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B 『イラクはどうなる』
i BC兵器使用の可能性
 
 ところで、イラクはどうなのかということになりますが、イラクにはアメリカが言うところによるとBC兵器、ウイルスとケミカルですね、細菌兵器と化学兵器があるだろう。細菌兵器に関しては、九・一一以降、マタハリのような女の美人科学者がアメリカのラボからかっぱらっていって、それを培養して炭疽菌をつくったのだという情報がありました。この情報は、実は十年以上前に流れていた情報です。去年の話ではない。もう十年以上前に、アラブの週刊誌がすっぱ抜いた記事だったんです。だから、そんな話は十年も前からあった話で、別にめずらしい話ではなかったのですが、いずれにせよ、ケミカルウェポンについては、ハラブジャというところだったと思いますが、イラクの北東部のクルド地域で使った経緯がありますから、C兵器があることは事実です。
 そうなってくると、アメリカがもし一方的なアフガンで展開したような空爆をするとすれば、あるいはアメリカの陸上部隊が入ってくるという前提があるとするならば、イラクのサダム・フセイン大統領は当然のことながら北部のクルド、南部のシーア派の地域でC兵器とか、もしB兵器があるとするならばB兵器を使う可能性は多分にあるだろう。ということは、シーアやクルドの人たちは、一番最初に被害を受けるわけですから、彼らが果たして戦争を望むだろうかということになってくるわけです。
 
ii アメリカは戦術核使用か
 
 アメリカはイラクが地下三階くらいにいろいろな設備をつくっている。例えば科学兵器の貯蔵やラボ、あるいはサダム・フセイン大統領がイギリスの野党の人と会ったときに、地下にあるオフィスで会ったというのは当然のことだと思います。なぜならば、北朝鮮がイラクとの関係があったからです。北朝鮮というのは、地下にいろいろな建造物をつくるのが得意ですから、当然イラクの中にもあるはずです。となると、これを壊すためには、やはり小型の戦術核のようなものを使わざるを得ないだろう。戦術核を使ってくるとなれば、イラク側はそれに対応してBC兵器を使うだろうということになります。
 
iii 国民の犠牲
 
 そうなった場合には、例えば大きな犠牲がイラクの中に出るということです。アメリカは、英語で言うとかっこいいんですが、イン・アウト作戦というのがある。要するに、あるところにバカバカーンと爆弾を落とす。そこの連中はみんな死んでしまう。そうするとそこに入っていって、みんなで輪になって外側に向けて機関銃を撃つ。アラモの砦の戦いみたいな感じで、アメリカの映画と全く同じなのですが、そんなことをやったら袋だたきにあうのは当たり前です。ところが、アメリカでは、そんな馬鹿馬鹿しいことがまことしやかに言われている。そして、アメリカが主張するように、あそこにケミカルウェポンとビールスウェポンがあるとするならば、そんなことをしたら、それで被害を受けるのは、イラクの国民であると同時に、そこに落下傘で降りていったアメリカの精鋭です。
 だから、アラブが非常に矛盾した話をすると冒頭で申し上げましたが、アメリカの言っていることも非常に矛盾していると思うのです。つまり、こういう危険な兵器を持っている国に対して爆撃を加えるということは容易ではないのです。その後で必ずいろいろな問題が起こっているということです。
 例えば、湾岸戦争のときだって、劣化ウラン弾を撃って、放射能によってイラク人がものすごい犠牲を受けていますし、アメリカやイギリスの兵隊も受けています。そして、つい二、三週間前には、イギリスの従軍兵士が放射能によって、何かの病気で死んだというのが流れていましたが、そういう状況ではないかと思います。
 つまり、アメリカがもし攻撃をするならば、アメリカの兵隊が犠牲になると同時に、バクダッドでは五百万のイラク国民が炭化してしまう。焼かれて炭になってしまうということです。
 では、アメリカが、もし戦争で成功するならばどうなるかというと、あの国の中には国内の混乱が確実に起こるだろう。もう一つは、いつも言っているように、明確な戦後の構想がアメリカにはでき上がっておりません。アメリカが、例えば反イラク体制六団体を集めて会議をやるなんて言いました。ところが、アメリカは全く信用していません。今朝電車の中で読んだのでも、ロレックスをしてシルクのスーツを着た連中が、イラクの反体制派の連中である。こいつらのロレックスとシルクのスーツは、誰が金を出したのだ。アメリカじゃないか。アメリカ側はというと、よれよれのウールのスーツを着て、タイメックスのアメリカ製の時計をしている。ばかばかしくてやっていられないというのが実態です。
 そうなると、反体制派の連中を使って、新しいイラクを民主的な体制にしていこうということを、ブッシュ政権がまじめに考えているかというと、僕はノーだと思います。
 
iv イラク分断か新独裁か
 
 アメリカがもし勝利した場合ですが、イラクは分断されるのか、あるいは新しい独裁が生まれるのかということなのですが、イラクというのは一応は三つに、クルドとスンニとシーアというふうに分かれる。ところが、それだけ単純ではなくて、クルド、シーア、スンニ、トルコマン、カルデアン、アッシリア、ヒッタイト、アルメニアンとか、いろいろな人種がごちゃごちゃになっている。例えば皆さんご存じのアジーズという外務大臣。あの人はクリスチャンですよね。どちらかというと人種の違った人です。
 そんな人たちが、当然のことながら、もしサダムが落ちてバース党体制が完全に崩れてしまえば、それぞれの権利を主張してくるわけです。同時に、今度は周辺の国々やヨーロッパの国々がこれらのそれぞれのグループに対してサポートすることによって、自分たちの権益を広げようと思う。そうなるとイラクの戦後の状況というのは非常に混沌とした状況にならざるを得ないであろうと思います。
 そうすると、結局のところは、サダムといいとこ勝負の独裁者が生まれてくる。そして、先ほど申し上げたように、ムバラクが民主的な政策をとったときには「ラ・バ・シ・キ・リ」、笑う牛といってばかにされたけれど、独裁色を強くしたら尊敬されたという話と同じような状況が起こってくる。何のためにサダムという独裁者をつぶして新しい独裁者を生み出す必要があるのかということではないかと思います。







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