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D 『アメリカが期待する戦争』
 
 それで、もし万が一アメリカが戦争したらということですが、アメリカが期待する戦争のパターンというのは、トルコやイギリスやクルドやシーアが立ち上がってくれる。クウェート、バハレーン、カタール、ヨルダン、オマーン、トルコなどというところが基地を提供してくれる。そして三方向からの空爆をする。そして陸上部隊が侵攻する。そしてトルコからは北イラクに軍事侵攻し、クルドが蜂起し、シーアが蜂起して万歳ということです。万歳というのは漫才ではないかなというような気がちょっとするのですが。そして、言うところによると二〇〇三年の一月から二月ぐらいに、何とか戦争をやらせてもらえませんか。戦後の政体は、各派各民族から成るところの「民主的」な、いわゆる連合政府であるということらしいです。「民主的な体制」というのはあの地域では向かないということを先に申し上げました。
 
E 『アメリカのイラク攻撃後計画』
i アメリカが勝利した場合
 
 アメリカのイラク攻撃後の計画というのは、いろいろなことを一応は考えられています。イラク、ヨルダン、イスラエル、トルコからなるところの、かつてのCENTOのようなもの、つまりは共同防衛というのか、そういうものをあそこにつくり上げて、がっちりとした状況をつくっていきたいというようなことを言っているそうです。
 もう一つは、イスラエルと周辺諸国の関係を正常化させて、経済が動くようにする。資本主義を本格的に、この地域に導入していく。こうした目的のために、一九九四年にモロッコのカサブランカ、友情と愛の町で始まった中東北アフリカ経済サミットというのがあります。それをもう一回復活してみたいという考え方なんです。これはペレスの構想で、一九九二年に彼は『ザ・ニュー・ミドルイースト』という本を出しています。偶然にも私の教え子がアメリカで本を買ってきてくれ、それに書いてあったのですが、それをもう一回やってみようと。
 
ii 実施の要素
 
 もう一方では、こうしたものをスムーズに持っていくために、パレスチナ国家を設立させる。これは案外、私が予想したよりもアメリカの内部では真剣に考えられているようです。これについてはいろいろな、その他の意見があるのですが、今のところそのようです。アメリカは、イスラエルとアラブに同等の権利を与えることによって、アラブやイスラム世界を刺激しないように、不満を抱かせないような政策を展開していくだろう。アメリカの考える新しいリーダーというのが、愛国者であり見識を持つ、言ってみればカルザイのような人。これはちょっと見識があるのかどうかわかりません。
 それから、貧困問題を解決して、アメリカの傘のもとにあるということが結局はアラブの大衆にとってプラスになるのだという状況をつくっていく。それから経済の平等化を図るためには、イスラムのどちらかというと強硬派にもチャンスを与えていくということ。
 イラクにはアメリカの言いなり政権を置き、アメリカはイラクが持っている二千八百億バレルの可採埋蔵量の石油をコントロールしていく。それから復興の建設は大変な仕事の量になるであろうから、これをアメリカがなるべく押さえていく。もう一つは、イスラエルを、湾岸諸国にとって、守ってくれる保護者の立場に立て、湾岸諸国とイスラエルとの関係を当然のことながらよくしていく。それからトルコ、イラン、イスラエルをコントロールしていく。OPECを弱体化していくというふうなことを、どうやらもやもやの中で考えてはいるようです。ただ、それが明確な形でまとまってはいません。
 イラクの民主化によるところが、もし、アメリカが勝ってサダムが死んでしまった場合、イラクはアメリカが考える「民主的な体制」になるのですが、もしイラクに「民主的な体制」ができるとするならば、そのことは湾岸の王制国家で大変不安定な状況が生まれてくる。例えば、湾岸危機のときに、クウェートの多くの国民は立ち上がりました。しかしながら、あの湾岸戦争が終わってみたら、結局はサバーハが王様として残って、相変わらずやったんです。そういうところの不満というのがあります。サウジアラビアではウサーマ・ビンラーデンを支持する人が九十九・九%です。ビンラーデンはサウジではテロでも何でもありません。そのためにサウジ政府はビンラーデンに対するあの対応、アメリカとの関係を困難に考え、体制の不安な状況に陥っています。そういったことを考えると、湾岸の国々はアメリカが勝利をすることによってかえって不安定になってしまうという危険性がある。
 そうは言ってもイラクが民主的な体制になんかうまくいきはしない。さっき言ったように、周辺のその他の国々がいろいろと内政干渉をします。そうしてくると、結局のところはそれぞれのグループが動く。それを安定的に押さえ、イラクのカルザイを支持していくためには、七万五千人の軍隊を最低十八ヶ月、最長二十年間置く必要があり、なおかつ初年度の費用は百六十億ドルだと。戦費は先ほど申し上げました八百億ドル。
 サダム・フセイン大統領が、そういう中で都市戦争をやる。砂漠のロンメル将軍のような戦車戦はもうないのだという話をしました。都市ゲリラ戦争になった場合に、ものすごい数のアメリカの兵士が犠牲になり、かつバクダッドの市民が戦争の炎に巻き込まれていかざるを得ないということになります。そしてサダム・フセイン大統領は地下のルートを伝って、バクダッドにいない、どこにいるかわからないというのが実際だと思います。
 オシュラクの原発というのがありました。イラクがフランスの技術でつくった原発が完成間際に、イスラエル軍が爆撃をしたことがありますが、そのときに、イラクの諜報部は、すべてのイスラエルのエージェントをつかまえて殺したそうです。以来、イラクの中には、アメリカもイスラエルも実はスパイを一人も置けていない状況です。唯一のスパイ活動ができるチャンスは武器の査察です。大量破壊兵器の査察のときだけが、アメリカにとって唯一許されるスパイ行為のチャンスだというのが現状です。
 したがってアメリカは、この頼りにならない反イラクのいろいろなグループの連中をこちらに置いておいて、イラクの国内でほんとうにサダム・フセインに対抗しようと思っている人間をピックアップして、それを何とかサポートしてサダム体制を倒したいと思うのだけれど、その手が全く打てないというのが実情であります。
 それから、モロッコ、サウジ、オマーン、クウェート、シリア、エジプト、ヨルダンという国はみんな戦争に反対している。ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ロシア、中国も戦争に反対している。先ほど申し上げましたイギリスは国内の意見が分裂している。場合によっては、イラクの北部はトルコがキルクークまで押さえるのではないか。キルクークまで押さえる理由は、キルクークの周辺というのは、トルクマンと言われているトルコ系の住民がいるということです。皆さん地図をお持ちですから後でごらんください。これをトルコの参戦の代償に工賃にやるのではないか。中はスンニで、北東部はクルドで、南部はシーア派です。シェイクスピアという大佐がかつて、イラクとクウェートのボーダーをウイスキーをガバガバ飲みながら赤ペンでピッと引いて、国境が決まったという話があります。それと同じようなことがここでも展開される可能性が、ゼロとは言えないのではないか。でもそれは、結局のところはより多くの矛盾と問題をこの地域にもたらすに過ぎないのではないかと思います。
 それから、先進諸国、周辺諸国は、今も申し上げたように、イラクが四分五裂する状況の中では非常に関与しやすい状況になっていくであろうと思います。
 もし、幸いにしてアメリカが勝利し、イラクが負けたとしても、サダムが生き残ったらどうなのだろうか。イラクが負けてサダムが死んだ場合には、「民主的な体制」が一応できあがる、それは湾岸の国々に対してものすごく不安定な状況を生み出すというふうに言いました。死んでくれればもっけの幸いで、一応戦争では負けたけれども、サダムが生き残った場合には、彼は当然のことながらアラブの大英雄になります。ビンラーデンがアフガンでまだ生きていると言われている。彼は大英雄です。その何倍もサダムは英雄になるでしよう。ビンラーデンの人気ももう一回ぶり返すでしょう。ビンラーデンTシャツとか、ビンラーデンキーホルダー、サダムTシャツなんていうのも、これからばんばん。例えば時計会社なんかは、サダム・フセインの顔が入った時計なんか、今のうちから準備しておいたら、きっと大量に売れると思います。
 僕はこの間トルクメニスタンに行って金時計をもらってきたのですが、これは写真が入っていなかった。で、質屋に入るのではないかと思ったら、名前がビッチリ入っているのでちょっと質屋には入りそうもないですが、そういうことがあります。
 それから、湾岸が非常に不安定な状況になるだろう。アラブの各国では、サダムがもし生き残った場合には、我々は今こそサダムをサポートするべきであるという世論が沸き上がるでしょう。
 今実際に、『アルアハラム』というエジプトの新聞があるのですが、アハラム研究所という戦略研究所があって、そこのある人は、「アメリカが攻撃をするかしないかではない。今まさに我々アラブの大衆が、イラクに対する攻撃をすべきではないと声高に唱えること、そしてアメリカの大使館にデモをかけることがイラクに対する攻撃を防ぐ唯一の手段なのだ」と書いています。そうなってくると、そうした世論がこれからどんどん拡大していく。もしサダムが傷つきながらも生き残ったとするならば、彼は手負いの獅子として、アメリカに協力したヨルダン、トルコ、クウェート、バハレーン、カタール、そして場合によってはサウジアラビアに対して、サウジでアブドラ政権ができ上がれば話は別ですが、非常に恐ろしい存在になるのではないかと思います。







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