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 次に、ディジタル・オシロスコープによって記録した受信電力の変化を、理論値のグラフと重ねて示す。図5.2−44が高さ20cmの場合、図5.2−45が高さ1mの場合である。いずれのグラフも一番上の実線がレーダからSARTへの受信電力のパターンを示す。下側の2本の実線のうち、上記のパターンと同位相のものが水平偏波の場合の理論値、位相のずれているものが円偏波(位相ずれ(5/4)π)の計算値である。
 
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図5.2−44SARTアンテナ高さ20cmの場合の
ハイトパターンと観測データ
 
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図5.2−45SARTアンテナ高さ1mの場合の
ハイトパターンと観測データ
 
 胴衣装着用SART作業部会においては、プレジャーボートや小型漁船或いは海上作業転落者の救助率を向上させるために、この種の海難発生の現状や海中転落者の水温に対する医学的な生存可能時間を考慮しながら、救命胴衣に容易に装着できる小型軽量SARTの具現化を目指した。
 この中で、胴衣装着用SARTに関しては、現行SARTの電気部送受信モジュール及び円偏波方式のアンテナを採用しているものですが、その大きさは概ねタバコ箱大の形状に、重さも約180gという小型軽量のSARTを試作することが出来た。
 本SARTの有効性の評価は、海上保安庁の巡視船艇及び航空機の支援を受けて、駿河湾で実施しましたが、人形ダミーの救命胴衣ポケットに海面上約10cmの高さに装着したSARTは、平成12年度に行われた投下式ブイに装着した円偏波アンテナ方式のSART(アンテナ高は1m)で得られたような、遠距離からのレーダによる探知距離は得られなかったが、巡視船艇のレーダにおいては、航海モードで最大1.8マイル、高度3000フィートの航空機のレーダでは、捜索モードで約12マイルの遠方から探知できた。
 つまり、胴衣用SARTではアンテナ高が極めて低く、そのために到達距離が得られなかったことにあるが、巡視船艇及び航空機が連携して行われる海難救助の現状を考慮した場合、本事業における実海面試験の成果は、夜間或いは視界不良海域における海難救助に極めて有効であるということを実証したものとも考える。
 また、円偏波アンテナを採用したSARTの有効性は、実海面におけるSART応答波の受信電力計測においても、円偏波式SARTは水平偏波送受信方式よりも遠方まで到達することが計算予測した受信電力の値とも一致し、これまでの観測結果を裏付けるものともなり、円偏波送受信方式によるSARTの優位性が改めて実証されたものでもある。
 携帯用SARTについては、前述の胴衣用SARTの約1/2の大きさで、1マイルの到達距離を確保し、かつ低廉価の汎用性の高いSARTの普及を追及したものである。
 このため、試作過程においては、電気部送受信回路等SART主要部は市販の低価格電気部品で構成することが必須の課題で、同時に1マイルの到達距離を確保させるには理論上10mWの送信出力と約−30dBm(レーダの送信出力を10kWとして)の受信感度が要求される等大変厳しい技術的な条件が課せられたものですが、各種の実験においては概ね当初の要求値に近い受信感度を確保することができた。
 また、到達距離が1マイルとなる電気的な要求値の妥当性については、胴衣用SARTを要求値に合わせて調整し、10mWの出力と−37dBmの受信感度において水上実験を行った結果、平穏時には1.3マイル、海面が少し波立ち小雨の降る状況においては約0.9マイルまでSART信号が観測された。
 これらの結果は、波間に隠れて極めて捜索が困難となる海中転落者の一刻も早い救助につながり、以後、SART主要部の電気部品をチップ集積化することで、極めて小型軽量化され、汎用性に満ちたSARTの具現化、また、その普及に大きく貢献するものと考えられる。







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