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iv サウジアラビア「経済、難民、対米関係、次は自国」
 
 サウジアラビアの場合もやはり経済的に・・・。実は今年になって、私がアメリカはイラクに攻撃をしないのではないかなと思った幾つかの理由があります。一つは、サウジアラビアとイラクのパイプラインというのは、今まで通じたわけです。イラクの石油を、イラン・イラク戦争のころにはペルシャ湾ではなくて紅海サイドに通していたわけです。それがどうも再開するという話がある。イラクとサウジのボーダーが開かれる。サウジアラビアの建設業者が大量にイラクの中で仕事をとり始めているというのもありました。
 したがって、こうした経済関係を見ていますと、基本的にはアメリカの許可なしにサウジがそんなことをやるわけがありません。そうすると、アメリカは暗黙の了解をしたのではないか。そんなことを考えています。
 いずれにせよ、サウジアラビアにとってもイラクというのは非常にいいマーケットであることは事実です。皆さんはサウジアラビアというと、ものすごいお金持ちの国家だと思うでしょう。確かに、第一次オイルショックが起こったころは、たしか一万五千か二万ドルぐらいのパーキャピタだったですね。ところが、今は八千ドルぐらい、半分、あるいはそれ以下に下がってきている。そして、中には非常に貧しいサウジ人がたくさん出ている。だからサウジアラビアイコール石油の国で、お金がジャブジャブというのは、ほんとうに二昔前の話だというふうにご理解いただきたいと思います。そういう中では、イラクというのは非常にいいマーケットだということです。
 やはりこの国の場合も、難民が流れてくると思う。あの湾岸戦争のときに、実際にイラク人の難民が流れ込んで、非常に長い間サウジアラビアにとどまっていたという経緯があります。もう一つは、サウジアラビアとしては非常に対米関係において複雑でありましょう。もしイラクに対する攻撃を許すならば、アラブからは裏切り者とされます。アメリカに対してノーと言えば、アメリカとの関係が悪くなるのです。
 実際に、この前ランドコーポレーションというペンタゴンの系列の研究所が、サウジアラビアは敵国ではないか。この前のニューヨークタワーのときだって、ほとんどがサウジ人ではないか。なおかつ、アルカーイダなどというテロリストに金をくれているのはサウジ人ではないか。アフガンの攻撃のときは、国に資するための基地を使わせてくれなかったではないかと。そこで我々はサウジアラビアを敵視すべきであるという考え方が出てきているのですが、特にサウジアラビアはまさにハムレットの心境になっているということがあると思います。
 そして、冒頭で申し上げましたように、若くてハンサムで背が高くてネイティブのアメリカンイングリッシュをしゃべるような、そういうリーダーがアラブの国家のリーダーになるべきだ。よたよたの、棺桶に一歩半足を突っ込んだアブドラなんかに国王になってもらっては困るというような感情が多分にアメリカにはあると思うんです。そうすると、強引にでも、若いリーダーをサウジアラビアのトップに据えたいという気持ちがあるということです。
 ただ、それはサウジアラビアのロイヤルファミリー、王家の中では、まさに秩序を乱してしまう。がたがたにしてしまう危険性、内紛を起こす危険性を伴っているものです。
 そういう中で、今ダークホースとして登場してきたのは、私はサルマンかな、サウード・ファイサルかなと思っていました。実はサウジアラビア事情に非常に詳しい人が、今日この会場にお見えです。ご迷惑だと思いますので、あえて名前は申し上げませんが、彼は、サウード・ファイサルというのは内外ともに結構評判がいいんだよという話をしていらっしゃる。外務大臣です。
 つまりは、明日は我が身ということが、このサウジアラビアの中でも今起こっているということは事実です。
 
v エジプト「経済、盟主としての立場、国内政治不安」
 
 エジプトに関して申し上げますと、エジプトではまさに、戦争成金ではないですが、国連による制裁成金というのが今ごろごろ出ています。この前聞いた面白い話は、三十幾つのエジプト人で、ギリシャヘ行って女を買っているプレイボーイがいたりするんです。こいつはエジプトで、ミニバブルの中で大金もうけをして、その後ぽしゃった男なんです。さんざん遊んでいたら、あるナイトクラブでウダイと言う名のサダム・フセインの長男坊と会った。おまえ、おれと同じ苦労人じゃないかということで仲良くなった。そうすると、そのウダイから仕事の権利をもらって、彼はぺーパーカンパニーであっという間に億万長者になった。そして、彼がエジプトの国内で犯した経済犯罪は、全部ムバラク大統領がイラクとの関係を重視してリストから消してくれたという話を聞きました。
 つまり、そういう、イラクとのビジネスが非常に面白い。まさにアラジンの魔法のランプのような話が幾つもあります。それだけ、実はイラクとエジプトの経済関係が今深いということです。それがぽしゃってしまった。多分、今エジプトの対外輸出のナンバースリー、三本指ぐらいにはイラクが入っているはずです。そういう事情があります。それが破壊されたとするならば、イラクがもし攻撃されたとなれば、これは大きなダメージがある。そして、その戦後復興があるではないかということを考える。でも、戦後復興は誰が取るのか。言わずもがな、アメリカが取るわけです。そうすると、エジプトにはほんのかけらぐらいしか来ないという話ではないかと思います。
 エジプトは、イラクに対するアメリカの攻撃については、アラブの盟主としての立場があります。当然のことながら、アメリカに幾ばくかのクレームをつけながら、何とかいい方法を選択していきたいということがあるでしょう。
 それからもう一つは、国民の感情があります。国民は、先ほど申し上げたように、ビンラーデンがスーパースター、英雄です。同時に、アメリカに抵抗を続けるサダム・フセインは決して悪人ではありません。彼は英雄の一人です。エジプトを初めとして、多くのアラブの人たちが、実はイラク人との間に婚姻関係を結んでいるということがあるのです。そうすると、イラクに対して爆弾を落とすということは、同時にエジプトに爆弾を落とすということであり、シリアに爆弾を落とす、あるいはパレスチナに爆弾を落とす、ヨルダンに爆弾を落とすのと同じ結果を招くというわけです。つまりは、自分の娘や息子が、イラクでアメリカの爆弾によって炭にされてしまうという現実があるわけです。
 したがってアラブの国の人たちが、イラクに対する攻撃を望まないのは、そういった事情もあるのだということです。つまりは、イラクの周辺の多くの国々にとって、アメリカのイラクに対する攻撃は、必ずしも歓迎すべきものではないというよりも、それ以上にやってほしくないということだと言えると思います。







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