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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992年6月号 『諸君!』
抱腹絶倒!金日成八十歳記念
日本人名士の「朝貢」と「祝辞」
林 建彦
 
 この四月十五日は一部に喧伝された如く、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金日成・国家主席の八十歳の誕生日に当った。自民、社会両党は、(1)国家元首とはいえ、その誕生祝いに国会議員団を送り出すのは前例がない(2)しかも北朝鮮はなお国交をもたない国である――とする国会内外のきびしい批判をしり目に、四月十三日には平壌直行の特別チャーター便を仕立て「金日成主席の傘寿」を祝う訪朝使節団をそれぞれに送り出したのだった。
 祝賀だけの自民党はともかく、この機会に金日成主席、あるいは金容淳党書記(国際部長)との政治会談をもち、核査察受け入れの時期を明確にする――と気負うところのあった田辺社会党委員長にとっては、金日成主席との数分間の立ち話や、帰国の日十六日ギリギリ実現した金容淳書記との申し訳ていどの会談に、その思惑ははずれ放し、友党社会党とは名ばかり、終始コケにされた思いの訪朝だった。しかし北朝鮮からみれば建国いらい最大の慶祝に沸きたつさ中、政治会談とは無粋な話、まして含むところの多い核問題など持ち出されてはとばかり、ひたすら肩すかし戦術に出たのである。
 それにしても、韓国の副首相、外相ら主要閣僚をはじめ二十一人を爆殺した八三年のラングーン事件。乗員・乗客百五十人の生命を印度洋上で瞬時にうばった八七年の大韓航空機事件を通じて、国際的テロ国家の烙印を押された北朝鮮。そしてさらに八五年に核不拡散条約に加わりながら、加盟国の義務である核査察協定の調印、批准を六年余にわたって拒否しつづけてきた世界で唯一つの例外国家北朝鮮。そうした名うての国への、自・社両党の無定見な“相乗り”ぶりは、ロッキード事件いらい、どこかが“狂い始めた”日本国会の断面をのぞかせるものだった。
「接見」に感激した人々
 これより先の二月十日、金日成主席傘寿記念出版刊行会の名で『主席、金日成』が刊行された。A4判大、赤い布表紙に「主席、金日成」と金色文字が刻み込まれた七百七十四ページの大冊である。外見、内容ともに一見して異色ずくめ。一金、参萬四千円也の超高価本ゆえに、ふつうの読者の目には触れるところとはならなかったが、一読するに及んでたちまち金日成主席の北朝鮮という国家が、尋常な国がらの国家ではないことが判明してくる仕組みの大冊なのである。
 大冊『主席、金日成』は、刊行の意義に触れた自民党の金丸信副総裁、社会党の田辺誠委員長ら、日朝関係には欠かせない常連十二人の顔ぶれによる「特別寄稿」についで、第一部「金日成主席接見記集成」、第二部「金日成主席革命活動史」(朝鮮労働中央委員会党歴史研究所編、党の一字脱落―注)から成り立っている。
 第一部に名を連ねる人びとは、今は故人の成田知巳・社会党委員長、美濃部亮吉・都知事、飛鳥田一雄・横浜市長(後に社会党委員長)、朝日新聞・後藤基夫編集局長、読売新聞・高木健夫編集顧問をはじめ、今なお現役で活躍中の国会議員、大学教授、出版社社長、新聞記者ら四十七人である。
 顔ぶれを一見しながらまず目につくのは「接見」の二文字である。試みに広辞苑によれば、接見とは「身近に就き入れて会うこと」「引き入れて対面すること」となっている。第一部はまさしく金日成主席が「近こう(ちこう)寄れ」と四十七人の日本人を引き入れて、対面なされたという趣向から成り立っている。
 四十七人の中には、“接見”がにつかわしい人物も散見するが、日本人の通常の語感からすれば「会見」でなければならないのである。とくに朝鮮労働党と友党の社会党成田委員長の場合は、労働党総書記・国家主席金日成との“会談”として位置づけられるのが筋というものである。
 ところが「最もすぐれた人民の指導者」と銘うった成田委員長の手記は、のっけから「主体思想を創始し、朝鮮人民を勝利と幸福に向けて確信をもって導いている金日成主席に接見する有意義な機会にめぐまれた」と書き始め、前後二回にわたった社会党代表団を率いての委員長と金日成主席の会談が、対等の会談でなく“接見”であったことを自認してしまっているのである。
 接見記はつづく。「接見場は、二回とも主席の執務室だったと記憶している。わたしは最初の接見から思いがけないことにぶつかった」と“接見”の文字をくり返しながら、「すべての革命家の指針となる闘争の教科書」と絶賛する二論文にたどり着く。『資本主義から社会主義への過渡期とプロレタリアート独裁の問題について』『わが国における社会主義農村問題にかんするテーゼ』の金日成二論文である。
 二論文を通じて、金日成主席は「過渡期とプロレタリアート独裁の問題について、独創的で科学的な解明を与え、社会主義の難問題である農村問題を、この国朝鮮で真っ先に解決している」というのである。
 七九年三月に亡くなった成田委員長は幸せだった。北朝鮮における過渡期の問題が、社会主義にあるまじき、金日成父子の権力世襲に堕ち込み、農業不振と農村の行詰まりから“一日二食運動”で食糧難をしのがなければならない、社会主義朝鮮の現実を見ることなく、さらに又自ら記した接見記の破綻に直面することもなく、亡くなったからである。
 接見記は「主席のお言葉と、温い配慮には目がしらが熱くなった。金日成主席は実に慈愛にみちた人情味豊かな指導者である。日本には偉大なすぐれた政治家、指導者がいない。金日成主席のように偉大な指導者、すぐれた人民の指導者のもとにある朝鮮人民は実に幸せな人民であると思う」と結ばれていく。
 これが一九一二年生れ、まさしく金日成主席と同年の日本社会党委員長の会見記ならぬ接見記を貫くトーンであり、それは又第一部「金日成主席接見記集成」全編に共通したトーンでもある。
 
 
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