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C 『アメリカは攻撃するのか』
i 攻撃の正当性は「ABC兵器情報、独裁体制」
 
 では、アメリカは、そういういろいろな問題を抱えながらなぜ、攻撃するという、実にばかげたことを言い出したのかということになりますが、アメリカが今現在言っているところの攻撃をするに足る理由というのは何かというと、ABC兵器の情報です。BC兵器はある。細菌兵器と化学兵器はある。A兵器、いわゆる核兵器は、非常に近い将来に完成するであろうという言い方をしています。それからCIAとM16の情報では、核が最低一個、イラクにある。これは両方とも言っています。でもそこで、核がどうなのかというと、イラクが核を持っているというのは、第三国、旧ソ連圏から買ったということになりますが、そうなるとサウジアラビアは買わないのだろうか、エジプトは買わないのだろうか。シリアは買わなかったのだろうか。イラクが核兵器を持っているとすれば、今私が申し上げたいずれの国も買っていると思います。もっと極端な言い方をすれば、かつてソビエトが中東で最も力点を置いたエジプトには、核兵器が大量に温存されているというふうに考えるべきではないかと私は思います。
 もう一つが、イラクの独裁制が悪いという言い方。言葉を変えて言うと、サダムは大嫌いだと言うんです。髭を剃ればいいのですが、剃らないためにうさんくさい汚いオッサンに見えるからブッシュは嫌なのでしょうが、そういうふうな、理屈であって理屈でないようなことを、今のところ理由として挙げています。
 
ii 多すぎる戦争情報「作戦のリーク、国内的意見対立、米軍部の反対」
 
 ただ、アメリカがもしかしたら攻撃しないのではないかと私が冒頭で申し上げたのは、余りにも作戦がリークされ過ぎている。情報がどんどん漏れている。イン・アウトなんていう作戦もそうです。トルコとガルフとヨルダンの三方向から攻めるとか、いろいろな情報が流れてきています。アメリカが本当にイラクをたたこうと思ったら、そんな情報が漏れるような状況はつくらないと思います。もちろん、アメリカの政府内部の意見が対立しているからだと言うけれども、意見が対立したから垂れ流しにするということは、日本政府以外に、外国の政府ではないのではないかと思います。
 もう一つは、ご存じのとおり、意見の対立が余りにも目立ち過ぎている。アメリカの軍部は、こんなばかばかしい戦争がやれるか。アメリカ軍の本当の気持ちは、湾岸戦争でありありです。例えばパウエルさんが、今外務大臣という立場ですが、彼は実際の軍人なわけです。そうすると、戦争というものはいかに悲惨でリスクがでかいのか、彼が一番よく知っている。だから彼は「冗談じゃないよ」と言っているのだと思うんです。ただ、それを言い続けると自分の立場があるから、最近はトーンダウンしているのではないのかなと思います。
 
iii 協力を渋る周辺諸国
 
 それから、今申し上げたような理由で、周辺の国々は大きな経済的なリスク、自分の国内にある反米感情、戦争がアメリカのブッシュ大統領が言うように悪の枢軸であるとするならば、イラクがやられればシリアがやられ、イエメンがやられスーダンがやられ、ソマリアがやられ、リビアがやられる。そうなってくると、戦域がどこまで拡大していくのかわからないという懸念。もう一つは、そのことによって起こるであろう地域の不安定化。
 
iv 冷たい欧州諸国の反応
 
 したがって、応分の協力は、これらの国々からは非常に得ることが難しい状況にある。欧州諸国が非常に冷たい反応を示している。言うまでもありませんが、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなんていうのは真っ向から反対。シュレーダーなんて何度も何度も「おれはやらないよ。金は出さないよ」と言っているんですね。加えて言うならば、イギリスの議会が猛反対して、ブレアさんですらイエスと、なかなか言いにくい状況になってきているということだと思います。
 それは、アメリカが主張しているイラクに対する攻撃をかける明確な正当性がないということです。つまりは非常に個人的な感情の中で、それらしい理屈を並べているに過ぎない。また、戦後どうするのかということがはっきりしていないということだと思います。それから、アメリカは余りにも単純で、つまりは民主化と石油ということを一つの理屈として言っているけれども、そんなに世の中甘いものじゃないよと。少なくとも二百年の歴史のアメリカとは、ヨーロッパの国々は違うんだということだと思います。
 戦後処理が結局のところは欧州に任されるのではないか。アフガン戦争をやった後、アナコンダ作戦でうまくいったとアメリカは言って、「イギリスさん、どうぞ」と言ったんです。イギリスだってばかばかしいから千五百人派遣するところを五百人ぐらい派兵して、次に「おまえやれよ」とトルコに回しました。ところがトルコがアフガンに派兵して金をもらっていないんです。それで、トルコの軍部では冗談じゃないという気持ちがあるのです。
 つまりはイラクの場合も、アメリカが単独でもやるよと言っても、壊した後は結局欧州や日本が金を出すのかなということだと思います。日本に対しても、応分の協力をしろとは言わないだろうけれど、戦後処理としては応分以上の協力をさせて、その結果として戦後再建はアメリカの業者がばんばんとっていくということが考えられるのではないかというふうに思います。
 
v 遅々として進まない戦争準備
 
 どうも戦争の準備が、来年の一月、二月という割には進んでいないのではないかという気がいたします。これはアメリカ人から聞いたんですが、もし戦争ということになれば、アメリカの港湾は大忙しになる。ところが実際はそうなっていないと言うんです。ただ、オランダの船会社が八隻の船をチャーターされたという話があります。それから、ガルフに向かって一部、武器・弾薬その他が船に積まれてアメリカから出港したという情報はあります。しかしながら、どうなのかなと。
 今二十万から二十五万人の軍隊で戦うのだというふうな言い方をします。果たして、これが十分な数なのかということです。それから最近出てきたのは、五万から八万の軍隊で大丈夫だよということ。まあ珍説中の珍説でしょうけれども、そうやって考えてみると、実は、口角泡を飛ばして、ものすごく騒いでいるけれども、アメリカにはほんとうはやる気がないのではないのかという気がしてなりません。







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