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vi 経済的な負担
 
 また、経済的な負担。先ほど会長がおっしゃいました、いわゆる有事のドル安が考えられる状況が現状にはあるのだということですが、アメリカの株価が下がっているということは、皆さん誰もがご存じのことだと思います。果たしてアメリカには戦争を負担するだけの経済的な能力があるのだろうか。アメリカ自身が言っています。あの湾岸危機のころは、ドイツや韓国や日本に金がうじゃうじゃあって、ばかばか出してくれた。でも今回はほんとうに金が集まるのだろうかという不安と懸念が非常に強いものがある。
 戦費は最低八百億ドルぐらいではないかと言われています。そういう中での株安。401Kか何か、もう株がだめになってがたがたになって、アメリカの老人が集団首つり自殺をするのではないかという噂が流れていますが、そういう状況です。加えて言うならば、イラクの石油はアメリカの輸入の六番目に位置している。イラクの石油が売れる最も大きなマーケットの一つがアメリカだという事実です。
 
vii アフガンとは異なる状況
 
 アフガンでの初戦における成功というのが非常に間違ったイメージを与えていると思うのですが、イラクには北部同盟が存在しない。クルドが立ち上がってやってくれるか。やらないんです。なぜなら彼らは初めから今まで、イラクの体制を倒して自分たちの国を独立国家にしようなどということは考えてこなかったのです。北部同盟がアフガンで成立したのは、群雄割拠の世界であり、まさに戦国時代の日本みたいなもの。もしかしたら明日おれが天下を平定するかもしれないという気持ちがあるから、みんなおれがやるぞと思っていたんです。つまりは、そこそこの関係をサダムと維持しながら、自分たちの権利をなるべく拡大したいというのがイラクのクルドの人たちです。
 そうすると、トルコの場合もそうですが、北部同盟という、つまりはアメリカ以外の軍隊を使うことができないという状態。それから、先ほども申し上げましたが、反イラクのグループというのは、どれもこれも役に立たない連中です。そもそもイランにバニー・サドルという大統領がいました。どちらかというとカルザイに似た、背の高い、めがねをかけたインテリそうなハンサムな男でしたが、彼は黒いマントをかぶって女装してイランから逃れると、それ以降全然イランの政治に影響力を持たなくなったんです。つまり、ああいう世界では、逃げ出したやつなんかの言うことを聞くかよ、冗談じゃないよという気持ちが非常に強い。ホメイニさんの場合は別です。彼はイランを追われイラクに行き、イラクを追われパリに行った。そしてみんなホメイニさんの傘の下に反体制派をまとめようというのがあったから、ホメイニは例外的ですが、国外に逃亡したものが自国に帰って来て大きな影響力を持つということは非常に難しい国柄であるということです。そして、イラク人というのはチグリス・ユーフラテスという大きな川のもとに生きる民族であり、彼らは日本で言うところの田舎の百姓的な発想を持つ人です。その人たちが、村からおん出ていった人間、要するにズルして出ていった人間なんかをまともに相手する気持ちはありません。したがって彼らがポストサダムの体制をつくるということは非常に困難であろうと私は思います。
 もし戦争をした場合には、アフガニスタンの場合とは違って、映像をコントロールすることは非常に難しいです。アラブの、あるいはイスラムのいろいろなマスコミが、イラクの場合には国土が広いであろうし、道路ができている。あるいはいろいろなものが整備されている。アフガンのようなまだ未開の地とはわけが違います。そうすると、アメリカが行う残虐行為がそのまま世界のお茶の間に送られて、自分のうちのステーキがこげているかイラク人がこげているかということを見ながら、皆さんは楽しい食事ができるという状況になると思います。
 イラクの国防力というのは、やはりアフガンとは比べ物にならないぐらいすごいということですよね。現実に、最近アメリカは、対空システムがものすごく進んでいるということを、アメリカ自身がイラクの軍事力について評価を下しています。
 
viii 何がアメリカにとって問題か
 
 もしアメリカが行動を起こした場合には、イスラエルやクウェートに対するイラクの攻撃が起こり得る。中でもイスラエルに対する攻撃が多分に起こり得ると思います。現実にイスラエルでは防毒マスクとか、いろいろなもの、注射をしたりしてやっていますが、そういう状態になっている。
 結局、そんなむちゃくちゃな状態の中で、アメリカは何でやるのだろうか。ブッシュ大統領はサダム・フセインが大嫌いである。イラクのBC兵器と核兵器の開発が危険である。
 アルカーイダとの関連点ですが、ビンラーデンは相当前の段階から、サウジアラビアの王国政府のロイヤルファミリーに対して、イラクが非常に危険な国家になりますということを警告していた人です。そのビンラーデンがなぜイラクと手を結ぶのか。これはこじつけ以外の何でもないというふうに私は思えてなりません。それからイラクがテロ組織との関連がある。テロ組織との関連がある国なんていうのは世界に幾つでもあります。そして、テロ組織への大量破壊兵器の供与ということが言われております。もう一つは石油資源の支配。それからよく言われるのがアメリカの兵器の消耗ということ。つまり棚卸しをやってしまおうと。一九九十年のあれから比べると約十年たっていますから、この前アフガンで大分使ったけれど、また棚卸ししてしまおうよ、何かこじつけて金を取ってしまおうよというのがあるのではないかというようなことが言われています。
 しかしながら、そうした緊張状態がある中で、なぜブッシュ大統領は夏休みをがっちり一カ月とったのだろうか。つまりは、ブッシュ大統領は感情的にはイラクに対する攻撃をしたいけれども、どうもいろいろ難しい部分がある。内部で意見が分かれていますから、国内的にもいろいろ難しい部分が当然ある。そうすると彼ら、あるいはブッシュがねらっているのは何かというと、今アメリカで成立するかもしれない国土安全保障省というのができるかできないか。つまりは、権力を一手に集中できるかどうかということにかかっているのではないですか。私は戦争はないだろうというふうに予測していますが、もしこの国土安全保障省なるものがアメリカの中で成立し、ブッシュの手にすべての権限がゆだねられたとき、ブッシュはもしかして暴走するかもしれません。ハリウッドがつくった暴走列車のように、彼が走り出す危険性は皆無とは言えないと思います。







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