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ii ヨルダン「経済、アラブ関係、難民、体制不安」
 
 イラクの南側に隣接している国、ヨルダンについて申し上げますと、同じように、実はこの国はイラクから無償の石油を提供してもらえ、有償でも非常に安い価格で石油を買っています。ヨルダンの中にザルカというエリアがあって、そこには大きな精油所がありますが、そのザルカの精油所にばんばん持ってくるんです。それを精製してイラクに送り返している。その中では相当部分の、帳簿に載らない油があるということがあります。
 イラクが実は今、非常に大きなヨルダン製品のマーケット、或いはヨルダンを経由して入る外国製品のマーケットになっているということがあります。したがって、経済的なデメリットは大きなものがあります。イラクが破壊された後、果たしてアメリカや湾岸の産油諸国がヨルダンにそれを保証してくれるだろうか。私はそれだけの能力はアメリカにも湾岸の国々にもないだろうというふうに思います。
 ヨルダンの場合も、難民が大量に流れ込みます。同時に、ヨルダンという国は、「ムスリム同胞団」というイスラムのある種の原理主義の運動が非常に強い国です。それからパレスチナの問題を抱えている。パレスチナにとっては、イラクのサダムが唯一、エルサレムを武力で解放してくれるアラブのリーダーではないかという幻想を抱いております。ということは、イラクに対する攻撃をヨルダン政府が認める、あるいは支援するということになれば、当然のことながら、ヨルダンのアブドラ体制はがたがたになる危険性があるということです。
 
iii シリア「経済、難民、次は自国」
 
 それからシリアの場合ですが、やはり経済的に大きなデメリットを受けます。シリアは現在、イラクの石油をいわゆる密輸して、自分の国の石油であるという形にして輸出をしています。そして、それをアメリカが実は黙認しています。アメリカ系の石油会社が大量にこれを買っているということも、もう一つの事実です。
 シリアの製品が当然イラクに流れています。つまりは、経済的なシリアとイラクの結びつきは非常に強いということです。
 もともとはバース党という同じ政党の政権で、要するに親族の争いみたいに犬猿の仲だったのですが、ここにきて非常に関係がよくなっています。それはなぜかというと、シリアのアサド大統領、バッシャール・アサドは、サダムの次はおれがやられるのではないかという不安を抱いています。なぜならば、イスラエルがことあるごとにシリアを、イラクと並ぶ非常に脅威を与える国家であるという言い方をしているからです。
 やはりこの国の場合も難民が入ってくるでしょう。今、日本のイラク大使館にいるスタッフの一人は、シリアとイラクのボーダーの出身だそうです。大体シリア人というのはハンサムな男が多いのですが、非常に、ネコのようなタイプです。大人しくて執念深くて思慮深い。「あんた、失礼だけどシリアの近くじゃないか」と言って、「そうだよ。何で」と言うから、「いや、あんた頭よさそうだもの」と言ったら、「実はそうなんだ」というような話でした。
 ということはどういうことかというと、シリアとイラクの国境エリアに住んでいる人たちは、実は親族縁者とか同族がものすごく多いんですね。イラク人がシリアに流れ込もうと思えば簡単に流れ込める状況なんだと思います。
 先ほど申し上げたように、シリアの場合も、イラクがやられた後は自分の国がやられるのではないかという不安を非常に強く抱いているということがあります。だからこそ、今シリアとイラクがことあるごとに・・・。例えば、一昨日だったと思いますが、サダム・フセイン大統領とシリアのバッシャール・アサド大統領が、ボーダーの町で秘密の会議をやったということが流れています。それを流したのは、おもしろいことにヨルダンの情報筋なんです。ヨルダンがどういう意図を持ってこれを流したのか、まだ考えておりませんのでご説明できませんが、そういうことがあります。そこまで、つまりイラクとシリアはせっぱ詰った状況に追い込まれているということが事実だと思います。







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