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表5.2−4.1 胴衣装着用SARTおよび携帯型SARTの性能要件(変更点のみ)
要件 現行SART(小型船用) 救命胴衣装着型SART 携帯型SART
連続作動時間 48時間待受け8時間動作 24時間待受け4時間動作 同左
作動温度範囲 -20℃〜50℃ -1℃〜35℃ 同左
空中線の偏波面 水平 水平and/or円 同左
応答距離
(海面高15mの航海用レーダ)
(高度3,000ft航空機レーダ)
10マイル 30マイル 5マイル 10マイル 1マイル 5マイル
周波数 9.14〜9.56GHz 同左 9.32〜9.50GHz
等価等方輻射電力 400mW以上 同左 10mW程度
実効受信感度 -50dBmより良い 同左 -35dBm程度
 
 現行SARTから救命胴衣装着用として、小型軽量化を図るために簡素化した主な点は、表5.2−4.1の上から4つの項目である。性能要件としては挙げられていないが、これらの変更に伴って電池が軽量化される。
 携帯型SARTではこれらの変更点に加えてさらに機能を絞った。常時携行するためには首からぶら下げるか胸ポケットに入れておける程度と考え、胴衣装着用SARTよりさらに小型化を進めるためである。胴衣装着用SARTからの変更点は、表5.2−4.1の下から4項目である。また開発を始めるにあたって、当面の目標としてペンライト程度の大きさと重さを大まかな目標とした。
 その他に、価格の低廉化も重要な要素となる。フェリーの乗客全員に携帯してもらうことや、プレジャーボート、遊漁船、小型漁船の乗員なども想定している。使い捨て型にするかあるいはデポジットにより回収するなどの方法も検討し、数千円程度の価格としたい。 このような小型軽量化および廉価化のためには、胴衣装着用SARTでは検討、変更を行なわなかった電気部送受信モジュールについても全面的に見直す必要がある。一例を挙げると、現行SARTでは受信機の前段に16dB程度のローノイズアンプが使用されているが、これは感度を高くする反面、消費電力が大きく高価である。そのため汎用品による代替品を使用するか、アンプを使用しない直接検波方式とする必要がある。
 
5.2.3.1 アンテナの基本設計
 従来のSARTでは、捜索に用いる舶用レーダの仕様である水平偏波に対応するため、スロットアンテナや同等形状の水平偏波用アンテナが用いられてきた。しかしこれらのアンテナは角張って硬い上に、舶用レーダ(3cm波)を用いる以上、性能を落とさずに現状より小型化することは困難である。また現行のアンテナは重量もある。
 そこで、小型化と軽量化を目標に、偏波面を限定せずにアンテナの検討を行なった。「平成12年度 投下式レーダ・トランスポンダーに関する調査研究報告書 社団法人日本船舶品質管理協会」(以下「12年度報告書」という。)では、円偏波用のヘリカルアンテナを用いた場合、水平偏波のスロットアンテナを用いた場合よりも電波到達距離が長くなることが実験観測により確認され、報告されている。その理由としては、円偏波では干渉による受信強度の低下が少ないことなどが挙げられている。
 
 SARTから発射された電波が受信アンテナに到達するとき、その強度と距離の関係は次の式によって表すことができる。
 
 
ただし
 
Pr :受信強度 PSART :SARTの送信出力
G :受信アンテナのゲイン λ :波長
R :距離 φ :反射による位相変化
a1 :SARTの高さ a2 :受信アンテナの高さ
 
とする。
 
 一般に、水平偏波のマイクロ波が水面で反射する場合、反射による位相変化φは実験的にπとみなされている。円偏波の場合は「12年度報告書」における観測では5π/4とされているが、この他に円偏波および垂直偏波に関する資料はほとんど無く、2件の資料1)2)を捜すことができたのみであった。そこで、「12年度報告書」に述べられた現象をさらに解析するために、東京商船大学の実験用水槽において比較測定実験を行なった。
(1)計測項目
 実験水槽での計測に先立って、アンテナの水平パターンおよび垂直パターンを計測した。実験水槽では以下の計測を行なった。
・偏波の違いによる信号強度の差
・アンテナの違いによる信号強度の差
(2)実験の概要
 実験に使用した計測システムの概要を図5.2−1に示す。
 
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図5.2−1 計測システムのブロック図
 
 標準信号発生器をSARTの送信部として9410MHzに設定し、ホーンアンテナ、ヘリカルアンテナおよび他の形状のアンテナを接続して電波を送信する。受信側は舶用レーダを想定しているので、基本的には水平偏波用のホーンアンテナを使用した。
 送信アンテナは水槽の水面際に固定し、測定用電車や建物および周辺の機材へ電波が照射されないように、アンテナの左右、上部、後部を電波吸収材で覆い、受信アンテナの方向にのみ電波が放射されるようにした。
 受信アンテナは一定速度で移動する測定用電車の底部に固定した。電車が原因となる多重反射が生じないように、主にアンテナの付近などは電波吸収材で覆った。観測の状況を写真5.2−1および5.2−2に示す。
 
写真5.2−1 水槽における観測状況(SART側)
 
 
写真5.2−2 水槽における観測状況(SART側、受信側)
 
 
 
 電車の移動速度は毎秒約2cmに設定し、送受信アンテナ間隔を約30cm〜700cmまで変化させた。受信信号は電車を移動させながら、1秒に1回記録した。
 送受信アンテナの種類と組み合わせは表5.2−5の通りである。
 
表5.2−5 送信側アンテナと受信側アンテナの組み合わせ
送信側アンテナ 受信側アンテナ 備考
水平偏波 水平偏波 船用レーダのアンテナが水平偏波であるため。
垂直偏波 水平偏波  
円偏波(ヘリカル) 水平偏波  
垂直偏波 垂直偏波 水平偏波との比較のため。
 
 アンテナの高さは送受信共35cmに固定したが、比較のために一部の組み合わせではアンテナの高さ15cmの場合も計測した。







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