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三 アメリカは攻撃するのか
A 『周辺諸国への影響』
 
 さて、だんだん本題に近くなってきますが、そこでアメリカは攻撃するのだろうかということなのですが、攻撃をする場合には、当然のことながら、アメリカが一国ですべてを決定し、すべての行動を起こすわけには行きません。なぜならば、アメリカはイラクから非常に遠い距離にあるからです。そうすると、アメリカがもし軍事行動を起こす場合には、それに対して周辺の国々が基地を提供したり、兵站を許可したり、場合によっては参戦してくれ、そしてまた、多くの国々がアメリカの軍事行動を支持するということが必要になってくると思います。
 そこで、アメリカが期待している、いわゆる協力、便宜供与をしてくれるだろう国々というのが、トルコ、ヨルダン、サウジアラビア。あるいはカタールとかバハレーンという国もありますが、それらの国々には、アメリカが軍事行動をとることに対して、どのようなメリット、デメリットがあるのだろうということを考えてみる必要があると思います。
 
i トルコ「経済、アラブ関係、難民、クルド国家、国内対立」
 
 簡単にご説明申し上げますが、トルコの場合には、経済的に大きなダメージを受けるであろうと思われます。なぜならトルコはイラクの石油の搬出地に当たっているわけです。一九九〇年の湾岸危機が起こるまでは、パイプラインを引かせ、港を設置しているだけで、トルコには何十憶ドルというキャッシュが転がり込んでいました。同時に、これと付随したいろいろな経済的な取り引きがありました。しかしながら、あの湾岸危機によって、その利益あるいは収入は途絶えたままになっております。
 アラブではありませんがトルコは中東の一国であります。もちろん、トルコの人たちは、我々はEUに近いのだという言い方をしますが、いずれにしろ、地域的には中東なわけです。そうすると、アラブの同じイスラム教徒の国々が、トルコが全面的にアメリカに支持を送った場合、どのような反応が起こってくるのか。例えばアラブとの経済的な関係に大きな影響が出てくることが考えられるわけです。
 トルコには今でもクルドの難民やその他のイラクからの難民が流れ込んでおりますが、もし戦争という事態が発生した場合には、トルコには大量の難民がイラクから入ってくるであろう。この前、確か二十五万人分のテントを用意しているという小さな記事がありましたが、二十五万人が一日に一人一ドルずつご飯を食うと二十五万ドルなんですね。十日食うと二百五十万ドル、百日食うと二千五百万ドルということで、大変な出費であろうというふうに思われます。もちろん、難民の中にはクルドの人たちが大量に含まれ、彼らが反トルコ政府の動き、PKKというのがありますが、そうした動きをしてくる政治的な危険性も出てくるということです。
 もしアメリカが幸いにして勝利した場合、もしかしたらアメリカはクルド人に対して国家を与えるのではないかという大きな不安があります。なぜならば、トルコの国民の中にはクルド人がいるからです。そうすると、イラクのクルド、トルコのクルドが一体化して行動を起こしていく、そういう危険性があるということが懸念されています。
 そうしたいろいろな問題が起こってくるのと同時に、トルコの中の親米派と反米派、あるいはイスラム派との間に、国内的なトラブルが拡大していくという危険性があります。したがって、トルコは余程の政治的な安定と経済的なメリットを与えられなければ、このアメリカの攻撃に対しては賛成しかねますというのが本音だと思います。
 先般、七月に行ってきたときに、トルコの軍の中には明確な、アメリカに対する非常に冷たい反応があるということを、軍と非常に親しい関係の人から聞いてまいりました。
 表向きは、例えば、先にアメリカがトルコに対して借款を提供するとかいろいろなことを言っています。ハイパーインフレの中で、トルコはうんと言うだろうと、必ずしもそう簡単ではないという状況があるということです。







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