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女性専用車について
西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部駅業務部
三嶋 良
1 はじめに
 少子高齢化の進展に伴う就労者人口の減少など、当社を取り巻く経営環境が一層厳しさを増す一方で、当社に対するお客様のニーズも多様化しつつあります。このような状況の中、お客様に「選択頂く」ために、運賃や列車ダイヤのほか、お客様のニーズを的確に捉えたよりよい商品の提供、サービスの向上に取り組んでまいりました。
 特に鉄道事業の最前線である駅や列車の車内は、様々なお客様が集まる「公共の場」であり、快適な空間を提供するため、ソフト・ハード両面から様々な取り組みを行って参りました。
 ソフト面では、駅社員の接客サービスレベルの向上、社員による整列乗車の呼びかけ、座席の譲り合い、中高生の乗車マナーの向上のPRなど「駅・車内の快適性の向上」に努めております。また、ハード面では、今後の高齢化社会に対応したエレベーター等昇降設備、駅トイレ・待合室・ベンチのリニューアルなど駅機能の充実と「優先座席」のデザイン一新、ホーム柱への喫煙・駆け込み・ポイ捨ての禁止サインの掲出などを整備しております。
 さらに、昨年10月1日から大阪環状線及び学研都市線に「女性専用車」を本格導入し、その後12月から線区・時間帯を拡大しました。今回は、当社が先行し他私鉄等においても本格導入されつつある「女性専用車」の取り組みについてご紹介させていただきます。
 
2 女性専用車の取り組みについて
(1)女性専用車の導入の経緯
 最近、女性の社会進出にあわせて、新聞の報道などを通じて「女性専用」という言葉が見られます。この社会の動きが「女性専用車」導入を検討するひとつのきっかけとなりました。
 一方で、車内における痴漢行為をはじめとする迷惑行為防止という観点においては、車内における痴漢行為防止に対するお客様のご意見は年々増加しており、平成11年度には22件、13年度には44件と倍増しており、当社としても鉄道警察隊などのご協力を仰ぎながら痴漢行為防止に積極的に取り組んでおります。
 加えて、快適な車内空間を提供することが当社の責務であるとの認識のもと、社内で幾度となく議論した結果、関西の鉄道事業者としてはじめて「女性専用車」を導入するに至りました。
 
 
(2)実施概要
 痴漢行為が発生する背後には、ラッシュ時間帯の車内の混雑という要因があります。朝ラッシュ時間は1時間あたりの混雑率は高く、警察等による痴漢行為の検挙も多いことから、大阪環状線・学研都市線(木津〜京橋間京橋方面行き電車)で3ヶ月間試行導入することとしました。
 平成14年7月1日から9月30日までの3ヶ月間の試行期間中には、「お客様にご支持いただけているか」「賛成・反対のご意見(理由)は具体的にどういう内容なのか」などを検証するために、計3回、主要駅のホームで実際にご利用頂いているお客様600名(男性300名、女性300名)に聞き取りアンケートを行いました。
 
●お客様アンケート調査結果
賛成理由 反対理由
・男性に密着せず、安心して乗車できる (52%)
・痴漢の防止につながる (36%)
・男性も痴漢の冤罪を受けなくて済む (10%)
・子供を安心して通学させられる (2%)
・「女性専用車」以外の車両が混雑 (66%)
・男性差別である (24%)
・乗り換え等に便利な位置でない (8%)
・車種が様々でわかりにくい (2%)
 
▲女性専用車案内サイン
 
▲車両及びホーム側サイン貼付位置
 
 既に「女性専用車」を導入している大阪環状線・学研都市線では男性・女性あわせて75%、JR京都線・JR神戸線・JR宝塚線の駅でも69%のお客様が賛成とお答えいただきました。とくに、女性のお客様には3回のアンケートとも80%を超える支持を頂きました。
 こうした状況を踏まえ、大阪環状線・学研都市線の「女性専用車」を平成14年10月から本格的に運行するとともに、更に京阪神圏の線区・列車への拡大を視野に入れ、朝ラッシュ時間帯の混雑率やお客様へのご案内のわかりやすさなどを考慮し、「女性専用車」の拡大について社内で再検討をはじめました。
 その結果、平成14年12月2日(月)より朝ラッシュ時間帯の混雑率が高いJR京都線・JR神戸線の普通電車をはじめ、既に実施している学研都市線と直通運転となるJR東西線・JR宝塚線の普通電車及び一部の快速電車に「女性専用車」を設けることにしました。また、平日の朝ラッシュ時間帯(初電から9時まで)と同様に、車内が混雑する夕方のラッシュ時間帯(17時から21時まで)にも拡大することにしました。
 試行当初から各駅のホームには大型の足元乗車位置目標を設置し、車両には出入口ドア横・ドアの内側・連結部のドアにステッカーを貼り付けるなど、駅や車内における放送とあわせてお客様へのご案内には万全を期しております。また、お身体の不自由なお客様と介護者のどちらかが女性の場合や小学校6年生までの男性のお子様の場合は、この「女性専用車」をご利用いただいております。
 
3 おわりに
 「女性専用車」を導入した線区においては、主要駅に申告いただいた痴漢被害のお申し出も大幅に減少しており、今後も駅や車内における放送等により更なる定着を図っていきたいと考えています。
 当社では既に述べたように「お客様がご利用頂きやすい鉄道づくり」に向け、ソフト・ハードの両面から様々な施策を講じておりますが、まだまだお客様にとってご利用しやすい状況にあるとは認識しておりません。これからも立場の違うお客様にそれぞれの場面で少しでも多く満足頂くことが、当社を選択頂く第一歩と捉え、地道な取り組みを積み重ねていきたいと考えています。
 
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