5. ディーゼルエンジンの燃焼
5.1 燃焼過程
ディーゼルエンジンにおいて燃焼が正常に行われているときの燃焼は次の4段階に分けて考えることができる。
1)着火おくれの期間
1・14図に示すA〜Bの期間を着火おくれ期間といい、噴射された油粒がシリンダ内において加熱され、着火点に達するまでの期間である。この期間の大小が燃焼最高圧に与える影響は大きい。着火おくれに影響する事項を上げれば次のようなものが考えられる。
(1)噴射された油粒の大きさ
(2)圧縮空気温度および圧縮圧力
(3)噴射された油粒の着火温度
(4)空気と油粒との相対速度
1・14図 ディーゼルエンジンの燃焼
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2)爆発的燃焼期間
B〜Cの期間を爆発的燃焼期間といい、この期間は着火おくれ期間に噴射された油粒が加熱されて着火する期間で次の事項によりその長さの長短が左右される。
(1)圧縮空気圧力
(2)1回の噴射量
(3)燃料の霧化の状態
(4)噴射圧力
3)制御燃焼期間
C〜Dの期間を制御燃焼期間といい、爆発的燃焼期間のあとに噴射された油粒は噴射後直ちに引火燃焼を行う。従ってこの期間の燃焼は噴射量を制御する事により燃焼の長短が変えられるので制御燃焼期間と呼ばれるのである。
4)後燃え期間
D〜Eの期間を後燃え期間といい、制御燃焼期間の終りまでに燃焼し得なかった油粒が燃焼を完了するまでの期間で、この期間の大小は排気温度、熱効率に影響を及ぼす。
以上がディーゼルエンジンにおいて燃料の噴射から燃焼が完了するまでを大きく分類したものである。このうち、熱効率、最高圧力および排気温度等機関性能に大きく影響を与えるものは、着火おくれ期間と後燃え期間である。この2つに影響を与えるものを更に細く分類すると次のとおりである。
5)着火おくれに関係する事項
(1) |
燃料油の性質 |
・・・ |
燃料油の着火性が良いと着火おくれは減少する。 |
(2) |
燃料噴射時期 |
・・・ |
噴射時期が早いと着火おくれは大きくなり、噴射時期がおそいと着火おくれは小さくなる。 |
(3) |
圧縮比 |
・・・ |
燃焼室内の圧縮圧、圧縮温度は圧縮比が高い程高くなる。従って着火おくれも小さくなる。 |
(4) |
吸気圧力 |
・・・ |
吸気が絞られるとシリンダ内の空気密度はうすくなり着火おくれは大きくなる。 |
(5) |
吸気温度 |
・・・ |
吸気温度はシリンダ内の圧縮終りの温度に影響を与え、これによって着火おくれの大小は左右される。 |
(6) |
冷却水温度 |
・・・ |
冷却水温度もシリンダ内の温度に影響を与える。従って、着火おくれの大小に影響する。 |
(7) |
回転数 |
・・・ |
回転速度が上昇すればガス洩れ、熱損失も減少するので着火おくれは短くなる。 |
(8) |
負荷 |
・・・ |
負荷を増せば燃焼室内の温度も上昇するので着火おくれは短くなる。 |
6)後燃えに影響を与える事項
(1)使用燃料の着火性の良否
(2)燃料噴射時期
(3)燃料噴射時間の大小
(4)燃料油の噴霧状況
(5)燃料噴射弁からのあとだれの有無
(6)シリンダ内の圧縮圧力
(7)制御燃焼期間中の燃焼の良否
7)ディーゼルノック
ディーゼルノックは着火おくれ期間が長くなり過ぎた場合に起こる現象である。この期間が長くなるとその間に噴射される油粒は増大し、これらが着火点に達した時、時に爆発燃焼を生じ、急激な圧力、温度上昇とこれに伴う燃焼圧力波によって振動音が発生する。この振動音がディーゼルノックと呼ばれるものである。
(1)噴射時期が早すぎる場合
シリンダの温度と使用燃料のセタン価が高い時は過早着火となるが、一般に圧縮温度が十分でないときに噴射を始めるため、着火おくれが大となり、着火と同時に多量の油が一時に爆発し、ディーゼルノックを生ずる。
いずれにせよ、燃焼最大圧が高くなりノッキングを起こす他出力も低下する。
(2)噴射時期が遅すぎる場合
シリンダ内の圧縮温度が十分上がったところで噴射が始まるのであるから、燃料の着火遅れは小さくなり、したがって最高圧力が下がって静かな運転ができる。
しかし、噴射終わりが遅くなって、燃焼室圧力がかなり下がってからも噴射され、油粒は十分な熱と空気を得られず燃焼時間が長びき排気が始まるまでの膨張期間中燃焼が継続する(これを後燃えという)ため、排気色が悪化する他排気温度の上昇など排気損失が増えて、熱効率が下がり出力が低下する。
これらの模様は1・15図に示す噴射時期の遅早を調べる手引線図によって明らかである。
1・15図 噴射時期の遅早による手引線図の比較
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