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(3)実験結果
 図5.2−2〜図5.2−5に表5.2−5で示した組み合わせで行なった受信電力の計測結果を示す。送信アンテナと受信アンテナの高さはそれぞれ35cmである。
 参考として、送受信アンテナ高さを35cmとしたときの水平偏波送信の場合の理論値を図5.2−6に示す。また送信アンテナ高さを15cmとしたときの水平偏波送信−水平偏波受信、円偏波送信−水平偏波受信の計測結果を図5.2−7および図5.2−8に示す。
 いずれの図中にも急激に受信強度が低下する部分がある。これをNull(ヌル)点と呼ぶ。これは直接波と反射波の干渉によって生じるものである。Null点における低下が少なく、安定に受信できる特性はSARTに適したアンテナであると言うことができる。
 
アンテナ高さ 送受信共35cm
図5.2−2 水平偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の計測結果
 
アンテナ高さ 送受信共35cm
図5.2−3 垂直偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の計測結果
 
アンテナ高さ 送受信共35cm
図5.2−4 円偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の計測結果
 
アンテナ高さ 送受信共35cm
図5.2−5 垂直偏波送信−垂直偏波受信の場合の受信電力の計測結果
 
アンテナ高さ 送受信共35cm
図5.2−6 水平偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の理論値
 
アンテナ高さ 送信35cm、受信15cm
図5.2−7 水平偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の理論値
 
アンテナ高さ 送信35cm、受信15cm
図5.2−8 円偏波送信−水平偏波受信の場合の受信電力の理論値
 
(4)偏波面に関わる比較測定結果の考察
 今回の観測では、Null点の位置が遠くに移動する現象が再現された。ただし、送受信アンテナとも高さ35cmの場合は、送信アンテナ高さを15cmとした場合ほど顕著ではない。今後実際の使用状況に合わせた高さを設定した計測も必要であろう。
 受信電力の安定に関しては、「平成12年度報告書」での水槽実験における計測結果では、円偏波送信の場合は水平偏波送信に比べてNull点での低下が少なく、安定していることが報告されている。また実際の海面での計測では、レーダ側の受信感度の限界となる距離付近において、円偏波の方が水平偏波の場合よりも受信電力の低下が少なく、それが電波の到達範囲の拡大につながっていることが報告されている。しかし今回、円偏波で送信した場合、水平偏波の場合よりも受信強度が強くなる現象は再現されなかった。ただし、垂直偏波で送信し、垂直偏波で受信した場合には、ほとんどNull点が現われず、距離が離れても受信強度の減少が少ないことがわかった。
 円偏波は水平偏波と垂直偏波の合成とも考えることができる。つまり「12年度報告書」にある円偏波のアンテナを用いた場合の特性は、水平偏波の特性を垂直偏波の特性が補った結果であると考えられる。そこで、「携帯用SART」の新しいアンテナとして、水平偏波と垂直偏波を両方送信するアンテナ(以下「水平−垂直合成アンテナ」という。)を用いることを考えた。「水平−垂直合成アンテナ」は干渉の影響を受けにくい特性を持ち、さらに円偏波のアンテナより簡便で小型化できる効果が期待できる。その特性を確認するために5.2.4のとおり試作、試験を行なった。
 
(1)理論式
 SARTのアンテナから放射され、受信用アンテナに到達する電波については5.2.3.1.1の2−1式に示した通りであるが、ここでは反射点における反射係数にも着目した式を用いる。
 自由空間を伝搬した直接波の電界強度をE0、水面で反射した電波の電界強度をErefとする。受信アンテナでの電界強度をErとすると、
Er=E0+Eref=E0+ρ・E0・e−ja (3−2)
 ここで、Er=F・E0とすれば、
ρ:反射点における反射係数
a=φ+b
φ:反射点での位相変化
b:経路の距離差による位相のずれ
F:直接波と反射波の干渉による直接波との電界強度の比である。電力の比は電圧の比の2乗であるので、
F2=1+ρ2+2ρcos(φ+b) (3−3)
 よって、SARTのアンテナから受信用アンテナへ到達した電波の受信電力は次式で与えられる。
 
Pr :受信強度 PSART :SARTの送信出力
G :受信アンテナのゲイン λ :波長
R :距離 φ :反射による位相変化
 
 分数の部分は距離に対する電波の減衰を意味し、(1+ρ2+・・・)の部分は直接波と水面反射波の干渉を表す。水平偏波で送信された電波の場合は、反射点での反射係数ρは1、反射点での位相変化φはπであることが知られている。これらは入射角に関係なくほぼ一定である3)
 
(2)垂直偏波の場合
 垂直偏波の反射特性を求めるため、(3−4)式のρとφをパラメータとして変化させ、実測値の干渉パターンと整合する組み合わせを求めた。
 その結果、反射係数ρ=1/2、位相変化φ=5π/4の時に、干渉のパターンが一致した。結果を図5.2−9に示す。
 干渉による電波の減衰が少なく、垂直偏波は干渉に対して強いといえる。
 このようにして求めた反射係数などは参考文献2)に示されている結果とも適合する結果である。
 なお受信強度は送信出力やアンテナゲインの差などについて未校正であるため、理論値と実測値の間に差異がある。グラフを上下に並べて描くことでNull点の位置や形状などの比較が容易にできるため、ここでは調整は行なわなかった。
 
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図5.2−9 垂直送信水平受信の理論値と実測値







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