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5. 調査・検討
5.1 いかだ艤装用SART
 IMO(国際海事機構)によるRoRo旅客船の安全対策の見直しに伴い、DE小委員会等で検討が進められているSARTの救命いかだへの搭載に関連し、いかだ艤装用のSARTを試作し、救命いかだに艤装した状態で水面投下試験を行い、種々の問題点を検討した。
 
5.1.1 要求される性能・要目
 現在、退船時に本船から持ち込み、生存艇用トランスポンダーとして使用されているSARTを、救命いかだにあらかじめ艤装して使用するためには、どのような性能要件が必要となるかについて検討した。
 SARTの性能要件は、IMO総会決議A802に規定されているが、必ずしも救命いかだに艤装された状態を想定していないため、耐衝撃性等を付加して考える必要がある。
 また、退船時の混乱した状態の中で、乗艇者によるSARTの取り付けや、スイッチの操作等は容易でないと考えられることから、これらの操作を不要にするために、天幕上部にSARTを固定して、救命いかだの膨脹と同時にSARTも自動作動する方向を目指すことで、救命いかだにあらかじめ艤装される利点を最大限に生かすこととした。
 なお、偏波方式については、現在IMOで規定されている水平偏波式に加え捜索船レーダからの視認性がより期待できる円偏波式のSART用アンテナを試作し、両方式について検討することとした。
 検討された救命いかだ艤装用SARTの性能要件(案)を表5.1.1−1に示す。
 
5.1.2.1 基本構造の検討
 SARTの構成は大きく分けるとアンテナ部、モジュール部及び電源部に分けられる。今回いかだ艤装用SARTに使用するアンテナは、水平偏波及び円偏波の2方式でありアンテナの形状としては水平偏波アンテナの形状は平板状、円偏波アンテナは棒状(ヘリカル構造)となっている。
 アンテナ部をいかだ内部に設置することは天幕による電波減衰があり、いかだ天幕の外に設置することが賢明である。
 水平偏波アンテナはモジュール部との分離は困難であるが、円偏波アンテナはモジュール部とアンテナ部を分離してフレキシブルケーブルで結合することにより軽量なアンテナ部のみ天幕に設置することが可能となり、アンテナの設置場所を決定するうえに大きなメリットと考えた。
 いかだの天幕にSARTアンテナを装着する場合は、耐衝撃性の観点からも小さい質量に分散するほうが望ましく、円偏波アンテナのメリットを生かし、アンテナ部を分離してアンテナ部をいかだ天幕に装着し、モジュール部と電源部を1体化し、いかだ内部に設置する方向で検討した。
 
表5.1.1−1 救命いかだ艤装用SARTの性能要件(案)
分類 性能要件 救命いかだ艤装用SART
一般的要件 小型かつ軽量であること
  水密性
  筐体は、黄色系の色調
  簡易な取り扱い要領の表示
  鋭い角等のないこと
  手動により動作開始又は停止
  不注意による動作防止対策
  電波発射及び待ち受け状態の表示
  動作試験機能を有すること
  非常時に未熟者でも使用できること
  保管時の周囲温度 −30〜+65℃
  作動時の周囲温度 −20〜+50℃
電気的性能 周波数 9,140〜9,560MHz
  掃引時間 7.5μs±1μs
  波形 鋸歯状波
  掃引復帰時間 0.4±0.1μs
  1回の応答 12回の掃引
  応答遅延時間 0.5μs以内
  等価等方輻射電力 400mw以上
  実効受信感度 −50dBより良いこと
  空中線の指向性(水平面) 無指向性
  〃(垂直面) 25度以上
  空中線の偏波面 円又は、水平
  空中線の高さ 1m以上
  応答距離(アンテナ高15mの航海レーダ) 10海里以上
  〃(高度3000フィート、出力10kw) 30海里以上
電源関係 電池容量 96H待ち受け、8H動作
  電池有効期間 3年以上
いかだ艤装関係 耐衝撃性 救命いかだに艤装した状態で24mからの水面投下に耐えること
  自動作動 いかだの膨脹と共に自動作動
  固定方法 天幕の水密構造を保ち、できるだけ高所に固定する。また、いかだ整備時に容易に取り外せること
 
 しかし、フレキシブルケーブルの特性を調査した結果、その特性を維持するため次に示す使用条件を満たさなければならないことが判明した。
(1)最小曲げ半径を50mm以上確保しなければならない。
(2)電波損失を伴わないようにするため最大長を1m以下にしなければならない。
 いかだはSARTを巻き込むように折りたたみ、コンテナに収納するため、最小曲げ半径50mmを確保することは困難であり、アンテナ部をいかだの最適な場所に設置するためには、フレキシブルケーブルの全長が1m以下では短すぎると考えた。
 したがって、円偏波アンテナはアンテナ部とモジュール部を分離できるメリットよりも破損の危険、取り扱いの不便さを考え、アンテナ部とモジュールを1体化し、電源部のみを分離することとした。
 水平偏波アンテナを使用したSARTについても、円偏波アンテナを使用したSARTと同様に電源部のみ分離した構成にすることにした。
 電源スイッチはいかだが膨張すると同時に自動的に電源が入る構造が望ましいと考え自動作動とすることにした。両者の構成は図5.1.2−1のとおりである。
 電池容量は、現行SARTに使用されている電池を使用して96H待ち受け、8H送信の現行規定を満足するようにした。
 
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図5.1.2−1 電源部とモジュール、アンテナ部の分離
 
 作動方法に付いては、救命いかだが使用される状況を想定した場合、遭難者がいかだに乗り移ってからスイッチを入れることは難しいとの判断から、いかだの膨脹に合わせてSARTは自動作動することにした。また、水密性を考慮してリードスイッチとマグネットを組み合わせて使用することにし、キャノピー灯などで実績のある、いかだの膨張にあわせて作動索によりマグネット付きスイッチが引き抜かれ電源が入る構造とした。
 このマグネット付きスイッチは手動でも引き抜くことが可能であり、電源の「ON」「OFF」が手動で出来るようにした。
 また、電源スイッチをアンテナ、モジュール側(以下「本体」という。)(図5.1.2−2参照)又は電源側に設置するのが良いかにもついて検討した結果、いかだ天幕に装着されるアンテナ部よりも、いかだ内部に設置される電源側にスイッチを設けるほうが自動作動索が短くなり、他の搭載機器等と絡むことも少なくなると考え、キャノピー灯と同様に電源側にスイッチを設けることにした。
 
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図5.1.2−2 電源スイッチを本体(アンテナ、モジュール)に取付けた検討図
 
 SARTの電源ON及び受信状態を示す表示はLEDを採用し、電源用1個、受信用2個を設けることとし、遭難者が見やすい位置とするため、いかだ天幕に装着される本体に取り付けることとした。
 
 本体の救命いかだへの取り付け位置は、性能を最大限に発揮するため天幕上部とし、天幕支柱等を利用してアンテナ部が垂直になるように固定することとした。
 この場合、救命いかだには既にキャノピー灯が取り付けられているため、これと干渉しない位置を選択することになるが、通常天幕支柱は複数本存在するので問題はないと思われる。
 上記方針のもとで、各救命いかだメーカーにより、具体的な固定場所及び固定方法が検討された。その結果、天幕に開口部を設け、プラスチック製又はゴム製のフランジを介し、上下から挟み込む形でSARTを固定する。その場合、SART取付け部からの漏水を防ぐため必要に応じて、ゴムパッキンを使用することとした。さらに、SARTアンテナ部の垂直性を確保するために本体下部を支柱気室側壁に密着させ、固定用マジックテープまたは紐等で固縛することにした。なおこの場合、電源部は天幕支柱の下部付近にポケット等を設けて収納し、本体とリード線で接続される。
 SARTモックアップを使用し、救命いかだ天幕部にモックアップを取り付け、取り付け位置、固定方法、救命いかだの折り畳み時、膨脹時について、自動作動の状況も含め確認した。また、SARTの使用時に必要となる作動ランプ(本体下部のLED)の視認しやすさ、手動による電源のオン、オフ操作についても確認した。その結果、プラスチック製フランジを使用する場合、当初、姿勢安定のためφmm程度の円盤を検討したが、折り畳み作業に支障を来す恐れのあることが判明したため、径を減少させ、100mm及び120mmの2種類のフランジを作成し、姿勢安定及び耐衝撃性等の観点から比較検討することとした。







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