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私はこう考える【北朝鮮について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001年12月号 『中央公論』
ブッシュ勝利で苦境に立つ二人の「金」
重村智計
◆悪化する米韓関係
 ブッシュ米大統領の登場に、最も驚愕しているのは韓国の金大中大統領であろう。韓国内の野党と批判勢力が勢いづくからである。日本ではほとんど知られていないが、韓国での金大中大統領の支持率は急速に落ち込んでいる。ノーベル平和賞の受賞を祝う雰囲気は、国民のあいだにはもはやない。ブッシュ政権の発足と経済悪化で、どうやら韓国政局の混乱は必至だ。
 金大中政権には、ブッシュ政権の外交・安保政策の立案者と個人的に親しい高官はまったくいない。韓国でブッシュ政権の高官と共和党議員に深い人脈を有するのは、野党議員の韓昇洙元副首相(元駐米大使)しかいないのが実情だ。
 米共和党の保守派には、朝鮮問題に精通している人々が少なくない。彼らは、金大中大統領の「太陽政策」を、金正日総書記の「統一革命戦略」を手助けする政策と批判している。また、金大中政権のマスコミ政策を「言論弾圧」とも指摘している。金大中政権の主要閣僚を、北朝鮮のエージェントとする見方もワシントンの情報関係者のあいだでは広がっている。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記も、ブッシュ大統領の北朝鮮政策を警戒しているはずだ。ブッシュ政権の朝鮮半島政策立案者たちが「宥和策は取らない」と明言しているからだ。クリントン政権の政策を「譲歩し過ぎた」とみており、核とミサイルには「代償を与えない」政策の堅持を原則にしている。当面は、米朝関係の後退は避けられない。米国のブッシュ政権が、北朝鮮政策に本格的に乗り出せるのは、今年の秋からになる。新政府の外交スタッフがそろうには、かなりの時間がかかりそうだ。さらに、大統領選挙で米国内が真っ二つに分裂した結果、対外政策よりも国内政策を優先せざるをえない状況にある。四年後の大統領選挙を考えれば、国内融和と支持の拡大が最優先される。
 大統領選挙をめぐる国論分裂は、南北戦争以来である。「United statesではなく」朝鮮半島のような「Divided Statesになった」との指摘もあった。共和党は、黒人票のおよそ九〇%が民主党のゴア候補に流れた事実に驚愕した。ブッシュ再選のためには、アフリカ系アメリカ人(黒人)を中心としたマイノリティー対策が、最大の課題になる。このため、アフリカ系アメリカ人のコリン・パウエル元統合参謀本部議長を国務長官に任命し、黒人女性のコンドレッサ・ライス・スタンフォード大副学長を大統領補佐官(国家安全保障担当)に据えるとの方針が早くからリークされた。ライス副学長は米ソ関係の専門家であった。米ソ対立の時代に「米ソの関係がいかに悪化しても、戦争に至らないシステムを追求するのが、国際政治研究の意義である」と強調した。彼女は、黒人教育者として知られた父親に小学校の頃ホワイトハウスの前で「おまえも大きくなったら、人の役に立つためにここで仕事をするのだよ」と言われた記憶を今も大切にしている。
 この二人が、朝鮮半島政策はもとよりアジア政策を立案する。日本と韓国重視の政策を明らかにしており、ブッシュ政権は中国と北朝鮮に強硬な姿勢を当初は打ち出すことになる。
 新大統領は、遅くとも今年の十月までには新しいアジア政策と北朝鮮政策を打ち出す必要に迫られる。十一月には、中国の上海でアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれるからだ。中国に対する姿勢がこの時に問われると同時に、アメリカ大統領の訪朝問題が再び検討されるだろう。
 新大統領がどのような政策を打ち出すにせよ、今世紀の初頭に、在韓米軍の主要な部隊が撤退する可能性はきわめて高い。アジアにおける米軍兵力一〇万人維持の政策は、国内的には限界に直面している。すでに、米国防総省は在韓米軍の削減と撤退について、検討を始めたと報じられている。米共和党保守派の重鎮として知られるヘルムズ上院議員は、南北首脳会談直後から在韓米軍撤退を主張している。二十一世紀初頭に、アジアにおける米兵力のプレゼンスが減少するのは時間の問題であろう。在韓米軍の撤退が日米同盟関係に重大な影響を与えるのは、間違いない。
 韓国では、昨年の南北首脳会談以降、「反米」「在韓米軍撤退」の運動と感情が広がっている。また、首脳会談で金大中大統領が「在韓米軍の国連平和維持軍への移行」を提案した事実に、ワシントンの安全保障専門家は文字通り驚愕した。「米韓同盟の解消を意味するからだ」(ビル・ドレナン米平和問題研究所部長)。国運平和維持軍は、中立の立場を求められる。ということは、金大中大統領は米国に同盟を解消し「中立」を求める構想を示したことになる。
 こうした韓国の世論と、金大中大統領の在韓米軍に関する発言から、米国防総省関係者の間では「南北首脳会談を、後になって歴史的に振り返ると、在韓米軍撤退の始まりであったということになる」との認識が真剣に語られるようになった。同時に、アメリカに相談なく勝手に在韓米軍問題についての構想を打ち出し、発言する金大中大統領への不信が強まった。ブッシュ新政権内には、金大中大統領を親中派とする見解も出ている。米韓関係には、すでに同盟解消の芽が生じているのである。その意味では、金正日総書記の首脳会談戦略はきわめて有効な成果をあげていることになる。
 金大中大統領への不安と不信が、オルブライト国務長官の昨年十月の北朝鮮訪問を必要としたのである。一方、北朝鮮はこの機会を利用して米大統領の訪朝を実現しようと働きかけた。クリントン訪朝を実現し、日本を動かそうとした金総書記の目論見は、結局は実現しなかった。
 
 
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