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3. それぞれの問題の処理主体と処理の法的権限
3.1 事業所からの排水処理
(1)個別排出規制
 排水基準は、排出水の汚染状態について、環境省令で定められる(汚濁法3条)7。都道府県は条例によって環境省令の上乗せ基準を定めることができる(3条3項)。
 
(2)総量規制
 個別の事業所からの排水を一定の基準以下に抑えるだけでは、排水が集中する地域における水質の保全を図ることは困難になる。閉鎖性水域においてその傾向は顕著となる。このような事態に対処するための制度として、総量規制制度がある。総量規制は以下のような制度である。
i)総量削減基本方針
 環境大臣は総量削減基本方針を定める。総量削減基本方針は、指定地域8ごとに、指定項目で表示した汚濁負荷量の総量の削減に関して定めるものである。
ii)基本方針における削減目標
 総量削減基本方針においては、削減の目標、目標年度その他汚濁負荷量の総量の削減に関する基本的な事項を定める。この場合において、削減の目標に関しては、当該指定水域について、当該指定項目に係る水質環境基準を確保することを目途とし、当該指定水域に流入する水の汚濁負荷量の総量が、目標年度において、当該指定地域における人口及び産業の動向、汚水又は廃液の処理の技術の水準、下水道の整備の見通し等を勘案し、実施可能な限度において削減を図ることとした場合における総量となるように、当該指定地域において公共用水域に排出される水の汚濁負荷量についての発生源別及び都道府県別の削減目標量を定めるものとする。
 
7 平成一三年 六月一三日号外環境省令第二一号。
 排水基準は、有害物質による排出水の汚染状態については、別表第一で、有害物質の種類ごとに許容限度が定められ、その他の排出水の汚染状態については、別表第二に定められる。別表第一で定められる有害物質は、カドミュウムおよびその化合物、シアン化合物、有機燐化合物(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメメトン及びEPNに限る)、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、砒素及びその化合物、水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物、アルキル水銀化合物、ポリ塩化ビフェニル、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、一・二・ジクロロエチレン、一・一ジクロロエチレン、シス−一・二ジクロロエチレン、一・一・一・トリクロロエタン、一・一・二・トリクロロエタン、一・三−ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオペンカルプ、ベンゼン、セレン及びその化合物、ホウ素及びその化合物、フッ素及びその化合物、アンモニア、アンモニュウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物である。許容限度はカドミュウム及びその化合物で言えば、1リットルにつきカドミュウム0.1ミリグラムというように定められている。
 別表二は、水素イオン濃度(水素指数)、海域以外の公共用水域に排出されるもの5.8以上8.6以下、海域に排出されるもの5.0以上9.0以下、生物化学的酸素要求量(単位:1リットルにつきミリグラム)160(日間平均120)、化学的酸素要求量(単位:1リットルにつきミリグラム)160(日間平均120)、浮遊物質量(単位:1リットルにつきミリグラム)200(日間平均150)、ノルマルヘキサン抽出物質含5と定められている。
8 人口及び産業の集中等により、生活又は事業活動に伴い排出された水が大量に流入する広域の公共用水域(ほとんど陸岸で囲まれている海域に限る)であり、かつ、排水基準のみによっては水質の汚濁に係る水質環境基準の確保が困難であると認められる水域であって、化学的酸素要求量その他の政令で定める指定項目ごとに、政令で定める指定水域において、指定項目に係る水質の汚濁の防止を図るため、指定水域の水質の汚濁に関係のある地域として指定水域ごとに政令で定める地域
 
iii)水域等の指定手続
 環境大臣は、水域を定める政令又は地域を定める政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県知事の意見を聴かなければならない。
 環境大臣は、総量削減基本方針を定め、又は変更しようとするときは、関係都道府県知事の意見を聴くとともに、公害対策会議の議を経なければならない。
 環境大臣は、総量削減基本方針を定め、又は変更したときは、これを関係都道府県知事に通知するものとする(4条の2)。
iv)総量削減計画の策定と手続
 都道府県知事は、指定地域にあっては、総量削減基本方針に基づき、前条第二項第三号の削減目標量を達成するための計画(「総量削減計画」)を定めなければならない。
 総量削減計画においては、(ア)発生源別の汚濁負荷量の削減目標量、(イ)その削減目標量の達成の方途、(ウ)その他汚濁負荷量の総量の削減に関し必要な事項を定める(4条の3)。
 都道府県知事は、総量削減計画を定めようとするときは、関係市町村長の意見を聴くとともに、環境大臣に協議し、その同意を得なければならない。環境大臣は、前項の同意をしようとするときは、公害対策会議の議を経なければならない。都道府県知事は、総量削減計画を定めたときは、その内容を公告しなければならない(4条の3)。
v)国および地方公共団体の努力義務
 国及び地方公共団体は、総量削減計画の達成に必要な措置を講ずるように努めるものとする(4条の4)。
vi)特定地域内事業場排水の総量規制基準
 都道府県知事は、指定地域にあっては、指定地域内の特定事業場で環境省令で定める規模以上のもの(指定地域内事業場)から排出される排出水の汚濁負荷量について、総量削減計画に基づき、環境省令で定めるところにより、総量規制基準を定めなければならない。都道府県知事は、新たに特定施設が設置された指定地域内事業場(工場又は事業場で、特定施設の設置又は構造等の変更により新たに指定地域内事業場となったものを含む。)及び新たに設置された指定地域内事業場について、総量削減計画に基づき、環境省令で定めるところにより、それぞれ前項の総量規制基準に代えて適用すべき特別の総量規制基準を定めることができる(4条の5)。
 
(3)閉鎖性水域に関する特別法としての瀬戸内海環境保全特別措置法
i)目的と概要
 瀬戸内海9は、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものである(瀬戸内海環境保全特別措置法3条)。このような瀬戸内海の環境の保全のために、瀬戸内海環境保全特別措置法が制定され、環境の保全に関する計画の策定等に関し必要な事項を定めるとともに、特定施設の設置の規制、富栄養化による被害の発生の防止、自然海浜の保全等に関し特別の措置等が定められている。
ii)基本計画と府県計画
 環境大臣は、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため、瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき計画(基本計画)を策定する。
 関係府県知事は、基本計画に基づき、当該府県の区域において瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策について、瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画(府県計画)を定める。関係府県知事は、府県計画を定めようとするときは、環境大臣に協議し、その同意を得なければならない。環境大臣は、前項の同意をしようとするときは、関係行政機関の長に協議しなければならない。関係府県知事は、府県計画を定めたときは、遅滞なく、これを関係市町村に送付するとともに、公表しなければならない(4条)。国及び地方公共団体は、基本計画及び府県計画の達成に必要な措置を講ずるように努めるものとする(4条の2)。
iii)特定施設の設置許可
 関係府県の区域において工場又は事業場から公共用水域(水質汚濁防止法第2条第1項に規定する公共用水域)に水を排出する者は、特定施設(同条第2項に規定する特定施設又はダイオキシン類対策特別措置法第12条第1項第6号に規定する水質基準対象施設をいい、水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設又はダイオキシン類対策特別措置法第12条第1項第6号に規定する水質基準対象施設を設置する工場又は事業場から公共用水域に排出される水の一日当たりの最大量が五十立方メートル未満である場合における当該特定施設その他政令で定めるものを除く。)を設置しようとするときは、環境省令で定めるところにより、府県知事の許可を受けなければならない(5条)。
 許可基準は、廃棄物の処理を目的とする工場又は事業場に係るものであること、当該特定施設からの汚水等の排出が瀬戸内海の環境を保全する上において著しい支障を生じさせるおそれがないものであることの二つである。
 
9 「瀬戸内海」とは、次に掲げる直線及び陸岸によって囲まれた海面並びにこれに隣接する海面であって政令で定めるものをいう。
一 和歌山県紀伊日の御岬灯台から徳島県伊島及び前島を経て蒲生田岬に至る直線
二 愛媛県佐田岬から大分県関崎灯台に至る直線
三 山口県火ノ山下灯台から福岡県門司崎灯台に至る直線
 同胞の適用において、「関係府県」とは、大阪府、兵庫県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、福岡県及び大分県並びに瀬戸内海の環境の保全に関係があるその他の府県で政令で定めるものをいう。(第2条)
 
iv)水質汚濁防止法等の準用
 水域の水質悪化の防止のために、水質汚濁防止法、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律、ダイオキシン類対策特別措置等が準用されている10
 
10 特別措置法における水質汚濁防止法等の適用関係は12条で以下のように規定されている。
第十二条 水質汚濁防止法第五条から第十条まで、第十一条第一項から第三項まで及び第二十三条第三項から第五項まで(同法第五条、第七条、第八条、第八条の二、第十条及び第十一条に係る部分に限る。)並びに海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)第三十七条第一項の規定は、第五条第一項に規定する区域において特定施設を設置する工場又は事業場から排出水を排出する者で特定地下浸透水(水質汚濁防止法第二条第七項に規定する特定地下浸透水をいう。次項において同じ。)を浸透させない者に係る当該特定施設については、適用しない。
2 水質汚濁防止法第五条第一項、第六条第三項及び第八条の二の規定は、第五条第一項に規定する区域において特定施設を設置する工場又は事業場から排出水を排出する者で特定地下浸透水を浸透させる者に係る当該特定施設については、適用しない。
3 前項に規定する者及びこの者に係る当該特定施設についての水質汚濁防止法の規定の適用については、次項の規定によるほか、同法第五条第二項中「都道府県知事」とあるのは「府県知事(瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和四十八年法律第百十号)第五条第二項の申請書を提出する府県知事をいう。以下同じ。)」と、同法第六条第一項中「排出水を排出し、又は特定地下浸透水」とあるのは「特定地下浸透水」と、「前条第一項各号又は第二項各号」とあるのは「前条第二項各号」と、「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、同法第七条中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、「第五条第一項第四号から第八号までに掲げる事項又は同条第二項第四号」とあるのは「第五条第二項第四号」と、「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、同法第八条中「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、「排出水の汚染状態が当該特定事業場の排水口(排出水を排出する場所をいう。以下同じ。)においてその排出水に係る排水基準(第三条第一項の排水基準(同条第三項の規定により排水基準が定められた場合にあっては、その排水基準を含む。)をいう。以下単に「排水基準」という。)に適合しないと認めるとき、又は特定地下浸透水」とあるのは「特定地下浸透水」と、同法第九条第一項中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、同条第二項中「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、同法第十条中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、「第五条第一項第一号若しくは第二号若しくは同条第二項第一号」とあるのは「第五条第二項第一号」と、「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、同法第十一条第一項及び第二項中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、同条第三項中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、「都道府県知事」とあるのは「府県知事」と、同法第十二条第一項中「排水口」とあるのは「排水口(排出水を排出する場所をいう。以下同じ。)」と、「排水基準」とあるのは「排水基準(第三条第一項の排水基準(同条第三項の規定により排水基準が定められた場合にあっては、その排水基準を含む。)をいう。以下単に「排水基準」という。)」と、同法第二十三条第二項中「排出水を排出し、又は特定地下浸透水」とあるのは「特定地下浸透水」と、「第五条」とあるのは「第五条第二項、第六条」と、同条第三項中「第五条」とあるのは「第五条第二項」と、「当該特定施設を設置する工場又は事業場の所在地を管轄する都道府県知事」とあるのは「府県知事(第十四条第三項の規定による届出事項に該当する事項の通知にあっては当該特定施設を設置する工場又は事業場の所在地を管轄する都道府県知事)」と、同条第四項中「都道府県知事」とあるのは「都道府県知事(第八条の規定に相当する鉱山保安法、電気事業法又は海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の規定による措置の要請にあっては府県知事)」と、「第八条、第八条の二」とあるのは「第八条」と、「第八条又は第八条の二」とあるのは「第八条」と、同条第五項中「都道府県知事」とあるのは「都道府県知事(第八条の規定に相当する鉱山保安法、電気事業法又は海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の規定による措置の要請に対して講じた措置の通知にあっては府県知事)」とする。
4 第五条第一項に規定する区域における水質汚濁防止法第二十二条第一項の規定の適用については、同項中「この法律」とあるのは、「この法律(瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和四十八年法律第百十号)第五条から第十一条までの規定を含む。)」とする。
5 ダイオキシン類対策特別措置法第十二条から第十九条まで及び第三十五条第二項から第四項まで(同法第十二条、第十四条から第十六条まで、第十八条及び第十九条に係る部分に限る。)の規定の適用については、第五条第一項に規定する区域において特定施設を設置する工場又は事業場から排出水を排出する者に係る当該特定施設は、同法第十二条第一項第六号に規定する水質基準対象施設ではないものとみなす。
6 第五条第一項に規定する区域におけるダイオキシン類対策特別措置法第三十四条第一項の規定の適用については、同項中「この法律」とあるのは、「この法律(瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和四十八年法律第百十号)第五条から第十一条までの規定を含む。)」とする。
 
v)総量規制
 環境大臣は、瀬戸内海における化学的酸素要求量に係る水質の汚濁の防止を図るため、関係府県の区域について、化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量の総量の削減に関する水質汚濁防止法第の総量削減基本方針を定めるものとする。総量削減基本方針及びこれに基づく汚濁負荷量の総量の削減に関する水質汚濁防止法の規定の適用については、水質汚濁防止法の規定中「汚濁負荷量」とあるのは「化学的酸素要求量で表示した汚濁負荷量」と、「指定水域」とあるのは「瀬戸内海環境保全特別措置法第二条第一項に規定する瀬戸内海」と、「指定項目」とあるのは「化学的酸素要求量」と、「指定地域」とあるのは「瀬戸内海環境保全特別措置法第五条第一項に規定する区域」とする(12条の3)。
vi)富栄養化対策
 環境大臣は、瀬戸内海の富栄養化による生活環境に係る被害の発生を防止するため必要があると認めるときは、関係府県知事に対し、関係府県の区域において公共用水域に排出される燐その他の政令で定める物質(指定物質)の削減に関し、政令で定めるところにより、削減の目標、目標年度その他必要な事項を示して、指定物質削減指導方針(指導方針)を定めるべきことを指示することができる。指導方針においては、目標年度において削減の目標を達成することを目途として、指定物質の削減に関する指導の方針その他必要な事項を定めるものとする(12条の4)。
 関係府県知事は、関係府県の区域において指定物質を公共用水域に排出する者に対し、指導方針に従い、必要な指導、助言及び勧告をすることができる(12条の5)。関係府県知事は、指導、助言又は勧告をするため必要があると認めるときは、関係府県の区域において事業活動に伴って指定物質を公共用水域に排出する者で政令で定めるものに対し、汚水又は廃液の処理の方法その他必要な事項に関し報告を求めることができる。環境大臣は、指定物質による瀬戸内海の富栄養化による生活環境に係る被害の発生を防止するため緊急の必要があると認めるときは、指定物質排出者に対し、汚水又は廃液の処理の方法その他必要な事項に関し報告を求めることができる(12条の6)。







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