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2002年8月15日開催 新規範発見塾「アメリカはイラクを攻撃するか」報告者/佐々木良昭(東京財団シニア・リサーチ・フェロー)

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団 注目度注目度5


B ソ連の崩壊とイスラム敵視「ビンラーデンの登場」
 
 もう一つは、ソビエトの崩壊が一九九一年に起こります。そのことは、もう一方においては、アメリカ・ヨーロッパという西側の先進諸国が共通の敵としてとらえていたソビエトが崩壊するということですから、ソビエトなき後のアメリカとヨーロッパの結束の核となるべきものが必要になってきます。特に、複合多民族国家、多宗教国家であるアメリカは、何らかの脅威を常に自分たちの念頭に置いておかなければ国民が一丸となることができないという、非常に不幸な国家です。われわれ日本人は、何だかんだ言いながら、やはり日本人だという意識があって、何の特別なものがなくても必要があれば一体化できるのだと思いますが、アメリカではそうではありません。
 そこで、アメリカが考えたのは、あるいはヨーロッパも同じようなことを考えていました。イスラム教というものを我々の共通の敵にしよう。
 サミュエル・ハンチントン氏が書いた『文明の衝突』という論文がありました。実はあの論文が『FOREIGN AFFAIRS』夏のエディションで発表される前の段階で、僕は以前勤めておりました拓大の海外事情研究所で、四月ごろだったと思いますが、『イスラムは欧米の敵か』という短い論文を書いております。つまり、その段階で既にアラブ世界の中には、どうもキリスト教世界は我々を敵視している、いろいろな形で我々を明確な形のポストソビエト、敵としてとらえつつあるようだという、被害妄想が拡大していました。
 それをまとめて書いたのがその論文だったわけです。その後、ハンチントン氏の論文は非常に大きな影響力を持っています。私の論文ではなくてハンチントン氏の論文が大きな影響力を持っていったわけです。
 そして、とどのつまりは現在のような状況に至っております。ただ、そのサミュエル・ハンチントン氏も、現在のアメリカによるイラクに対する攻撃には必ずしも賛成しておりません。これはとんでもない世界破壊につながるのではないかという、深い懸念を発表しております。
 そういう流れの中で、ビンラーデンというスーパースターが出てまいります。ビンラーデンというのはイエメン系のサウジアラビア人大財閥、大富豪ということであり、アフガンのソビエトからの独立の闘いの中の一人の英雄だったのですが、アメリカはこの人物をいわゆるスターに仕上げることによって、イスラムに対する敵視の感情を世界的にあおっています。
 ここも実に面白いところなのですが、ビンラーデンはお金がジャブジャブあって、イスラムという非常に古い考え方を持つ、おくれた、嫌らしいサウジアラビアの人間です。しかしながら彼は膨大な金を持っている。アメリカ人の最も望む敵なのです。そして彼は一九九八年のケニヤ・タンザニアのアメリカ大使館爆破事件の張本人とされています。これにはいろいろ裏の話があります。私は彼ではないと思っています。ただ、明確に彼ではないという証拠がないというところが実に痛いところなのですが、彼にはそれだけの能力はないのではないか。あれだけの破壊を生み出す爆薬というのは、通常の人たちが操作できるものではないのではないのかという考え方を持っております。多分に私がアラブ寄りであるということも、その判断の一つの根拠かもしれません。ただ、感情としては、私はそう思っています。
 おもしろいのはこのビンラーデンについてなのですが、ついでに申し上げておきますと、アラブの人たちはビンラーデンに対して二つの相反する考え方を持っています。例えば、九・一一事件のときの反応なのですが、アラブの人たちはみんな、スタンディングオベーションではないですが、まさに立ち上がって拍手をしたのです。ビンラーデン、よくやった、よくやってくれた。多分、日本でも、七十歳以上の人の中には、ビンラーデンよくやったと思われる方がいらっしゃると思います。私も、あのニューヨークの世界貿易センタービルの壊れた鉄骨を見たときに、広島の原爆ドームとイメージがダブりました。
 いずれにせよ、アラブの人たちは、よくぞ憎きアメリカをたたいてくれたという感情と同時に、もう一方では、そんなひどいことをするはずがない、その能力があるはずがないという、非常に矛盾した考え方を持っています。非常におもしろい傾向として言えることは、アラブの人たちは、二つの全く違うことを、あたかも自然のようにして受け入れる部分があります。例えば、歴史的なとらえ方もそうですが、イスラム原理主義というのがよく出てきます。イスラム原理主義というのは預言者ムハンマドの時代に戻るのだろう、では預言者ムハンマドというのは何年ごろにいたんだというと、六二〇年の人です。十五世紀、十六世紀前の人なんです。ところが、イスラム教徒の人たちに言わせると「自分の印象の中で最も強烈なものが、実は歴史的には一番浅い」というとらえ方をするのです。我々日本人だったら、例えば何年に何があり、何年に何があると、時系列の上に出来事を重ねながら歴史をとらえています。ところが、彼らは、感情の中で歴史をとらえている。そうすると、歴史上の出来事が実は正しく並んでいないという部分があります。
 それと同じように、実はビンラーデンに対する判断、感情も、非常に複雑に相矛盾する部分があり、同時にそれはアメリカに対しても同じようなことが言えるのだろうと思います。







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