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平成14年度海洋ビジョンに関する調査研究報告書?沿岸域管理・海洋教育・海上安全保障?

 事業名 海洋シンクタンク事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


個別管理の状況―海洋の水質汚染問題の場合―
1. 現状分析
 沿岸域の海水の水質汚染をもたらす要因は多様である。主要な要因は、(1)生活排水、(2)農用地からの排水、(3)工場排水、鉱業排水、(4)干拓・埋立それらの行為に代表される港湾等の開発行為、(5)輸入海砂、(6)養殖漁業、(7)船底塗料・魚網防腐剤、(8)船舶である。また、(9)閉鎖性の海域ではこれらの諸要素の複合的な汚染が深刻化する。
 生活排水は、下水道が整備されている場合には下水道で処理され、整備されていない場合には直接に、河川に排出されて河川経由で海に排出される。農用地からの排水は河川経由で海に排出される。工場排水、鉱業排水も同様であるが、直接海に排出される場合もある。
 干拓・埋立による干潟や藻場の喪失は、これらの空間が果たしてきた栄養塩類の吸収や有機物の分解・脱窒・酸素の放出の阻害等により、直接に海域の水質を悪化させる可能性を持つ。
 建築資材として用いられる海砂の国内生産量の減少により、近時、途上国からの海砂あるいは川砂の輸入が増加している。途上国においては一般に公害防止法制度が未発達であり、川や海の底にはわが国では排出が禁止されている様々な重金属等が高濃度に蓄積されている可能性がある。また、海底や川底から採取された砂には様々な病原菌や採取地の生物が生存している可能性がある1。現地で採取されたこれらの砂は船で運搬され、わが国の港湾において洗浄される。この洗浄された排水は直接に海に排出される。排出水とともにこれらの汚染物質ないしはわが国の生物種とは異なる生物種がわが国の海水に排出される可能性が存在する。
 養殖漁業による汚染は、養殖魚の餌、排出物、養殖魚の病気を防ぐために散布される様々な薬物による汚染で、海域において直接行われる。
 船舶塗料、魚網防腐剤として用いられるトリブチルスズ(TBT)及びトリフェニルスズ(TPT)が、海水中に融解することにより環境ホルモン問題を引き起こすことが懸念されている。平成10年度環境庁調査結果「水環境中の内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)実態調査」によると、トリブチルスズは調査地点中の水質において7%、底質において53%、水生生物の80%、トリフェニルスズは水質の0.2%、底質の19%、水生生物の50%の地点でそれぞれ検出されている。環境ホルモンは人や野生生物の生殖機能阻害、悪性腫瘍をもたらす可能性のありうることが指摘されており、その実態把握のための調査、生物への影響解明の研究が行われている。
 船舶起因の汚染は、船舶の海上での事故あるいは油、バラスト水、その他の排出によって生ずる。水上オートバイのエンジンからの排出も問題となっている2
 閉鎖性水域の水質悪化を示す一つの指標は、環境基準(COD)の達成率である。1974年以降、特別法が制定されている瀬戸内海及び全海域では環境基準達成率が80%前後で推移しているが、東京湾は60%で横ばい、伊勢湾は40〜60%の達成率となっている(2000年度で見ると、東京湾63%、伊勢湾56%、瀬戸内海76%)。また赤潮の発生も東京湾、伊勢湾では多く、2001年の全国発生確認件数37件中、東京湾16件、九州沿岸6件、伊勢湾及び本州東岸各4件、大阪湾をのぞく瀬戸内海3件の順になっている3。有明海における底層の溶存酸素量の著しい減少や赤潮が、大規模化し長期的発生の傾向が見られること、それが水産業に深刻な影響を与えたことは記憶に新しい4
 
1 科学技術・学術審議会海洋開発分科会 海洋保全委員会報告書 平成14年3月11日においては、輸入海砂等による外来生物種の侵入実態解明の必要性が指摘されている。
2 自動車、陸上のバイク等については排出ガス規制があるが、水上バイクについてはそれがなく、不燃燃料の水質汚染が問題視されている。
3 国土交通省沿岸域総合管理研究会報告書 平成15年3月 資料集22〜23頁
4 前掲・註1報告書17頁
 
2. 関連法制度の基本構造
 これらの問題を処理するための法制度の土台となるのが環境基本法である。環境基本法は16条で、国が水質汚濁等の環境上の条件について、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準としての」環境基準5を定めるものとしている。環境基準は(ア)人の健康の保護、(イ)生活環境の保全のそれぞれに関して定められる。(ア)についてはカドミュウム、六価クロム等26項目について基準値が定められ、(イ)については、海域に関して、pH、COD、DO、大腸菌群数、n−ヘキサン抽出物質(油分等)、全窒素、全燐について基準値が定められている。
 環境基本法の下で「水質汚濁防止法」が海洋の水質汚染問題処理の基本的な手段となる。同法は(ア)「工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排出及び地下に浸透する水の浸透」を規制し、(イ)「生活排水対策の実施を推進すること等によって、公共用水域及び地下水の水質の汚濁の防止」を図ることによって、(ウ)国民の健康保護と生活環境を保全し、(エ)工場・事業場からの排水による人の健康被害が出た場合の事業者の損害賠償責任を定める(1条)。
 これらの環境基準が定められている物質等の具体の排水基準は環境省令で定められる。
 環境大臣は閉鎖性水域に関して、政令による指定水域において、指定項目で表示した汚濁負荷量の「総量削減基本方針」を定める(水質汚濁防止法4条の2)。瀬戸内海環境保全特別措置法12条の3は、瀬戸内海について、化学的酸素要求量(COD)で表示した総量削減基本方針を定めることとしている。このほかに政令による地域指定で東京湾と伊勢湾が指定され、指定項目として同じくCODで表示された汚濁負荷量が定められている。
 水質汚濁防止法第2章の2(14条の4〜14条の10)は生活排水対策について定める。生活排水の海洋汚染と密接にかかわるのが、生活排水等の下水処理である。
 下水道法は、公共下水道(主として市街地における下水を排除し、又は処理するために地方公共団体が管理する下水道で、終末処理場を有するもの又は流域下水道に接続するものであり、かつ、汚水を排除すべき排水施設の相当部分が暗渠である構造のもの)と流域下水道(もっぱら地方公共団体が管理する下水道により排除される下水を受けて、これを排除し、及び処理するために地方公共団体が管理する下水道で、二以上の市町村の区域における下水を排除するものであり、かつ、終末処理場を有するもの)による下水の処理について規定する。
 
5 環境基準は行政上の努力目標としての性格を持つ。
 
 事業所からの排水と生活排水と並んで、今日、海洋の汚染源として注目されているのは農業排水の問題である。農業における肥料と農薬の使用が環境に与える影響についてはいろいろと議論されている。農用地からの排水については、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に規定があり、排水に直接一定の規制をかける法律として農薬取締法がある。肥料取締法は環境目的の規制体系を持っていない。
 干拓及び埋立による海水の汚染問題に直接かかわるのは、公有水面埋立法である。公有水面埋立法は、その免許基準において、その埋立が環境保全に十分配慮せられたものであること、環境保全に関する国又は港務局を含む地方公共団体の法律に基づく計画に違背しないことを定める(4条1項2号及び3号)。
 輸入海砂の引き起こす海洋汚染に関しては、現在、その実態についての科学的な把握ができていない状況にあり、実態把握とわが国の生態系への影響、輸入海砂の管理手法の検討が今後の政策課題とされている6
 養殖漁業による海水汚染の問題に関連して、持続的養殖生産確保法が制定されている。同法は海水汚濁の防止等を直接目的とするものではなく、漁業協同組合等による養殖漁場の改善を促進するための措置及び特定の養殖水産動植物の伝染性疾病のまん延の防止のための措置を講ずることにより、持続的な養殖生産の確保を図り、養殖業の発展と水産物の供給の安定に資することを目的とするものである。しかし、同法による「養殖漁場の改善」手段として、飼料等の水底へのたい積の防止を図る措置が規定されていることから、同法の運用は、結果的に富栄養化等の防止に寄与することとなる。同法の目的との関係で、養殖魚の体調維持の目的で使用されるホルマリン等の薬物の使用に対する規制がないことが、海洋汚染の観点からは問題視されている。
 有機スズ系船底塗料の規制については、2001年「船舶についての有害な防汚方法の規制に関する国際条約」(AFS条約)がIMO(国際海事機関)の国際条約採択会議において採択された。わが国はその規制が必要との提案を行ったこともあり、現在条約の批准に向けて作業中であると同時に、国内法制化がはかられている。
 これらの化学物質については、化学物質の審査及び製造等に関する法律(化審法)によって、製造・輸入の届出が必要な第二種化学物質指定や、製造・輸入・使用が禁止される第一種特定化学物質の指定がされている。
 船舶起因の汚染に対する措置に対する法制度は、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律と海岸法である。大量の油流出事故に伴う環境破壊に対して、1990年「油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」が締結され、それを受けてわが国では海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部改正が行われ、事故を発見した船舶等が最寄りの沿岸国の海上保安機関に通報を要することとした。
 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律は、船舶、海洋施設、航空機からの油、有害液体物質、廃棄物の排出を原則禁止し、船舶に対し油汚染防止のための設備の設置・技術奇異順の設定、油汚濁防止規程の整備等を義務付ける。また、排出がなされたときの、通報義務、応急措置及び防除措置義務、排出油防除資機材の備え付け義務、費用負担、財産処分、船舶通行の制限等について定める。
 
6 註1・前掲報告書 28頁
 
 海岸法は、すべての者に油等通常の管理行為による処理が困難なもとして省令で定めるものにより海岸を汚損する行為を禁じ、海岸管理者による原状回復義務を定める。







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