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5.2.5.2 携帯型SARTの試作
5.2.5.2.1 装置の基本仕様および構成
 基本仕様の要件は記述しているとおりであるが、常時着用されることを考え、できるだけ軽量小型になるように構成する。最小受信感度の向上には受信回路にマイクロ波増幅回路を採用することが最善の方法であるが、回路の消費電力、回路部品の価格などの点から採用を避けた。同様に送信回路と受信回路が一つのアンテナを共用する関係から、送受共用回路が必須となり、従来はサーキュレータが使用されている。この部品も高価格であり、低廉な携帯型SARTの市販には障害となる。
 そこで解決策として、
・受信感度の改善:受信信号の検波回路の直後に増幅回路を入れる
・送受共用回路方式:送信と受信とでは信号の伝わる方向が異なるので、マイクロ波ストリップラインで方向性結合回路を構成し、サーキュレータを使用しない。しかし、回路の挿入損失を補償する必要がある。
・送信出力の確保:方向性結合回路では受信回路へ信号を伝達する際の損失を最小限に抑えることにしたため、送信側の挿入損失を犠牲にしている。そのため、現在では、送信出力がようやく10mW(10dBm)であるので、生産時の余裕を確保するためには送信回路に増幅回路を1段追加することも検討している。
 
 マイクロ波送受信回路は、試作用としてアンテナの交換や計測が容易なようにコネクタを介して接続できるように設計されている。このコネクタは、最終段階ではコネクタを使用しない形式に設計変更する予定である。試作したマイクロ波送受信回路の外観図を図5.2−29に示す。ほぼコネクタのサイズを。基本として、全長の長さはコネクタを含め約50mmとなっている
 小型化への課題として、試作検討段階では製作の容易なサイズの部品を使用し消費電力も考慮することなく回路設計を行ったが、市販段階では表面実装型部品に置き換え、しかも低消費電力を期待できるCMOS(シーモス:半導体部品の名称)を使用した回路方式に変更する。
 これらの基本仕様に基づいて構成した携帯型SARTの基本構成図を図5.2−30に示す。
 
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図5.2−29 小型SARTの
マイクロ波送受信回路試作外観図
 
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図5.2−30 携帯型SARTの基本構成図
 
 マイクロ波送受信回路の基本性能の測定結果として、試作品における最小受信電力は3dBの雑音に対する余裕を取るとして−37dBm、送信出力は10dBmであった。両測定結果とも簡単な調整もしくは無調整で得られるためには、送受共用回路として使用している方向性結合回路の各結合度を調整し受信感度を向上させることで受信感度の余裕を確保できる。しかし、その分だけ送信回路との結合度が下がるので送信回路からの出力を確保するために送信増幅段の追加も実用上には検討を要する。
 
5.2.5.2.3 制御回路の構成及びSARTの外観
 制御回路は次の機能を行う各要素で構成されている。
・送信周波数を規定範囲内で掃引するための周波数掃引回路を駆動する信号発生回路
・送信時に送信段に電源を供給する回路
・受信信号を所要のレベルに増幅する回路
・送信中は受信回路を停止するための回路
 
 この他に周波数掃引回路および各回路部分に所定の電圧を安定に供給するための安定化電源回路で構成される。
 試作品では製作の利便性からサイズには拘らずに製作したが、表面実装型の超小型部品と多層プリント板を数段重ねることで、バッテリーと同じ大きさの直方体に収め、全体の小型化に努める。
 送信回路は10dBmの連続送信時に約20mAの電流が流れるので、1kHzのレーダに応答して100μ秒の間送信するならデューティ比が10分の1となるので約2mA、受信時にはマイクロ波送受信回路内部の増幅回路に1.6mA流れている。この消費電力ならば電池はもっと小型化できることを既に述べているが、電池は救命胴衣装着用SARTと同じくCR123Aリチウム電池を2個直列にして使用している。
 これらの検討から製作した携帯型SARTの外観(モックアップ)を図5.2−31に示した。この図の中で示されているサイズの大きさに制御回路をまとめるように実用品の製作段階で行う。
 
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図5.2−31 携帯型SARTの外観図(モックアップ)







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