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3.2 隅田川に係わる調査結果
3.2.1 水域環境
(1)概要
 奥秩父の甲武信岳を源とする荒川から北区志茂の新岩淵水門付近で分かれて東京湾に注ぐ全長23.5kmの河川である。
 かつて、吾妻橋から下流は大川、浅草川とも呼ばれ、大川端は江戸から明治にかけて納涼や花見などの名所ともなった。隅田川にかかる橋はそれぞれ構造形式・色等変化に富んでおり、多くの人々に親しまれている。
 昭和30年代後半に、高潮対策のために高いコンクリートの塀がつくられたが、近年では防潮堤の全面が水辺を散策できるテラス護岸として整備されていたり、市街地の再開発等に併せて緩傾斜堤防やスーパー堤防の整備もすすめられている。
 
図−3.2.1 隅田川の位置
 
(2)隅田川水面利用の歴史
 水の都、江戸(東京)は日本の河川の中で舟運の広域性に最も富む利根川水系(荒川を含む)に属し、河川舟運が経済の動脈の役割果たす地域であった。
 隅田川は、関東一円に通じる日本最大の舟運規模を擁し、寛文年間(1661〜1673)の河村瑞軒による東廻り、西廻り航路が加わり舟運の一大拠点を形成していた。
 隅田川及び多数の運河沿いには多くの河岸や倉庫が建ち並び、運送業や旅客業が発展した。さらに屋形船や屋根船を利用した川遊び、釣り船や網船による漁、伝馬舟、渡し舟なども発展し、人々の生活に潤いとやすらぎを与えていた。
 大正、昭和にはポンポン蒸気と呼ばれる交通機関は、隅田川の渡しや隅田川下流と浅草の繁華街等をつなぐ重要な役割を果たしていた。しかし、陸路の発達に伴う橋梁の架設等により、現在では昔日の面影もない。
 また、舟運よりも古くから、木材の流送に隅田川は利用されていた。奥秩父で切り出された杉・松などの木材は筏に組まれて深川の木場まで流送されていた。これらも大正初年頃までは盛んに行われていたが、陸上交通の発達により衰退した。
 
(3)隅田川水面利用の現状
 流域の産業形態や都市構造の変化に伴い、隅田川は、舟運機能、洪水排水機能などの経済社会的機能と景観機能、特定のレクリエーションの場としての親水機能等を有する都市河川となっている。
 なかでも、沿川の観光資源を生かしたそれらをアクセスさせる水上バスや、東京湾と連携させ周遊する屋形船の就航等観光面での水面利用は定着している。
 
(4)橋脚別橋梁空間
 舟運の活用にあたっての物理的条件を本項では整理した。河川を航行する船舶が物理的に制限される事項は、大別して「河川内構造物(橋梁)による制限」と「水深による制限」がある。ここでは、荒川において船舶の航行が物理的に制限される箇所を抽出することを目的として、橋梁の桁下空間と船舶の諸元及び水深と船舶の諸元を整理した。
 対象とした橋梁は、表−3.2.1に示す隅田川に架かる36橋である(橋梁の位置は図−3.2.2に示す。)。比較の対象とした船舶の諸元は表−3.2.2に不すとおり代表的な船舶例として15パターンを設定した。
 
表-3.2.1 隅田川に架かる橋梁
No 橋梁名称 線名 No 橋梁名称 線名
1 勝鬨橋 晴海通り 19 桜橋  
2 佃大橋   20 白髭橋 明治通り
3 中央大橋   21 水神大橋  
4 永代橋 永代通り 22 営団日比谷線鉄橋 営団日比谷線
5 隅田川橋(高速9号線) 高速9号深川線 23 常磐線鉄橋 JR常磐線
6 清洲橋 清州通り 24 千住大橋 日光街道
7 新大橋   25 電力管  
8 高速6号線 高速6号向島線 26 京成本線鉄橋 京成本線
9 両国橋 京葉道路 27 水道管  
10 総武線鉄橋 JR総武線 28 荒川区町屋8丁目付近  
11 NTT専用橋   29 尾竹橋  
12 水道管   30 尾久橋  
13 蔵前橋 蔵前橋通り 31 小台橋  
14 厩橋   32 北区船堀4丁目付近  
15 駒形橋   33 高速王子線  
16 吾妻橋 浅草通り 34 豊島橋  
17 東武伊勢崎線鉄橋 東武伊勢崎線 35 新田橋  
18 言問橋 言問通り 36 新神谷橋 環状7号
 
表-3.2.2 比較に用いた船舶の船首とその船型
No 船種 トン数 船型(寸法m)
全長 型幅 マスト高 満載喫水
1 台船(1) 200t積 24.0 9.0 1.50 1.23
2 台船(2) 500t積 36.0 12.0 4.75 1.58
3 台船引船 15t積 12.5 4.1 4.50 1.40
4 バージ 500t積 32.0 7.7 3.20 2.90
5 バージ引船 - 15.8 4.3 3.00 2.10
6 土砂運搬船(1) 200t積 34.5 8.6 4.01 2.70
7 土砂運搬船(2) 300t積 38.2 9.4 4.33 3.00
8 土砂運搬船(3) 500t積 47.1 10.2 5.36 3.60
9 貨物船(1) 300t積 42.0 8.1 4.87 3.20
10 貨物船(2) 600t積 54.3 9.4 5.86 3.60
11 貨物船(3) 1000t積 64.0 10.4 6.10 4.20
12 タンカー(1) 200t積 31.2 6.5 3.48 2.50
13 タンカー(2) 400t積 41.4 7.8 3.90 3.10
14 タンカー(3) 600t積 48.9 8.6 4.29 3.50
15 内航コンテナ - 50.0 8.0 3.50 3.00
出典: 「港湾の施設の技術上の基準・同解説」日本港湾協会
「21世紀に向けた首都圏河川におげる水上交通ビジョン」関東陸運局(H3)
 
図−3.2.2 隅田川に架かる橋梁
 
 橋梁による制限では図−3.2.3に示すように、橋梁の桁下高さと船舶のマスト高さによる比較を行い、船舶の航行を制限する橋梁を抽出した。各橋梁の桁下高さは、表−3.2.3に示すとおりである。
 橋梁の桁下高さが船舶の航行の妨げとなる箇所は表−3.2.4に示すとおりであり、土砂運搬船(500t積)の航行を妨げる橋梁が1橋、貨物船(300t積)の航行を妨げる橋梁が1橋、貨物船(600t積)の航行を妨げる橋梁が7橋、貨物船(1000t積)の航行を妨げる橋梁が11橋ある。その他の橋梁においては代表的な船舶としてあげた15パターンは全て橋梁を通過し航行することができる。
 隅田川では、土砂運搬船(500t積)、貨物船(300t、600t、1000t積)の4つの船種は橋梁によって航行が制限される。特に千住大橋ではこれら4つの船種の全てにおいて航行が制限される。
 
図−3.2.3 橋梁の桁下高さと船舶のマスト高さによる航行の制限
 
表-3.2.3 橋梁の桁下高さ
No 橋梁名称 線名 桁下高さ
[A.P.+m]
No 橋梁名称 線名 桁下高さ
[A.P.+m]
1 勝鬨橋 晴海通り 8.3 19 桜橋   6.5
2 佃大橋   8.3 20 白髭橋 明治通り 5.4
3 中央大橋   8.5 21 水神大橋   7.0
4 永代橋 永代通り 5.5 22 営団日比谷線鉄橋 営団日比谷線 6.1
5 隅田川橋(高速9号線) 高速9号深川線 6.7 23 常磐線鉄橋 JR常磐線 5.4
6 清洲橋 清州通り 6.0 24 千住大橋 日光街道 4.5
7 新大橋   6.5 25 電力管   7.0
8 高速6号線 高速6号向島線 15.0 26 京成本線鉄橋 京成本線 5.70
9 両国橋 京道路 6.3 27 水道管   7.60
10 総武線鉄橋 JR総武線 7.2 28 荒川区町屋8丁目付近   6.3
11 NTT専用橋   7.20 29 尾竹橋   6.0
12 水道管   8.4 30 尾久橋   9.0
13 蔵前橋 蔵前橋通り 7.0 31 小台橋   6.0
14 厩橋   5.6 32 北区船堀4丁目付近   6.37
15 駒形橋   5.7 33 高速王子線   6.37
16 吾妻橋 浅草通り 6.7 34 豊島橋   7.2
17 東武伊勢崎線鉄橋 東武伊勢線 6.4 35 新田橋   6.0
18 言問橋 言間通り 6.7 36 新神谷橋 環状7号 8.0
注): クリアランスについては船種経験度等により巾があるためここでは単に桁下高さとマスト高の対比を行ったので実際の河川内航行に当たっては所要のクリアランスの確保が必要である。
 
表−3.2.4 橋梁の桁下高さが船舶の航行の妨げとなる橋梁
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