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C アラブの感情
 
 いずれにせよ、アメリカはビンラーデンというスーパースター、最大の悪役をつくっていきます。そしてソビエトなき後、アメリカの独走、まさに唯一のリーダーとして、権力者としての行動を起こしていきます。
 そうした中で、アラブの人たちが最近思っているのは何なのかというと、アメリカによって世界は支配されている。そして、そのアメリカの政治を動かしているのは、実は我々の共通の敵であるユダヤ人であるという考え方が強烈にあるのです。アメリカは明確に我々イスラム教徒を敵視しているという考え方があります。ご存じのとおり、アフガニスタンで結局何が起こったかというと、彼らの支持するビンラーデン及びその一派であるアルカーイダのメンバー、あるいはタリバーンというグループが、アメリカによって殺戮された、虐殺されたというとらえ方です。あげくの果てにカルザイという、いってみれば傀儡の人間がアフガニスタンの新しいリーダーになった。そして今やまさにアメリカは、アラブの首脳を含めて片っ端からアメリカの好みの人物をそのトップの座に据えようと思っている。
 カルザイがアフガニスタンのリーダーに座ったときに、彼らが何と言ったかというと、背が高くてハンサムで、アメリカンイングリッシュをあたかもネイティブのようにしゃべり、スーツが似合い、ハンサムである。これがアメリカの好みの第三世界の理想的なリーダーであるという考え方です。現実に、カルザイというのは私に比べると少しいい男のような気がします。身長も十センチぐらい高いような気がしますが、そんなことを言っており、まことしやかに浸透する。つまりは、アラブの多くの国々のリーダーが、アメリカの好みに合わないという理由で、今後変えられてしまうだろう。例えばサダムがその典型です。カダフィもその典型です。あるいは、ヨルダンの王家の後継の問題もそうです。ハッサン・ビンタラールという皇太子がいらしたのですが、大変すてきな声で、演説のうまい人で博識です。ところが、彼はやはりイスラム的な思想を持っている。そうするとアメリカのお好みではなかったというふうに、アラブの人たちは一般的に理解しています。したがって、大衆がそうであると同時に、アラブ諸国のリーダーたちは、サダムに今起ころうとしていることが明日、自分の身に降りかかってくるかもしれないという、非常に強い懸念を抱いていることは事実です。
 アラブを再分割するのではないか。ご存じのとおり、日本のマスコミにもイラク三分割というのがいろいろ出てまいります。今に始まったことではなくて、幾つものアラブを分割統治するという、ディバイド・アンド・コントロールという考え方が、今まで七十年代、八十年代、九十年代と通じて出てまいりました。
 例えば、湾岸危機が起こる 一九九〇年以前の段階では、イラクとヨルダンとイエメンとエジプトが一体となって、サウジアラビアを分割してしまおうという考えがありました。あるいは、ご存じのように、イラクをクルド、スンニ、シーアの三つのイラクに分割するのだという考え方もありました。あるいはレバノンという小さい国、あの国も、クリスチャンのエリアとイスラム教徒のエリアに分けよう。あるいはシリアを同じように、アラウィーというシーア派の一派があるのですが、そのアラウィーの人たちのエリアとスンニ派のエリアに分けよう。そういった考え方がいろいろあります。それがもう一度、実はアラブの中では今真剣に懸念されているということです。
 もう一つ、去年から今年にかけて非常に目立ち始めている危険な兆候というのは、ヨーロッパやアメリカの博識の学者たちの間から、結局のところ第三世界の独立を認め、自分たちの手に委ねてきたけれども、「民主主義」は一つもうまくいっていないではないか。「経済発展」もうまくいっていないではないか。そうである以上は、我々が行ってもう一度支配をし、彼らに「民主主義」とは何たるものなのか、「経済発展」とはどういうふうにしてやるものなのかということを教えなければならないという、植民地支配をもう一回やろうという考え方が出てきていることも事実であります。これは実際に、そうした内容の論文が最近たくさん姿を見せつつあります。
 そうした全体の懸念が、アメリカに対する非常に強い不満と不安、敵意を抱かせているのではないのかなというふうに思います。







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