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v クルド国家は誕生するか
 
 それから、クルド国家は誕生するのかということになりますが、先ほど申し上げたように、クルド人というのはイラクにもおりますが、シリア、イラン、アルメニア、トルコ等々、イラクのあのエリア、周辺地域に全部住んでいる。トータルで五千万とも六千万とも言われています。少なくともこの前見た資料では、二千三百万のイラクの国民の中の二十%から二十五%がクルドだろう。いわば四、五百万だと思うんです。僕はそんなものではないと思うのですが、いずれにせよ、公式にはそれぐらいの数なのです。これが一体となって国家をつくった場合には、石油地帯も含まれてくることですから、とんでもない国家になり得る。そんなのはやばくてやっていられないというので、当然周辺の国々には、イランではタラバーニというリーダーのPUKという組織をサポートしていますが、イランにしろトルコにしろイラクにしろ、あるいはシリアにしろ、誰もこれをサポートして国家をつくるなどということは考えないであろうと思います。
 なおかつ、ではそのクルドの人たちがサダム・フセインをたたくことを望むのかということなりますが、この前ある商杜の人に伺ったのですが、病院をつくったのだそうです。南部のシーア派のところは発電機が壊れて、暑いからと窓を開けたら病院の医療機械がみんな砂をかぶって壊れてしまった。スンニ派、要するに中部のエリアはそこそこに修理している。ところが、北部のクルドのところは、ぴかぴかに磨いてあって、ちゃんと作動しているというんです。何でかというと、イラクに流れていく物資の通行税を取っているわけです。もう一つは、援助が入っている。それからもちろん、電気はイラクの中央政府から流れてくる。教科書も、この間クルド語とアラビア語の辞書を今度発行するというようなニュースが出ていました。
 つまりはクルドというのは、いろいろな文句を言いながらも、イラクの中央政府の庇護のもとにある。一番言いたいことが言えて、金が入ってきて、いい状態であって、これをぶち壊す必要があるのだろうか。クルド人は、実は自分たちの国家ができるということを必ずしも望んでいない。しかもクルドの中には、今は刑務所にぶちこまれていますが、かつてトルコと対抗したオジャランという人のPKK、クルド労働党のグループ、それからPUKというイランがサポートしているタラバーニのグループ、それからKDPといってバルザーニが中心になっているグループがあります。こんなのが一体となって果たしてうまくやっていけるだろうか。これも非常に難しい問題だと思います。つまりは、実はクルドは現状維持が一番いいのではないかという気がしております。
 
vi シーアはどうなる
 
 シーア派はどうなるのかということは、シーア派がもし分離独立するようなことになれば、これはとんでもない脅威になります。かつて湾岸戦争のときに、結局シーア派が立ち上がります。アメリカが煽ったのです。クルドやシーアに立ち上がれと言っていたのですが、結局のところは、アメリカは、それをサポートしなかった。それはなぜかというと、イラクの南部のシーア派がもし分離独立するようなことになった場合には、これはシーア派のエリアですから、イランのシーア派と呼応します。そうすると、イランの百万の陸軍が陸上を移動して湾岸に入ってくる。クウェートやサウジアラビアに攻撃してくる危険性があるからです。これはアメリカの軍隊をもってしてもなかなか、とてもではないけれど押さえ切れないでしょう。大変な脅威になるのです。
 したがって、シーア派が分離独立するようなことを許す、あるいはサポートするとするならば、それはイラン以外のいずれの国でもないというふうに私は思います。
 したがって、つまりはクルドも大きな変革を望まない、シーアの連中も周りが許してくれないということになれば、イラクが戦後も統一した国家であるであろうということはほぼ間違いないと思います。現実にそうしたことをいろいろな反体制派の人たちが口にしています。しかも、反体制派の人たちは、シーア派のリーダーのハキームさんを初めとして、イラクに対する軍事行使はぜひやめてほしいという言い方をしているのは、今まで申し上げてきた話からご想像いただけるのではないかと思います。







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