、このような参加者が多く参加することで議論の幅がさらに広がるように感じられた。
 フィールドでの体験活動や教材・マニュアル、施設を利用した体験学習メニュー、出張授業・講師派遣などについては、予想以上に様々な形態でモノ・コト・ヒトが提供されている印象である。これは実際に教育事業を積極的に行っている機関を選んでヒアリングを行っているので当然の結果といえるが、その中における取り組み方の違いは調査結果に見ることができる。例えば学校との連携を見た場合、教員との協働作業を進めたり、内部に教員を配置するなど積極的に学校との連携を展開している博物館がある一方で、決まったメニューに基づいて実施するケースもあり、教育事業へ対する取り組み方の差が顕著に感じられた。
 
表−2 各団体のキーワードと特徴
  キーワード  提供しているもの   意識
  モノ コト ヒト 学校連携 ユーザ
環境教育フォーラム清里ミーティング 利害調整の難しさ   意見交換      
エコツーリズム国際大会 実施者の情報交換ネットワーク   意見交換 ワークショップ      
シンポウム「市民の環境ガバナンスと環境教育」 環境教育を担う人材育成          
日本動物園水族館協会教育推進事業ワークショップ 博物館と教員の共同作業   人材育成とワークショップ   教員との協働ワークショップ 教員との協働ワークショップ
青少年野外活動振興財団 超現場型財団   体験活動 インタープリターガイド    
北海道環境財団 情報提供   セミナー ワークショップ      
社団法人日本ネイチャーゲーム協会 コンテンツプロバイダ 教材マニュアル等 指導者の養成 ファシリテーター    
NatureWorks 環境教育と地域の自立   体験活勧 講師    
NAC 持続的アドベンチャー   アドベンチャー体験学習 講師    
WillSeed 動機付けの重要性     講師 外部講師  
千歳市サケのふるさと館 素材の持つ魅力と可能性 施設自体        
旭川市旭山動物園 職員のモチベーション 施設自体 出張授業 講師 外部講師 教育大出身の職員・指導計画
琵琶湖博物館 学校を意識した企画運営 施設自体 体験メニュー コーディネーター コーディネート 外部講師 内部に教員がいる
のと海洋ふれあいセンター ビジターセンターの取り組み 施設自体        
柏崎市比角小学校 地域ぐるみの教育風土作り          
草津市常盤小学校 地域の博物館との連携          
 
 一方、学校側に目を向けてみると、教育に真剣に取り組んでいる学校現場のニーズの根底とその背景を理解するためには、学校周辺に対する理解を我々自身が深める必要があることを改めて実感させられた。まず前述したように、教員は一般に思われているよりも相当忙しいという現実を認識すべきである。このことは学校に対して何か提供しようとするとき、第一に考慮しなくてはならない問題と言える。この他に学校には実に多くの外部機関から様々な情報が送られてくるという事実も忘れてはならない。情報は活用できてこそはじめて有用であり、溢れる情報の中に埋もれてしまっては意味がない。つまり情報のオン・ディマンドというニーズは学校の現場でも同様であり、必要な時に適切なモノ・ヒト・コトにアクセスできる仕組みを求める学校関係者の声は多い。
 これまで学校は社会との接点が少なかったうえ、他の学校の教員間との接点も少なかった。また、公立校などでは人事異動があるがゆえのメリットとデメリットが存在する。つまり、よほど教員間でナレッジを共有しようと取り組まない限り、経験や知識、ネットワークは個人の教員に属してしまい、学校単位での進化には繋がり難い。逆に言えば、それを持つ教員の異動によって、ノウハウを持っていなかった学校へ注入される面もある。このような背景もあり、一時的には外部からのマニュアルやカリキュラムの使用頻度が高くなっているのではないだろうか。
 
 図−1:事業領域マップは、ヒアリングを行った各機関を、その機関が実施している学校への支援事業を元に、事業形態(講師を派遣する⇔教員を育成する)と場所(教室外⇔教室内)の2軸により分類しプロットしたものである。例えば、博物館の職員が学校へ出向き出張授業を行うという事業は、教室内への講師の派遣であり、第III象限に属する。また、ビジターセンターによる海浜教室の受け入れは、教室外での教師のサポートであり、第II象限に属する。黒丸は平成14年度に訪問したヒアリング先、白丸は平成13年度に訪問したヒアリング先を表す。各機関の事業領域は多岐に及び、本来は領域として示されるべきであろうが、見やすくするためにその領域の中心付近に各機関をプロットした。
 
図−1 事業領域マップ(形態−場所)
 
 教室外での取り組み(第I象限、第II象限)は、野外フィールドでの体験活動などを自前のガイドによって行うプログラム、博物館という教材そのものを利用してガイドを行うプログラム、フィールドで使うことのできる教材を提供し、その使用方法をレクチャーするようなものまで幅広く存在していた。また、第III象限に属するような出張授業などもよく実施されていた。
 しかし、第IV象限:教室内での教員の活動を育成・サポートするものは存在しなかった。この象限は教員の仕事そのものを示すものであり、本来なら外部からのサポートは不要な領域である。しかし、高度情報化が進み、教育に求められるものは非常に多様化しているため、教員だけでは消化しきれない部分も出てきているはずである。例えば、博物館に見学に行く場合でも、単に見学をしてそれでおしまいではなく、その事前・事後の教室内でできる学習まで含めたトータルな指導計画が必要である。その中で、外部団体が果たすことのできる役割は大きいであろう。教科教育と日常生活を繋ぐようなテーマの提案や情報提供も可能かもしれない。いま外部機関に求められるのは、打ち上げ花火的なイベント事業ではなく、学校ともっと密に連携していく地道な取り組みが必要だと言えるだろう。
 この領域に対するニーズは教員側からも出てきている。それに対応して、教育委員会も最近は様々な教員改革に向けた研修を整備している。しかし、民間企業は、継続性や内容面と予算との折り合いがつきにくく、特に公立校向けの取り組みは一時的な教職員研修としての関わり以外は難しいのが現状である。園館は、園館での教育活動や園館と連動した教育活動の充実化には積極的だが、学内学習は教員の領域と捉えている傾向にあるようだ。NPOなども実践的かつ専門的なプログラム提供が可能であっても、やはり教室内での学習に関しては教員の領域としている。
 外部機関は、なんらかの専門性・専門分野を持っているのが通常であり、学校がその専門性を必要とする際に接点が生まれる。そして、そのほとんどは学外での取り組みである。今回の調査で見られた教室内での取り組みは起業家育成をテーマに、外部の講師が実施するプログラムである。教室内での教員による教育活動をより豊かなものにするための支援や取り組みは、今回調査した限りでは空白領域である。
 学校の教育現場へ参加している機関から提供されているサービスの内容に立ち返って見てみると、それらは「総合的な学習の時間」という時間・授業に対して提供されているものであり、個々の教員をも巻き込んだ全体のスキルアップを促すためのサービスではない。いわば教員の代替えとしてのサービスである。もちろん、従来では考えられなかった外部の組織や個人の学校教育現場への参加により、教員自身への刺激や向上につながる経験は多く存在し、彼等もそれを充分認識している。様々な組織や人が学校教育現場に介入することは、それだけ豊富な社会性や多様性が存在するという点からも重要なことである。ただし教員と外部機関との関係は、外部機関を単に利用するだけといった依存形態ではなく、教育関係者自らもスキルや能力の向上をともに考えてゆくような、教員・外部機関が互いに成長する仕組みを構築して行くことが必要と言えよう。このためには、それぞれ価値観の異なる教員と外部機関とを橋渡しするコーディネーターの存在が非常に重要となってくる。現状ではこのようなコーディネーターの存在は稀であるが、こうした仕組みを持つ機関では学校と外部機関の協働作業がスムーズに進んでいるのも事実であり、このような仕組み作りは教材やプログラム云々以前に検討すべき重要課題と言える。
 いずれにせよ、いま教育に携わる個人の進化を促す機会や仕組み、ネットワーク、適切な情報源へのニーズが、教員の中から生まれているのは事実である。そしてこの現象は非常に健全であり、かつ必要なことだと考える。







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