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III 質疑応答
 
【参加者A】 私は現在は中東教育センターで、日本から中東に対する投資の促進の仕事をずっとやらせていただいています。
 今度の場合に、結局アメリカの外交方針がしっかりしていない、特にブッシュ大統領になってから、何かクリントン大統領の政権末期になったときに、駆け込み的に中東和平を何とか自分の手で仕上げようとして一生懸命やっていたことがあったと思います。それ自体はいいかどうか、不正確でわからなかったのですが、ただブッシュ大統領にかわってから、公然と中東和平から手を引いている。核兵器や弾道ミサイルを両方とも破棄するとか、京都議定書みたいな環境の事も私は、モンロー主義にまた戻ろうとしているのかなというような気もしたわけです。
 その辺のことはよくわからないのですが、ただ中東和平から手を引くと言ったことが、本来イスラエルとパレスチナの問題になるわけですが、両当事者が平等な力を持った国と国との関係なら、わざわざ手を引いて、彼らの話の成り行きを見守るのだという意見交換があるのですが、明らかに支配の中に、パレスチナという反対があって、そこから第三者が手を引いて当事者だけの話に任せるというのは、特にシャロンが首相になったときに、どうなるかということは目に見えているわけです。ちょっと短絡的かもしれませんが、それでもなおかつブッシュはアルカーイダ、それからアラブの人たちを追い詰めていって、あんなことでもやらないとやり切れないという気持ちに彼らを追い詰めたのではないかなと私は思っているわけです。
 それにしても、今度のイラクの攻撃について、先ほど佐々木先生のお話で、トルコと日本は支持しているそうなのですが、それ以外のところはみんな反対している。アメリカというのは、本来自分たちで持っている「議会制民主主義」、それから「自由主義経済」、それと「人権主義」、そういう問題について、彼らの批判に合わないところに対しては、とにかく内政干渉をどんどんやっていく。これも彼らは内政干渉だと思っていない。自分たちの正義をそこで実現するのは当然のことだと思っていたりする。
 そういう中で、特にアメリカの「議会制民主主義」を他国に持ち出そうとしているのですが、アメリカ国内での世論調査などの結果を聞いていると、ブッシュ大統領に対しての支持は高いと言うことですが、アメリカ国民がこれをほんとうにどういう気持ちで見ているのか。
 それから、もしブッシュ大統領でなくても、やはりアメリカの政権は、イラクに対してこのような攻撃をしかけるということを相変わらず盛んに言いまくるのかどうなのか。この場にそぐわないかもしれませんが、日ごろから思っている個人的な疑問なのです。
【佐々木】 この質問は、中東問題というよりもアメリカの内政の問題だと思いますので、お答えは日下会長から。
【日下】 簡単に言うと、「アメリカの大衆の世論」という場合の中流階級が、この十数年間になくなってきました。上流階級と、それから新しく入ってきた人たちの二極分解で、極めて新しい人がふえていますから。今、アメリカ、アメリカと言って大喜びしているのは、その新しく入ってきた、アメリカでは浮かばれない人たちです。その世論はどこへ行くかというのは、前例がないと僕は見るのです。
 今、ワシントンでいろいろ議論している人たちは、それを考える力がないのではない。アメリカの上流階級というのは、銀行、証券、及びIT革命でたくさんもうけて、急に成金になった人たちです。この人たちは株が下がってくれば反対でしょう。アメリカの威信とか、「世界の警察」とか、「民主主義」を輸出するとか、上流階級にとってみれば建前です。日本の外務省はきちんとそういうふうに見ているのかな、ワシントンとだけつき合っているのではないかなと心配しています。
【参加者B】 先生のお話、大変感銘深く、いろいろと教えていただきました。ありがとうございました。
 アメリカが現在イラクを攻撃しなければならないほど、イラクにBC兵器を初め、世界に対して与える脅威があるのかないのか。その辺の客観的な見立てについては、先生はどのようにお考えでしょうか。
【佐々木】 核兵器については、これはどこの国も将来持ってみたいと思います。怖いもの見たさではないけれど、要するにおもちゃが欲しいのです。
 したがって、インドが、パキスタンが、エジプトだって今核兵器をつくるのではないかと懸念を持たれていますが、イラクだって当然やっています。だけど、これが実際にいつの段階で製品化、商品化できるのか。しかもそれが使えるか使えないかというのは・・・。
 スーツケースに入る核爆弾なんて、かっこいいことを言っていますよ。実際はそれを運搬する手段がなければだめなわけでしょう。運搬する核弾頭がちゃんとできあがるまで何年かかるかです。
 だから、僕は核はペケだと思います。B兵器については、これは十分にあり得ます。C兵器についても、これは既に完成しています。ただ、BC兵器については、エジプトだって持っているしシリアだって持っている。シリアなんて大型のラボを持っているんです。ところがシリアはやらないわけです。サダム・フセインが、なぜそれをやられるのかというと、結局は先ほど言った、クルド人に対して使ったという経緯があるからです。
 でも、サダムだって、例えばの話、それをサウジなりアメリカなりに使った場合に、どういうリアクションがあるかということは十分わかっていると思います。したがって、これからの戦争は棍棒やナイフですよと僕の友人が言った。
 核兵器だって、北朝鮮だってノドンか何かぶっぱなしているけど、核弾頭を突っ込んで日本に撃とうなんて思っていないです。要するに、あるがゆえに使えないという部分もありますね。
 そうなると、僕は、アメリカが今非常に緊急にイラクに対して軍事行動をとらなければならない明確な理由はないと思うんです。であるがゆえに、いざ手を挙げてみたら、どうも周りがついてこない。だれも賛成してくれない、金も払ってくれないというので、ちょっとウェイトアンドシーにしようというふうに、ブッシュが少しずつトーンダウンしてきたというのはそういう部分もあるのではないか。
 あえて言うならば、アメリカは別にイラクが民主主義になろうが関係ないんですよ。中国なら広い国家ですからありか、ところが実際に放置しているでしょう。サウジアラビアだって、クウェートだってそうです。ところがこれを放置している。そうなると、とどのつまりは石油を押さえたいんだろう。だけども、今慌てて石油を押さえる必要があるのかなというところです。僕は今はないと思うんです。だから、もしブッシュがうちの会長ぐらいに賢い人だったら、みんな忘れたころにまた言い出すでしょうと思います。
【日下】 じゃあ佐々木さん、一つだけ。ロシアの話をなさっていないですが。ロシアの軍事力と石油量。
【佐々木】 ロシアは、やはりものすごい資源大国だと思うんです。ところが技術力と金がなかったので、どうしようもなくなってしまったのだと思うのですが、今、プーチンとブッシュの関係はすごくよくなっています。そうするとアメリカの技術と資金力をもってロシアは石油をどんどん開発し、西側のマーケットに流している。そして、西側のマーケットにロシアが石油を流してくれるということは、アメリカが少なくともアラブの石油によって圧力を受ける必要がなくなるから、アメリカの望むような対中東外交を展開していけるということではないかというふうに思います。
【日下】 では、そこで日本と石油の話。
【佐々木】 日本とロシアの石油の話ですか。
【日下】 いや、こういう問題が日本と何の関係があるのだと思うけど、石油だから関係があるとみんな思っているわけです。僕はとんでもないことだと思っているのですが、その辺についてご意見があれば。
【佐々木】 これは会長とちょっと意見が違うかもしれませんが、僕は石油というのはまだ最も安いエネルギーだと思うのです。安いエネルギーであるということ。それから電気自動車というか、電気で戦闘機は飛ばないと思います。そうすると、戦艦とか戦闘機を動かすのはやはり油だろうと思う。そうするとまだまだ油は必要だろう。なおかつ、コストが安くて、ほかの産業を持たない、技術力も余り高くない国々から油を買うほうが、買う側としては優位に立てるのではないか。そうすると、アラブの人たちには非常に失礼な言い方かもしれないけれど、ロシアよりは中東、例えばサウジとかクウェートとかの国々とやるほうが条件としてはいいのでないのかなという気がしています。もちろん、東南アジアの海域が安全であるという前提のもとです。
【日下】 僕は石油のことを日本が心配する必要は、短期的にも長期的にも全くない。中期的にちょっとどうかなと思っています。石油は国際商品で、供給はジャブジャブあって、みんな売りたくて、買ってくれる国は日本と中国が両横綱です。どうせ中国と日本に売るしかしようがないのですから。ほうっておいたら売りにきますから、日本が何も慌てることはないので、待っていればいいわけです。
 それから日本というのは技術進歩がすごい国で、今おっしゃった移動体エネルギー源だけは石油に限りますが、これは飛行機なんです。飛行機以外は、日本は技術で解決しつつあります。電気は原子力発電所をつくればいいわけでしょう。自動車は水素自動車を世界最初に日本がやり出しましたから。あと要るのは産業用材料としての石油です。エチレン、プラスチック。これはもう中国に負けかけていますから、そんなことに関係なく手を引くことになります。ですから日本としては、最後に要るのはジェット機の燃料だけあればいいという国づくりを急げばよい。
 ですから、日本にとって石油は命の綱である、原子力発電所は危ないからつくってはいけないよとか、ああいう攪乱にだまされなければいいと思っています。







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