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第2回「“宗谷”保存整備検討専門委員会」議事録
日時 平成14年8月10日(土) 10時00分より
   
場所 東京都品川区東八潮3番1号
  南極観測船“宗谷”船内
  船の科学館3階クラウンルーム
   
出席者 徳永陽一郎 委員
  池畑光尚 委員
  青木栄一 委員
  細川泰裕 委員
オブザーバー 前田部長、吉田課長(日本財団)
財団 鳥居常務理事
事務局 小堀部長、福井課長、飯沼課長
 
1. “宗谷”船内現状調査(10:00〜12:00)
 “宗谷”の保存状況を、実際に船内に入って視察調査した。まず、最も腐食が進んで状態が悪いと指摘された「左舷バルジ」内部へ、予想以上に内部構造材の腐食が進んでいることを確認した。次に「右舷バルジ」内部へ、左舷に比べ腐食の状態は比較的軽度で、やはり左舷と右舷の違いがはっきりした。
 続いて、船首船倉、船首ガソリン庫、船首最上甲板、ブリッジ、ブリッジ・トップ、搭載艇等の腐食の進行状況を現状・調査した。
 
2. 現状調査に基づく検討(13:10〜15:00)
事務局:実際に“宗谷”の現状を調査していただき、ドックに入れた方が良いのかも含め、まずは本日の感想をお願いしたい。徳永先生いかがでしょうか
徳永:先日も視察・調査したが、本日拝見した左舷バルジ内部の腐食状況には衝撃を受けた。建造した側としてはこんなはずではなかったとの思いだが、取り返しのつかなくなる前に、今後どうしたら良いか本日協議したい。一点だけを強調すれば、全体を見失うおそれがあるので、これしかないと思われるような良い結論を導き出したい。
細川:見れば見るほど、なんとかしなければと思う。機能の要求(船として動かす必要性)は無いのだから、できるだけ原姿を保って延命したい。
バルジの再現・補修でも、現在ではリベット継ぎ手の再現ができない。開口部から構造材を入れて内部補強するという手もある。バルジ内部の腐食の状態はもう限界まで進んでおり、腐食状況はタンカーと酷似している。桂離宮等陸上の建造物では、腐食した部材の交換を記録に残したり、新材に刻印を押すなど補修の経過を明らかにしている。船では、まだこうしたことまではできていない。
桂離宮等陸上の建造物では、腐食した部材の交換を記録に残したり、新材に刻印を押すなど補修の経過を明らかにしている。船では、まだこうしたことまではできていない。
青木:私自身、船の専門家ではないのでバルジ内に入るような経験は初めてだった。目に付かないところがあんなにひどい状態になっていることを知って非常にびっくりした。
海外には多数の保存船があり、いくつかピックアップして保存状況や補修の方法を調査に行ってみてはどうだろうか。
事務局:横浜の“氷川丸”が、本年11月で婚礼・レストラン等の営業を終了し、文化財として保存することになった。この保存にも委員として携わっている池畑先生いかがでしょうか。
池畑:“氷川丸”保存については委員にはなっていないが、相談は受けた。誕生より100年間保存することが目標とのことだ。
“宗谷”も原姿保存ということが目標で、前回は表面的に見ただけで20年は持つと思ったが、本日バルジ内部を見て腐食の進み具合に驚いた。最悪の場合左舷バルジは全部取り替えなければならないかもしれない。船体そのものは大丈夫と思うが、あと何年持たせるかで修理の内容が違ってくる。まずは、一度徹底的に調査を行っておく必要があると感じた。
事務局:“氷川丸”は保存目標を誕生より100年と定めたが、“宗谷”についても今まで永久保存と言ってきたが、今後保存目標を定める必要が出てきたと思うが、いかがでしょうか。
徳永:難しい問題ですね。
細川:「永久保存」は理念だ。そして、当面の保存目標の年月を定めることとも矛盾しない。私は“宗谷”と同じ年に生まれたが、すくなくとも同年代の人と同じくらいは保存したい。誕生から100年ということもありうると思う。リベット打ちについては、ボルトのようなネジ込み式のものもあるようだが、できるだけ原姿を保つように再現したい。
池畑:外部から見えるところはそういうことも考えられるが、内部など見えないところは、現実的で強度も確保できる溶接で処理した方が良いのでは・・・。
徳永:私も、補修にあたっては現在の溶接技術をできるだけ使用したほうが良いと思っている。場合によっては、リベットを溶接に置き換えても良いのではと思っている。
青木:保存して行くにはどこかで妥協が必要だ。特に、見えないところは止むを得ないのでは。バルジ内部補強は具体的にはどのように行えばよいのか。
細川:開口部から、材料を入れてこのように補強すればよいと思う。ただし、バルジ全部取り替えた方が無論安く済むだろう。
徳川:バルジは、“宗谷”の外観に大きく影響するところなので、できれば総てを新しくして付け替えた方が良いと思う。あの状態から、元に修復するのは至難の業ではないか。
細川:記録として残し、全部外して新しく付けた方が簡単ではあると思う。
徳永:その場合、条件として取り付ける船体側の強度等の確認が必要だ。
細川:ドックに入れて補修をする場合、入っている間中お金がかかる。作業内容を決めて手順書を作り、効率よくしないと、どんどんお金がかかってしまう。まさに水商売といったところ。
事務局:現状調査を行って仕様書を作り、それに基づいて発注をしたい。現状調査や検査はどこに頼めば良いか?
細川:実際に動かす船ではないので、保存するための検査を行う必要がある。まず、全体を把握することが必要だ。“宗谷”についても、機関室の下が分からない、ビルジの有無等・・・。板厚も、外板展開図を用いて各部を計り検査する必要がある。全体を知ることが必要だ。
東京湾フェリーの例で、新造1年半で船底に穴があいてしまった。原因はスパナを落としたことによる電気腐食だった。また、ナットの応力集中による腐食や機関室に残る油の抜くプランを決めておく必要がある。
私は、“宗谷”の調査に関しては、いつでもご協力したいと思っている。
ただ、ここに提示されたMES特機の調査報告書は、悪いところを直すといくらかかる、といった報告書になっているが、その前にどういう方針でなにをどう補修するのかといったフィロソフィー(哲学)が必要だ。
この報告書の意見聴取をしたい。
事務局:それは可能だ。
細川:“宗谷”は今まで、ドックに入れた事はないのか?
事務局:そのとおりだ。
細川:板厚は計測しているのか?
事務局:計測はしているが、かなり荒いものだ。
徳永:MES報告書の最後の見積もり金額が、14億円以上というのは驚いた。
細川:まず、MESの報告書について内容を聞く機会を作ってほしい。続いて、できるだけ早い時期に、職員の方と共に現状の調査を行いたい。
MESの報告書には、ウィンドラスやキャプスタンの台座の交換や11m型救命艇兼作業艇の新換えも含まれているが、必要ないのでは?
事務局:11m型救命艇兼作業艇は、相当にひどい状態で、いつ崩れてもおかしくない状況なので、財団より提示したものだ。
細川:いろいろな点で、見た人の処方箋だから、一つ一つチェックが必要だ。
事務局:できるだけ早く、現状を精査して、見積もりを積算するための仕様書をまとめたい。細川先生には、ご足労いただいて、調査にご協力いただきたい。
池畑:MESの報告書のフィロソフィーをもう一度正すべきだ。
細川:保存・展示してゆくという観点から、見直さなければいけない。
徳永:けして自負するわけではなく、わが国の南極観測の事業は“宗谷”があって現在につながっていることを忘れないでほしい。







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