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2 議題5(避難水域)の審議結果
2−1 NAV48における検討の概要次のとおり。
(1)9日プレナリーでの審議
 フランス及びISUより、提案文書(NAV48/5,NAV48/5/1)の説明がなされた。スペイン、米国、英国、オーストラリア、ノルウェー、バハマ等が、フランス提案のガイドライン案(ISUからの同ガイドラインへのコメント提案を含む。)を原則支持するも、SAR条約との関係、現行の避難水域に係る各国間のagreementベースの活動との整合、Costal Stateが連邦制をとる国での実施の困難性等から、ガイドラインは、これら現行の枠組みを阻害しない柔軟なものとすべきとの意見をなした。一方、フランスが提案するMERCsについては、米国、オランダ、オーストラリア、バハマ、ノルウェー等が、特に、本件とSAR条約との関係から、現在のMRCC組織と二重のコンタクトポイントが存在することは、かえって混乱を招くのではないかとの意見をなし、サイプラス、トルコ等が当該組織の財政面の問題を指摘した。また、あわせて、多くの国が、人命、環境等の避難水域に係る関係者等の安全確保を指摘した。審議の結果、WG3に対し、プレナリーの審議結果を踏まえ、本件の詳細審議が付託された。
(2)WG3での審議
 プレナリーからの付託事項を受け、フランス提案のNAV48/5をベースに以下の主要な点が検討され、「援助を必要とする船舶の避難水域に関するガイドライン」及び「海上援助機関(MAS)の設置」に関する総会決議案を取りまとめ、MSCに対し、右決議案の承認とMEPCへの情報提供、及び23回総会での採択に必要な作業を要請した。
イ SAR条約との関係
 SAR条約は人命の救助を規定しているが、援助が必要な船舶への対応については規定していない点が指摘され、本ガイドラインは、人命には異常がないが援助を必要としている船舶を対象としたSAR条約を補完するものとの位置付けがなされた。
 更に、船舶が援助を必要とされている状況は、引き続く乗員の生命への危険に発展する点が指摘され、右のような状況に発展した場合には本ガイドラインに優先してSAR条約を適用することが確認された。
 また、WGはNAVに対し本ガイドラインをCOMSAR7に送付し、既存のSARの手続きと矛盾しないかどうか検討するよう要請している。
 本件に関連し、ガイドライン案「避難水域」の定義において、人命の保護が指摘されている点については、沿岸国の住民の保護を想定していることが確認された。
ロ 連絡窓口の設定について
 援助を必要とする船舶からの要請に迅速・的確に対応するため、沿岸国は連絡窓口を設定することが提案された。
 本件に関し、複数の国々では既にMRCCがその業務を行っており、当該機関に新たな名称を付与することは混乱を生じるとの意見があった。これに対し、当該業務を行なう機関が実態として存在すれぱ新たな組織を設立する必要がない点が確認され、更にMRCCは捜索救助の調整が本来目的であり、他方、当該連絡窓口は援助の要請に関する通信連絡と監視を目的とする点が指摘され、本件について責任ある機関が各国によって違うことを念頭におき、沿岸国が適切な対応を取ることを担保するため、RCCとは違う新たな名称を付与すべきとの意見が大勢を占めた。
 結局、WGにおいてはMAS(Maritime Assistance Service)との名称を付与し、各国は自国のMASの名称、電話番号等の詳細な情報を事務局に提出、右情報が各国に回章されることとした。
ハ 責任と補償
 援助を必要とする船舶が避難水域において沿岸国の安全や環境を阻害する事態を想定し、避難水域において生じた被害に対する補償と責任を合理的に担保する規定の必要性が指摘された。WGでは、本件は法的検討が必要とされる事項であるとの指摘があり、MSCを通じ、法律委員会に対し沿岸国が被害に対する補償を担保する方策について検討するよう要請することとした。
 更に、避難水域で生じる経費又は責任の担保を沿岸国の入域の条件とする規定を本ガイドラインに新たに盛り込む必要性が議論されたが、右は法律委員会が取り組んでいる責任と補償に関する一連の議論である旨の指摘があり、結局、MSCを通じ本件につき法律委員会からのアドバイスを要請することとなった。
ニ 危険評価
 国際サルベージ連盟は、昨年のカストール号事故における欧州各国の対応に関し、後日ロイズが行った調査結果によれば、当時、該船の沿岸国への入域は環境問題を含め何ら被害を生じる可能性はなかったと評価していることが紹介されるとともに、当時入域を拒否した殆どの国々が、該船を受け入れることで生じる被害発生の可能性に係る評価につき、該船に乗船しての詳細な現状調査や情報収集を行わずして右拒否を決定した点を指摘。よって、本ガイドラインでは、専門家が該船に乗船した上で情報収集し危険評価を行なうべき旨規定するとともに、右評価を行った後でなければ沿岸国は受け入れを拒否できない旨規定すべきとの意見を出した。
 これに対し、各国からは、当時の状況と提案の背景は理解するも、海上が荒天の場合には物理的に乗船が不可能な場合がある点、右は沿岸国に過大な負担と危険を強いることとなる点などが指摘され、評価と受け入れ拒否を関連付ける規定は合意が得られなかった。結局、実行可能でかつ時間が許す範囲で専門家が乗船の上評価を行なうとの規定振りとなった。
(3)12日プレナリーでの審議(WG3審議後)
 各国から、ガイドライン案及びMAS設立に関する総会決議案につき、WGの労を多とするも、本案は更なる検討が必要との意見が大勢を占めた。
 結局、今次会合においては、各国からのコメントをNAV48の最終報告にノートするに留め、今後の作業として次の点が合意された。
イ WGの報告をノートする。
ロ 右報告を次回MEPC、MSC、LEG、及びCOMSARに送付し検討を要請する。今後の取り扱いについては、MSC76においてWGを設置して検討するか否かについてを含め、MSCの決定に委ねる。
ハ 次回NAV49において最終的な検討を終え、2003年の第23回総会での採択を目指す。
 なお、12日プレナリーでの各国の発言要旨次の通り。
A 豪州
沿岸国の権利についての規定、及び新たな機関MAS設立の必要性につき、更なる検討を必要とする。
B バハマ、マーシャル諸島、カナダ
 ガイドラインの規定振りに関し、重複した規定やエディトリアルな修正点が複数あり更なる検討が必要。
C アルゼンチン
 本ガイドラインはそもそもボランタリーなもののはずが、各所に強制的な規定振りがあり修正を要する。
D パナマ
 本件は各国にとって重要な案件であり、作業計画に規定された2003年の成立に向け、次回MSC76において新たなWGを設置設置した上での検討を含め、早期採択に努力すべき。
 また、危険評価に際しては、隣接国に与える影響も考慮した規定振りとすべき。
E フィリピン、シンガポール
 本件に関しては、「責任と補償」及び「財政的担保」が最も重要なポイントであり、その解決が先決。
 
2−2 所見
 本ガイドラインの適用につき気付きの点次のとおり。
(1)WGにおいては、ガイドラインは何ら強制力がなく、実際に本ガイドラインをどの程度適用するかについては、各国に委ねるとの認識である。他方、IMOでの議論に関する限り本ガイドラインの成立を早期に実効すべき案件の一つと位置付けられており、今後、わが国における本ガイドラインの適用については今後各国の動向も踏まえながら検討していく必要があるものと思料する。
(2)特に、本ガイドライン案は、荒天による緊急入域も含むと読める規定振りとなっており、わが国に緊急入域する船舶に本ガイドラインをどのように適用していくのか等具体的な対応を検討することも必要かと思料する。(提案国の仏によれば、本ガイドライン案策定の段階では荒天による緊急入域は想定しなかったとのことであり、今後、IMOの場において本件を含むとするかどうかの確認の必要性もあるものと思料する。)
(3)また、本ガイドラインは、危険評価のための具体的な事項を規定するなど、詳細にわたる内容となっているところ、当庁の業務との関連も含め検討していく必要があるものと思料する。







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