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マンガ・カリキュラム事業:早稲田大学国際部寄附講座報告書「マンガとアニメ:日本文化・社会の表現」

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


声優の仕事とは
―声優の醍醐味―
野沢雅子(声優)
「ゲゲゲの鬼太郎」「魔法使いサリー」「タイガーマスク」「いなかっペ大将」「怪物くん」「ドラゴンボールZ」「デジモンテイマーズ冒険者たちの戦い」他多数。
 
 野沢―はじめまして。よろしくお願いします。私は英語が得意ではないので、日本語でお話をします。みなさんの質問にお答えしますので、質問をどうぞ。
 
 学生―どのようにして声優を始めたのですか。
 
 野沢―私は、テレビの最初から声優という仕事を始めて今まで続けていますが、声優になりたいと思ったことはありませんでした。日本でテレビが始まったときには、声優という仕事はありませんでしたし、もちろんアニメーションもありませんでした。最初は洋画の吹き替えをしましたが、題名は覚えていません。
 洋画が日本で始まったときに少年が登場しましたが、当時は生本番だったのでNGは許されず、子どもは危ないので声優には使えませんでした。安心して使えるのは青年ですが、変声期を過ぎているので声が低くなってしまいます。少年が太い声で「パパ」なんて言っても可愛くないでしょう。ではどうしたらいいのか。その時のプロデューサーは、女性の声帯が少年に一番近いのではないかと考えて、オーディションをしたのです。
 劇団の収入源はマスコミに頼るしかなかったので、私は劇団から言われてオーディションを受けたところ、幸か不幸か通ってしまいました。かといって、そんなにうれしいということはありませんでした。劇団の人間ですから舞台に出られればうれしいですが、声優になりたかったわけではないので、受かったのだから一生懸命やろうというぐらいにしか思いませんでした。
 声優の仕事は、レシーバーで外国語のセリフを聞きながら、それに合わせて日本語のセリフを言うのです。生本番で、しかも外国語のセリフの間にぴったりと日本語のセリフを入れなければなりませんが、そんな訓練は受けたことがありませんから大変でした。私は当時まだ10代でしたから、恐いもの知らずでやれましたが。年齢が高い人ほど、緊張感が大きくとちりが多かったです。
 最初にテレビで洋画を放送したとき、とても評判が良かったのです。なぜなら、お年寄りにも洋画ファンはいますが、年をとれば反射神経が鈍って字幕を読むのが間に合わなくなるので、日本語で聞けるのが良かったのです。お茶の間で、無料(ただ)で、チャンネルさえひねれば、外国の人が日本語でお芝居している洋画が見られる。その頃、お年寄りが、「最近の外国人は日本語がうまくなったねえ」と言ったそうです。そうじゃなくて、私たちが苦労して声を入れていたんですけれどね。
 そんなふうに評判が良かったので、テレビ局は洋画をたくさん取り入れましたが、不思議なことに少年が登場する映画が多かったのです。使う側の心理として、1回やった人には安心感があるので、私は決してとちらないわけではないけれど、「野沢さんはやったことがあるから」というので少年役が回ってきました。その頃は顔出しのドラマもやっていたのですが、主役ではないですから、声優の仕事とぶつかるとドラマのほうを降ろされてしまって、自然と声優の仕事が多くなったというわけです。
 
 学生―いろいろな声を使い分けるのが大変興味深いので、鬼太郎、鉄郎、孫悟空などをどんなふうに変えるのか実演をお願いできますか。
 
 野沢―では鬼太郎から。(鬼太郎の声で)「父さん、誰か来たみたいですよ。誰でしょうね。帽子をかぶっていますよ」。(鉄郎の声で)「すみません。ぼく、メーテルと999号に乗って来たんですけれど、ここはなんていう星ですか」。(鬼太郎の声で)「ここはゲゲゲの鬼太郎っていう星です」。(鉄郎の声で)「そうですか。また来ます」。(鬼太郎の声で)「父さん、また誰か来ましたよ」。(悟空の声で)「オス!おら悟空だ。おめえ誰だ」。(鬼太郎の声で)「ゲゲゲの鬼太郎っていいます」。(悟空の声で)「そうか。おら、孫悟空だ」
 
 学生―声を演じるとき、こういう声を出すようにという演出に従うのでしょうか、それとも自分でこういう声にしたいという希望を出すのでしょうか。
 
 野沢―希望を出すというわけではありませんが、オーディションのときに悟空なら悟空の絵を見ていて、私ならこういう感じだっていうのはあります。だいたいマイクの前に行くまでに悟空になり切っていて、それで出た第一声が、プロデューサー、原作者、ディレクターなどの考えと一致したわけです。向こうから注文が出されることもありますが、私は今まで一度も注文されたことはありません。
 
 学生―孫悟空の言葉には方言のような独特の言い回しがありますが、これは台本にこうしゃべるようにという指示があるのですか、それとも野沢さんが考えたものですか。
 
 野沢―指示はありません。私が作りました。ほとんどの場合、役者が作ります。ただ、「いなかっぺ大将」の大ちゃんは東北から出てきたので、(東北訛りで)「ワシ、風大左エ門だス」と言わなければなりませんでした。
 
 学生―「ドラゴンボール」でご自分が一番好きなシーンはどこですか。
 
 野沢―大好きなシーンがあります。まだ悟空が小さくてシッポがある頃ですが、トイレに入っているときにレッドリボン軍が攻めてきて、ダダダダッと撃ったんです。トイレのドアにも穴があいて、私は「え、主役なのに、こんなんで死んじゃうの」と思ったんです。演出で、ドアがギーッ、バタッと開いても、出てこない。「どうしたの」と思ったら、(悟空の声で)「イッテー!」って出てきたんですよ。もう、それが大好きなんですよ。さすが悟空だと思いました。
 
 学生―声優さんが声を吹き込むときには、どういうプロセスがありますか。
 
 野沢―声優の皆さんは、原作があるものは原作を読んできますが、私は絶対に読みません。終わってから読みます。先に読んでしまうと、ストーリーがわかって新鮮さがなくなってしまうでしょう。悟空なら悟空と同じ気持ちでいたいから、スタジオに行くまで、きょうは誰と会えるのかなと。画が流れたとき初めて、会う相手やどういう展開になるかがわかるんです。闘うときも、こんなところから、こんなやつが出てきたっていう感じで。
 台本も、最近は予め渡されますが、以前はその場で渡されました。スタジオでは、まず最初に画が流れるのを見ながら、自分の役の寸法を合わせます。寸法というのは、しゃべる言葉の長さのことで、どのテンポなら画にぴたっと入るかといったことをみます。
 言葉が短いときには何かを足さなければいけないし、長いときにはカットしなければいけないわけです。私は、長めのは入れられますし、短めのもだいたい自分で足してしまいますが、ディレクターによっては相談をして決めることもあります。そうして、2回目に初めて、マイクの前に立ってリハーサルをします。3回目が本番か、もう1回リハーサルをして4回目に本番ということもあります。
 スタジオでは、マイクは普通は3本立ちますが、少ないときには2本、多いときには4本になることもあります。これは予算で決まります。「ドラゴンボール」の場合、十数人の役者がスタジオに入りますから、入れ代わり立ち代わりマイクの前に立つわけです。そして、噛み合う人は絶対に同じマイクを使わずに、必ず別のマイクを探して行くのが基本です。例えば悟空とセルが闘う場面では、悟空とセルは同じマイクを使いません。別のマイクヘ行くのは役者の役目で、それをしないとミキサーさんに叱られます。1つのマイクでやると横から入っていく形になって、顔がマイクの前に行かないうちに声が出ると、オフになってクリアに録音できません。モニターは1つだけです。昔は大きいスクリーンだったので良かったですが、今はビデオの時代なのでテレビ画面です。
 声優さんは、いくら画面の動きが激しくても、身体を動かさずに声だけで芝居をしなければなりませんが、中にはアクションの大きい人もいるんです。そういう人が同じマイクに来たときには、腕の振りを避けたりしながらやるので大変なので、同じマイクにはなりたくないんですよ。
 
 学生―録音が終わるまでに、同じエピソードを何回ぐらい見ますか。
 
 野沢―普通は3回ですが、少なければ2回、多くて4回ですね。なかなか合わなくて、その部分だけ録り直すこともあります。今はビデオですからいいですが、昔は巻き戻してやり直しでしたから、主役が間違えずにずっときても、誰かが間違えれば最初に戻ってしまうんです。だから、とちると、嫌な顔をされましたよ。
 
 学生―一番やりがいのある役、難しい役、やりたくない役などを教えてください。
 
 野沢―基本的にやりたくない役というのはありません。でも、なるべくなら来なくていいと思うのは、お姫様。
 難しいと感じることはあまりないんですが、「あらいぐまラスカル」のラスカルは動物ですから、しゃべらないんですね。鳴き声だけです。ラスカルの役は自分からオーディションを受けさせてもらったんですが、アライグマの鳴き声を知らなかったので、動物園に10日間通いました。でも、10日間、鳴かなかったんですよ。それで、きょうもダメだったと思いながら、「野生の王国」という好きなテレビ番組を見ていたら、アライグマが出て鳴いたんです。「これだっ!」と思って、それをベースにしてラスカルの声が出来あがったのです。
 動物が出るときは、基本的に動物の声は後録りになります。人間がしゃべっているときに鳴いて、かぶることがあるからです。ラスカルの時は、ほかの声優さんたちの録音が終わる頃にスタジオに入れば良かったのですが、しかし、私はラスカルも人間と同じだ、鳴き声でおしゃべりしているんだと思っているから、ほかの声優さんと同じ時間からスタジオに入って、ずっとお芝居を見ていました。そうすると、例えば、スターリングくんや友達がラスカルに、「何を食べたいの」と声をかけてくれると「氷砂糖を食べたい」と答えるし、「遊びに行きたいかい」と言えば「行きたい、行きたい、ついて行く」と答える。どんなふうに声をかけてくれるのかをずっと見ていて、それを自分の中に取り込んで、台本に書き込んでおきました。
 台本には、ラスカルの鳴き声は「ミー」としか書かれていません。スターリング「ねえラスカル、お腹すいてないか」、ラスカル「ミー」という具合です。その「ミー」の部分に、「ぼく、とってもお腹すいているよ」とか、「氷砂糖が食べたいよ」といった言葉を自分で書いておいて、後でそれに合わせてラスカルの感情を表すのです。
 
 森川―普通は1番組では1キャラクターを演じますが、野沢さんは、1つの番組で何人もの声をやったご経験がありますか。
 
 野沢―あります。大勢の人物が登場するときに、予算の関係もあって、そんなに大勢の声優さんを使えないというので、30分番組で最高13役もやったことがあります。私のレギュラーの役は1つあって、ほかの12役はその回の話にだけ登場するキャラクターです。「ドラゴンボール」でも3役をやっていましたから、フランスの方に「それだけやったらお金持ちでしょう」と言われましたが、日本では何役やってもギャラは1人分しかもらえないんですよ。
 
 学生―演じているキャラクターの声が普段の生活に影響を及ぼすような経験はありますか。
 
 野沢―生活に影響するようなことはあまりないです。ただ、「いなかっぺ大将」をやっていたときは大ちゃんが「〜だス」としゃべるので、収録が終わってから劇団に行くため駅で切符を買おうとして、「高田馬場だス」と言ってしまって、駅員に「ふざけないでください」と叱られたことがあります。
 
 学生―体調が悪かったりして、声がでなかった経験はありますか。
 
 野沢―1回あります。体調が悪くてとか、風邪をひいてというわけではありません。仲間には私の声帯は怪物だと言われているくらいですが、それが出なくなったことがありました。私は以前はクーラーが嫌いだったものだから、真夏に車が環七で渋滞したときに、窓を開けたまま大きい声で歌を歌っていたら、排気ガスが声帯に付いて水ぶくれを起こしてしまったのです。お医者さんによると、普通の人なら水ぶくれが1つできただけでも声が嗄れて出なくなってしまうのに、私には自分でも知らないのに高度な声の出し方のテクニックがあって、普段とは違うやり方で声を出してしまっていたので声帯全体が水ぶくれになって、とうとう声が出なくなってしまったのだそうです。
 
 学生―声帯に保険をかけていますか。
 
 野沢―いいえ。でも、保険をかけている人もいるようですよ。
 
 学生―孫悟空が子どもの頃と孫悟天の声はどう違うのですか。
 
 野沢―親子だから声は同じでいいかなとも思いましたが、生活環境、育った過程の違いを考えて少し変えました。
 
 学生―最近は声優を養成する学校がありますが、どのようにお感じになりますか。
 
 野沢―声優学校は2年間という期間が決まっていますから、卒業しても台本が読み込めない人もいます。私たちは劇団にいたので、セリフは生きていなければいけなかった。私が今しゃべっているのは、台本に書いてあることではなく、生きている言葉です。台本を読んでいても、同じように生きた言葉でしゃべらなければいけないんですが、そういう基本ができていないように思います。私たちは芝居が好きで始めたのですが、今の若い人たちはアニメーションのファンから入ってきている人が多いですから、そういうことも関係あるかもしれません。でも、今の若い人たちは器用だと思いますよ。
 
 学生―洋画の吹き替えでは、どういう女優さんの声をやったことがありますか。また、その女優さんの声に近づけようとするのですか、それとも吹き替えはまったくオリジナルでやるのでしょうか。
 
 野沢―私がやった有名な女優さんでは、テレビ女優のシャロン・グレース、グロリア・スウェンソンなどがいます。お芝居が上手なのでやりやすいです。でも、この声だから、美女の役は来ませんね。
 洋画の場合は、アニメーションと違って、声優が1から声を作ることはありません。アニメーションは、何もないところに、私たちが声の命を吹き込んでいくわけです。だから、赤のものが黒になることだってありますし、その黒がものすごくいいこともあります。しかし洋画は、外国の役者さんが演じているものに忠実に合わせるのが基本です。骨格が似ていると声も似ているので、キャスティングはアゴの形でするのが多いそうですよ。だから、だいたい同じような声の人の役が来るわけです。洋画の俳優さんが高い声を出していたら、自分なりに高い声で、雰囲気を壊さないようにもっていきます。
 
 学生―声優の一番素晴らしいところは何でしょうか。
 
 野沢―何にでもなれるところです。子どもにも、少年にもなれるし、ビンに目鼻を付けてアニメーションを作ればビンにもなれますし、2000歳の妖怪お婆にもなれる。そういうところが素晴らしいですね。
 
 学生―自分が声を入れたアニメーションが、外国で吹き替えられたのを聞いたことがありますか。
 
 野沢―あります。フランスで悟空の吹き替えをしている方が日本に来られたときに、「なるほど!ザ・ワールド」というテレビ番組で、私が悟空の声をやって、その人が悟飯の声をやったことがありますが、私の声に似ていましたし、可愛かったです。その国で力のある声優さんがやっているので、とてもいいと思います。
 いろいろな国の方からお土産にビデオをもらいますが、不思議なことに、掛け声だけは私の声のままなんですよ。この声は絶対に向こうの声優さんの声じゃないって。「カメハメハー!」とか「どわー!」なんて、みんな私の声なんですよ。でも、ちょっとでも参加できているので、私は嬉しいんです。
 
 学生―悟空なら悟空の気持ちになり切って声を出すということですが、お話を聞いていると、キャラクターをまるで自分の子供のように可愛がっていると感じるのですが。
 
 野沢―番組が終わると、みんな私の中で生きています。それは自分の子供と同じで、すごく可愛いの。でも、これをひとたび出すとなると、悟空や鬼太郎や鉄郎になり切ってしまうんです。
 
 学生―大変有名になられてから、ほかの声優さんやファンの人たちとの接し方で変わったところはありますか。
 
 野沢―基本的にはありません。後輩の声優は私の声を聞いて育った方がほとんどですから、スタジオでは雲の上の人といった扱いをされます。でも私は、スタジオでは同等の役者だと思っています。有名になったといっても、キャラクターが愛されているからであって、声優は影の存在ですし、私自身はそういう意識を持ったことはありません。
 
 学生―世界で声優の仕事が注目されていますが、何が変わったと感じますか。
 
 野沢―私はアニメーションは文化の一端を担っていると思います。言葉がわからなくても、画を見れば世界中の人に通じるじゃないですか。そういう意味では、文化交流が変わってきたのではないかと思います。私自身はそんなに偉そうな生活をしているわけじゃないですけれど。
 
 学生―声優の仕事が終わったものについて、もう一度やり直すことはありますか。
 
 野沢―再放送のときに、前にやったものをもう一度録り直すこともあります。一部の画が挿し替えられたり、悲しい雰囲気でやったところを明るくしたいと言われるようなこともあります。







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